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20 悪あがき

「はっ、ははっ、あはははははっ!」


 これで勝負は決した。


 誰もがそう思ったとき、代官は突然立ち上がると狂ったように笑い始めた。


「貴様! いったい何がおかしい!」


 代官の異常な様子を察したルークが姫様と代官との間に入って鋭い眼光を飛ばす。


「こんな小汚い小僧が巡察使のはずがないわ! すべてがまやかし、すべてが狂言であるとすれば合点がいくというものよ。皆の者、こやつらは第二王女殿下の名を騙る偽物だ! 王家を騙る極悪人であるぞ!」


「なにっ!」


 ルークが腰に下げていた剣を抜く。


 しかし、そのわずかな時間で代官は後ろに控えていた兵士たちの中に入り込んだ。


「奴らは賊徒ぞ! すぐそこに我らの援軍も来ている、一気に蹴散らすのだ!」


 さっきまでのやり取りを見ていた先頭の兵士たちはどうしたらよいのか迷っているようだ。


 しかし、集団の後方にいた兵士たちは俺たちのやり取りが見えていない。


 代官の言葉によって再び武器を手にし始める。


「あらあら、困ったことになりそうですわね」


 姫様がおっとりした声色で言う。


 いつもながら何があっても動じない、いや、むしろ楽しみにしているといった余裕すら感じさせる。


 その一方でルークとエレンは『姫様、おさがり下さい』とその前に躍り出た。


 仕方がない、俺たちも腹をくくらなければならないだろう。


「姫様、村人たちは混乱しております、下知を」


 聡い姫様は俺の意図を即座に見抜いたようで、一つ大きく息を吸うとその場にいるすべての村人に届く透き通った声で言った。


「村の者たちよ。レグナム王国第二王女、ユーフィリア・ラ・レグナムが命じる、王家に歯向かう目の前の逆賊を打ち倒しなさい、これは勅令である!」


 何度も言うが勅令は国王陛下の命令なので本来の意味ではないが、この際細かいことはいいいだろう。


 もしもこの場に国王陛下がいらっしゃったとしても同じことを言われるだろうし些細なことだ。


「王女殿下直々のご命令だ、逆賊を倒すぞ!」

「この村を守れ!」


 こうして第2ラウンドが始まろうとしたのだが……。


「キヒヒヒ、ヒメさまぁ~、ヤって、ヤってしまってもいいんですよねぇ~?」


 姫様の後ろに控えていたメイド服を身に纏った猫背で小柄な年齢不詳の女性が姫様に近づくと地の底を這うかのような低い声で言った。


 長い黒髪で顔の右半分は隠れてしまっている。


 女性の顔色は白を通りこして蒼白。


 血が通っているとは思えないほど生気が感じられなかった。


「ヒルダさん、やっぱりついてきていたんですね……」


 あまりの存在感のなさに俺はようやくその存在に気づくことができた。


 代官の増援が気になるところだったが彼女がいれば増援の100や200はまったく問題にならないだろう。


 なぜなら彼女はかつてこの大陸を震撼させたと言われている凶悪な魔法使いで何があったのかは知らないがこの国で捕縛されたという経緯があるのだ。


 その彼女はどういういきさつがあったのか今や姫様専属のメイド兼護衛として傍にいたりする。学院時代に何度か会ったことがあるが相変わらず何を考えているのかよくわからない人だ。


「仕方がありませんね、ただし、ほどほどに」


「イヒヒヒヒぃ~、善処いたしますぅ~」


 あっ、これはぜんぜん聞く気がないな……。


 俺は代官の保身のために犠牲になるであろう兵士の皆さんに心の中で手を合わせた。






「くそうっ! いったいどうなっているっ!」


 ヒルダさんが放った魔法『ダーク・イリュージョン』が兵士の集団の中に叩き込まれるや兵士の皆さんはある者は狂ったように剣を振り回して近くにいた仲間の兵士たちを斬り付け始めた。


 かと思えば泡を吐いて卒倒する者、うずくまって怯えだす者、人目をはばからず泣き出す者たちが続出し、もはや戦闘集団としての体をなしていなかった。


 魔法の影響を受けていなかった周りの兵士たちも目の前のあまりの異様さにすっかり戦意を喪失している。


「今だ、逆賊を打ち取れ!」


 そんな隙を逃さまいと俺たち自警団の面々は代官を捕縛しようとその距離を縮める。


「ええい、やむを得ん……」


 代官は近くの馬に乗ると一目散にこの戦場から離脱を始めた。


 あの身体で馬に乗れるのは意外だったがそれを考えるのは後だ。


 俺もそこらにいた乗り手のいない馬を捕まえて鞍にまたがる。


 こうして馬に乗るのは学院での授業以来だが何とかなるだろう。



「ブラン、わたしたちも一緒にいくわ」


 そう声を掛けてきたのはマーガレットだった。


「早く、奴を逃がしてしまいます」


 マーガレットに付き従うリセルさんも馬に乗ったままそう声を掛けてくれた。


 1人ではさすがに不安だったがこの二人がいれば何とかなるだろう。


 俺たち3人は馬を駆って代官を追いかけた。

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