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18 魔法戦

 俺たちは慌てて村の入り口へと戻った。


 燃えていたのは村の入り口にある倉庫だ。


 木造の建物が炎を上げて燃えていた。


「ふはははっ! 燃やせ燃やせ! 抵抗する者は火あぶりだっ!」


 劣勢だった代官配下の兵士たちは後ろに後退し、前に出てきたのは10人前後の軽装の兵士たちだった。その手には杖が握られている。


「魔法使いかっ!」


 その手から放たれたのは燃え盛る火の玉。


 これまで魔法を使う相手とはろくに戦ったことがなかったのだろう村人たちは明らかに動揺していた。


 混乱に乗じて再び兵士たちがこちらに侵攻しようとしている。


「ミスリル合金の盾持ちは前に出ろ! その盾は魔法を弾く!」


 俺はそう声を張り上げた。


 ミスリル製の盾は魔法防御力が高いとされている。


 しかし、普通の人はそんなことは知らないからそのことをはっきりと伝えた。


「よし、盾を持ってる野郎ども、こっちに集まれ!」


「何がミスリル合金だ、そんなものをお前らが持っているわけがないだろう! かかれ! 賊徒どもを焼き討ちにしろ!」


 再び魔法使いたちの手から火の玉が放たれる。


 おそらく初級クラスの魔法だろうが、戦闘を生業にしない俺たちからすればこれだけでも十分な脅威になる。


 しかし、やはりそのクラスの魔法だったことは今回幸いすることになった。


 ミスリル合金でコーティングされた盾は放たれた火の玉の魔法をなんのことはないようにあっさりと受け止め、かき消した。


 その跡には何も残ってはいない。


「こいつはすげーぜ。あの魔法を消しちまった」


「くっ! そんなバカなことがあるかっ!」


 代官は歯噛みして悔しがる。


 俺はその間に水魔法の効果を持つマジックボールを使って燃えていた倉庫の消化活動を始めた。


 以前から開発を続けていたが特定の種類の効果が発生するものであれば安全に運ぶことができるものを用意することができていた。


 その中の一つがこの水系統のマジックボールだ。


 残念ながら火系統のマジックボールは安全面からまだまだ開発途中だが今回は用意できていたものをうまく使うことができた。


 このまま代官たちの軍勢を押し返すことができるかと思ったそのとき、荒野の彼方から何かがやってくるのが見えた。


「おおっ! 待っていたぞ!」


 代官がはしゃぐようにそう声を上げる。


 その遠くからやってきたのは兵士たちの増援だった。


 その数は数百にもなるだろう。


 今俺たちの目の前に控えている兵士たちの倍以上の規模だった。



「まさかあんなに数がいるなんて……」

「ひるむな、俺たちは負けちゃいない」

「そうだ、最後の最後まで戦うぞ!」


 自警団の中にもさすがに弱気な声を出す者も出始めた。


 くそうっ、このままではマズイ。


 こんな奴に膝を屈さないといけないのか!


 これまでかと思ったその瞬間、不意に空が陰り、日差しが遮られた。


「なんだ?」


 時間はまだお昼を過ぎたばかり。


 雲が出たわけではない、空はさっきまでと同じ真っ青なままだ。


 ただ、唯一、さっきまでと違うのは、ちょうど太陽と重なるように空を飛ぶ何かがその光を遮ったのだ。


 鳥か?


 空飛ぶドラゴンか?


「いや、あれは飛空艇だ……」


 王都にいるときに何度か王家所有の飛空艇を見たことがある。


 あの形は間違いなくそのときに見た飛空艇と同じものだ。


 ユミル村の村人だけではない、代官も代官に付き従う兵士たちも初めて飛空艇を見たのだろう。


 さっきまで戦闘中だったということを忘れてみんなが空を見上げていた。



「降りてくるぞ!」


 誰が言ったのかその言葉の通り、はるか上空、小さく見えていた飛空艇は徐々にその姿が大きくなっていく。



 ――ゴウンゴウンゴウン



 聞きなれない飛空艇の動力音。


 徐々にその音を大きくしながら俺たちと代官たちがにらみ合う場所から少し離れた荒野のど真ん中にその飛空艇はゆっくりと降りてきた。

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