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9 懸念

「ブランくん、大変なことになった!」


 まだまだ夏の盛りで暑さの続く午後の昼下がり。


 工房でぼや~っと店番をしているところに村長さんが駆け込んできた。


「どうされました? たしか今日は朝から街へ行かれていましたよね?」


 街の道具屋にうちの商品を納品してもらうため馬車に積み込んだのが昨日だったから間違いないはずだ。


「それが道具屋が言うには街ではきみの作ったポーションを扱えなくなったそうだ」


「え゛っ!?」


「きみのポーションだけじゃない。街では『ある工房』のポーションしか扱ってはいけなくなったそうだ」


「ある工房の……ですか?」


「ああ、なんでもガリウス工房というらしい。街ではその工房以外のポーションは扱えなくなったそうだ」


 ガリウス工房、どこかで聞いたことがあるな。


「しかしどうして急にそんな話に……」


「どうやら代官様の命令らしい。詳しいことはわからないが街では冒険者ギルドで混乱が起きている」


 そうだ、思い出した!


 たしかこの前、マーガレットたちが話していた粗悪品のポーションを売っているという工房だ。この辺りの工房ではないらしいが、いったいどうしてそんなことになったんだろうか?


「街で、ということはこの村では引き続き売ってもいいんですか?」


「ああ、今のところわたしのところには特に命令はきていないしな。そもそも代官様はきみのことをきちんと把握しているかも怪しい」


「そうなんですか?」


「自分の管理する地域で営業している錬金工房があれば普通は考慮するだろう。その工房が自分たちに税金を納めるわけだからな」


 ユミル村では村長さんが徴税を行い、その一部をこの村を含むこの辺り一帯の王家直轄領を管理している代官に納めている。


 だから普通であれば王家直轄領で営業しているうちの工房にとってマイナスとなることはしないはずなのだ。


「よほど管理ができていないバカか袖の下でももらっているクズでしょう。どっちにしても碌な奴じゃないわね」

「マーガレットか」


 村長さんとの話に割って入ってきた彼女の名前を呼ぶとマーガレットは入口から工房の中へと入ってきた。


 たしか1週間前くらいから再びダンジョンに潜っていたはずだが戻ってきたのだろう。


「話は聞いたわ。ホント、無能が上に立つと大変よね」


「そこはまあ、ノーコメントにしておこう。で、今日はどうした?」


 憤然とした表情を浮かべるマーガレットにそう声を掛ける。


「化粧水が切れちゃって。それでブラン、どうするの?」


「今のところ影響は限定的だろう。しかし、あの代官だとこれからが心配だな……」


 下手をすると今度はこの村を含む王家の直轄領全体で販売制限をされかねない。


 それどころか何か突拍子もないことをしでかさないか心配になるレベルだ。。


「でもそこまで深刻になることはないわよ。もしブランがこの村で商売できなくなったらわたしがもっといいところを紹介してあげるわ」


「いいところ?」


「ええ、とってもいいところよ」


 にっこり微笑んだマーガレットに深入りすることなく化粧水をお買い上げいただいた。

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