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閑話1 誤算

「税収があがらないだと? どうなっているんだ!」


 アムレーの街の代官邸。


 執務室でふんぞり返っていたその館の主は報告に来た事務担当者を怒鳴りつけた。


「しかし、いきなり入場料を10倍にするというのはやり過ぎです」

「うるさい! 下賤な冒険者どもなどは絞りとってやればよいのだ。冒険者がダンジョンに入らないというのであれば兵士どもにダンジョン内の宝を回収させろ!」

「あのダンジョン内の魔物は強すぎます! 1階層からCランクの魔物が現れる高難度ダンジョンです。兵士たちではとても歯が立ちません!」


 アムレーの街ではその周辺の魔物退治は冒険者がしていたため兵士たちは対魔物戦闘の経験が冒険者たちほどなかった。


 それだけではなく本来兵士の装備に使われるべき予算はこの代官によってまったく別のことに使われていたため兵士たちの装備は耐用年数の過ぎた旧式のもので、その整備すらまともにできていないものだった。


 それでも問題なく過ごすことができたのはこの辺境ではよほどのことがない限りお上に立てつくような者たちがおらず、辺境で貧しいがゆえに動く物資も少なく盗賊たちからも幸い狙われることが少なかったからである。


 さらにこの様な代官が上司であるため、ろくな訓練もされておらず兵士たちの士気の低下も著しいものがあった。


 それに拍車を掛けたのが兵士たちに支給されていたポーションである。


 アムレーの街では今や粗悪品のポーションのみが流通していたため兵士たちに支給されるものも同じものとなっていた。その粗悪品のポーションは兵士たちから無理をしてでもダンジョンを探索しようという気概を完全に失わせていた。


「それならいっそ、他の領民たちから徴収する税を上げるか」


「お待ち下さい。そんなことをすれば……」


「いや、取れるところから取るのは統治の鉄則だろう。下賤な民たちもわたしたちの役に立てるのであれば喜んで税を差し出すというものだ」


「しかし、その様な勝手は許されませんでしょう。それに聞くところによると第二王女殿下が特別巡察使として国中を回っているという噂です。今のところ取り潰された者はいない様子ですが被害を受けた者はかなりの数にのぼるとか」


「第二王女殿下か……」


 代官は思案する。


 ここは王家直轄領であるため当然のことながら王家に歯向かうことは論外だ。


 しかし、第二王女は対外的には人当りがよくお淑やかだと思われていることもあって、代官は王家に取り入ろうとする領主たちが第二王女の実績作りのため、敢えて追加の徴税に応じているのだと高を括った。



(わたしであればあんな小娘、どうとでもなる。しかし、いざというときの備えは必要かもしれないな……)



 代官が思慮に耽っていると他の事務担当者が執務室に駆け込んできた。


「代官様、ただいま来客がありました。商人の方が御目通りを願っております」


「なんだ? 今は忙しい、そんなものは後にせよ!」


 代官は顔を向けることなく手で追い払うような仕草をした。


「それがまずは手土産をとこんなものを……」


 事務担当者はそういって包みに入った一抱えもあるものを代官の前に差し出した。


「なんだそれは?」


「話によると何か貴重な品だとか……」


 代官はテーブルに置く様に指示するとその包みを剥がしていく。


 すると――



「ほお、これは見事な置物だ」


 細かい細工のされた金細工で、おそらくはドラゴンであろうか。


 そんな生物を模した置物で応接室に置くとその部屋が一際映えるだろう代物だ。


「いいだろう、会ってやろうではないか」


 代官はニヤリと笑うと二人の事務担当者を執務室から追い出し、訪問客の相手をすることにした。

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