2 凄腕の鍛冶職人
「で、その鍛冶工房の場所は教えてもらえたのかい?」
「ええ、街の近くの山をひと山越えたところに凄腕の鍛冶職人さんがいるらしいんです」
「そう言われてみれば聞いたことがあったかもしれないな」
街から村へと戻る馬車。
御者をする村長さんに鍛冶工房の店主さんから聞いた話をした。
その山の奥深くに住む鍛冶職人さんはかなり偏屈な人らしい。
ときどき作った武具を街に売りに来るそうなのだが、その武具はとても品質が良く、高値で取引がされるそうだ。
店主さんが言い淀んでいた理由。
それはその職人さんは自分の好きな物を作るだけで外部からの仕事はまず受けないという人だったからだ。
そんな訳で今やその人は知る人ぞ知る存在となっていて知っているのは鍛冶職人か武具に詳しい人くらいなものらしい。
村長さんの記憶に残っていないのも無理はないだろう。
ちなみにその人は時折ふらっと街に来て自分が作った武具を売ってそのお金で街で買い物をして帰るらしいが買って帰るものはその大部分がお酒らしい。
「たしかその人は……」
「ええ、ドワーフらしいです」
ドワーフはいわゆる亜人種と呼ばれる種族だ。
この国は人族の王様が治める国ではあるものの亜人種がまったくいないわけではない。
ドワーフは鍛冶や物づくりの技術に優れた種族で王都にある王家御用達の工房にもドワーフの鍛冶職人がいると聞いたことがある。
亜人種は他にエルフや獣人といった種族がいて基本的には同じ種族で集まり国というかコミュニティーを作って生活している。
「まずはそのドワーフの鍛冶職人に頼んでみるのがいいだろうね。ダメなら別の方法を考えればいい」
「となるとやっぱりお酒か……」
ドワーフはお酒が好きな種族として知られている。
勿論、個人差があって人によりけりなところはあるのだろうが、このドワーフの職人さんは街で買い込んで帰るくらいだからお酒が嫌いということはないだろう。
「お酒のことならオットーに聞けばいい」
オットーさんは宿屋兼食堂のご主人でレナちゃんのお父さん。
主に料理を担当しているので食材や料理だけでなくお酒にも詳しいそうだ。
そんなわけで村に戻ると直ぐにオットーさんに相談しに行くことにした。
「ドワーフが好きな酒といったらやはり火酒だろうね」
「火酒?」
夕食の仕込みが終わって時間の空いたオットーさんに話を聞くと聞き慣れない単語が出てきた。
「ああ、火酒というのはアルコール度数が高いお酒のことだ。エールや果実酒の度数は10%以下なのに対して火酒は30%から50%くらいのものが多いな」
街で売られているのは主に穀物から作られた透明であまり癖のないジーンと呼ばれるお酒らしい。
そういえばお酒を造るのにも錬金術師が関わることがあることを今さらながら思い出した。
師匠に教わったときはまだ俺がお酒を飲むことができる年齢ではなく興味もなかったのでそれほど印象に残っていなかったが、お酒を造るときに蒸留という手法を使うことがある。
この蒸留という手法は歴史が古く、その発生は初期錬金術にまで遡る。
当時の手法は魔力を使わない今でいうところの化学的な手法ということになるのだろうが、今は魔力を使って錬金術師が錬金スキルを使って行うこともできる。
もっとも、現実には特に大手の酒蔵ではコストの問題から錬金術ではなく初期錬金術を発展させた化学技術を元に大規模な設備を作って効率よく生産をしているのが現状だ。
そんな訳で酒造りの分野では錬金術師が活躍しているという話をあまり聞くことはない。
「それなら街でそのジーンというお酒を買ってそれを手土産に訪ねてみようと思います」
「うん、それがいいだろうね」
そんなわけで、俺はお酒を手土産にしてそのドワーフの鍛冶職人さんを訪ねてみることにした。




