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閑話2 心付け

※ 第三者視点です

 辺境にある王家直轄領。


 ここアムレーの街の代官邸を一人の男が訪ねてきていた。


「して一体どのような用件だ?」


「へっへっ、あっしはガリウスと申しましてガリウス工房というケチな錬金工房を営んでおりやす。今日はお代官様にご挨拶をと」


 応接室で向かい合う二人の男たち。


 ガリウスと名乗った男は背の低い猫背の男でニヤニヤと笑みを浮かべながら手に持った包みを二人の間にあるロ―テーブルの上に差し出した。


「これは?」


「たいしたものではございませんがご挨拶とお近づきの印に、と」


 代官が紙の包みを開くと中には木箱が入っていた。


 その木箱の蓋を開けるとお菓子だろうか、茶色をした焼き菓子が敷き詰められていた。


 これは辺境伯領の領都で流行りのお菓子だ。


 それを見た代官は特に表情を変えずに「後で皆といただこう」とだけ一言。


 そんな代官の態度を見た男は箱の中のお菓子を一つ手に取る。


 そんな男の行為を代官は訝しく思ったものの次の瞬間、その目を大きく見開いた。


 お菓子の下。


 箱の底から黄金色に輝く金貨が顔を覗かせた。


「ほう、これは大変美味しそうなお菓子じゃないか。ガリウス殿といったな、殊勝な心掛けじゃないか」


 代官はそう言うとその口元を三日月型に大きく歪ませる。


「恐れ入ります。ところでお代官様、独り言を言ってもよろしいでしょうか?」


「ああ、何でも言いたいことを言うがいいぞ」


 代官は男の顔を見ることなく、箱に詰められているお菓子を除けて箱の中身を確認するのに夢中だ。


「我が工房では主にポーションを生産、販売しておりまして。このアムレーの街に進出したいのですがこの街に流通するポーションを我が工房のポーションのみとしていただきたいのです」


「…………」


「調べたところ、この街には錬金工房はなくこの街以外から仕入れているとのこと。そんな不安定な流通では民も安心できないでしょう」


「…………」


「我が工房は責任をもって確かな品質のポーションの流通をお約束しましょう。つきましてはこの街で流通させるポーションの独占権をいただきたく。勿論、お代官様への定期的な心付けは忘れませんのでご安心を」


 ガリウスはちらりと代官の顔を見る。


 代官は顎に手を当てると落としていた視線を今度は上に向けて天井を見上げた。


 何かを考えているようだ。


「これはわたしの独り言だが……」


「!?」


「この街には保護するべき錬金工房はない。思うにポーション販売の過当競争は最終的には錬金工房の体力を削ぎ、その結果最終的には却って良質なポーションの生産や流通を阻害することになるだろう。この街では私が免許を与えた工房のポーションのみ流通を許可するということにしよう」


 代官は姿勢を戻すとニヤリと笑みを浮かべてガリウスを見返した。


 そんな代官に対してガリウスも同じようにニヤリと歪んだ笑みを見せる。


 ガリウスは猫背のその身体をさらに前に屈めると揉み手をしながら「お代官様、これからよしなに」と頭を下げた。


 そんなガリウスの姿を代官は満足そうな表情を浮かべてわずかに頷いた。

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