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閑話1 視察

※ 第三者視点です

「第二王女殿下にご視察をいただけるとは職員一同、身が引き締まる思いであります!」


 レグナム王国の北部にあるとある鉱山町。


 ここは王家の直轄地であり、この国の鉄の一大生産地だ。


 この町にある鉱山とその鉱山に併設されている鉄を生産する工場は一人の人物が王家からの命令を受けて統括している。


 その人物、騎士正装姿の中年の男に案内されて第二王女のユーフィリアはお付きのメイドに護衛役のルークとエレオノーラを従えて工場の中を歩いて回った。


 鉱山では含鉄鉱がんてつこうと呼ばれる鉄を含んだ鉱石を採取することができる。


 この含鉄鉱から取り出された鉄がこの国の軍事・産業を支える大きな屋台骨となっている。


 ユーフィリアは案内役の男に含鉄鉱の産出量や生産される鉄の量をいちいち質問したりはしない。そういった目に見える情報は定期的に王家に報告として上がってきているのでそれを確認すれば足りるからだ。


 その情報の正否を確認する必要はあるのかもしれないが、所詮自分たちが確認できることは目の前に見えるものだけである。

 それはチラッと見ただけで確認できることでもなく、そんな無駄なことはこの王女様はしない。


「この工場での職員の勤務体制はどうなっていますか?」


「週に1度の安息日が休みとなっています」


 その他に勤務時間や残業の有無、不定期に休みをとることができるかなどを確認していった。


 王家には何人を雇っていくらの人件費がかかっているというくらいしか報告がされていない。

 

 そのためまずは表面的な待遇を確認し、しかる後に実態を調査するという予定にしている。


 ユーフィリアが見る先では一人の職人と思われる若い男が一抱えほどの含鉄鉱を前に手を翳していた。


「あれは?」


「あれは製錬作業です。あの作業によりまずは粗鉄を取り出します」


 男の説明ではまずは鉱石から粗鉄を取り出す製錬という作業をし、次の工程で鉄の純度を高める精錬という作業をするという。


「一度に純鉄を取り出すことはできないのですか?」


 純鉄とは言っても本当の意味での純粋な鉄ではなく不純物の極めて少ない実用性のある鉄という意味だ。いくら錬金術を使うとはいっても魔力対効果の観点からある程度の不純物の残存は許容されている。


「それができる術師が少ないことに加えて一度にするには大量の魔力が必要となります。工程ごとに分担をした方がより効率良くできるのです」


「それにしても時間が掛かるのですね」


 ユーフィリアは鉱石の前で唸っている職人を見て呟いた。


「ええ、単に魔力を注げばいいというものではありませんから。技術的なところもありまして、あの量の鉱石ですとやはりそれなりに時間がかかるものなのです」


「……そうなのですか」


 ユーフィリアは釈然としない様子でそう零すと案内役の男が焦ったように口を開いた。


「今は更なる効率化のため、魔法陣と魔力結晶を組み合わせた魔道具を王立研究院にて開発中と伺っています。その魔道具が導入されれば生産量は飛躍的に上がるかと。あと、その前段階として……」


 男が必死になって説明を続けるがユーフィリアの耳にはあまり入っていなかった。



(学院でブランがやっていたのはこんなチマチマしたのではなかったと思うのだけど……)



 ユーフィリアの脳裏に浮かぶのは在りし日のブランの姿。


 錬金科の課題で含鉄鉱から鉄を取り出す課題をしていたところにユーフィリアが顔を覗かせたことがあった。



(たしかあのときは……)



 ユーフィリアの記憶に残っているのは、含鉄鉱を片手で弄んでいたかと思えば、次の瞬間、鉄の部分とそうでない部分にくっきりと分かれた塊を手に持っていたブランの姿。


『ほい、終わり』


 今でも耳の奥に残っているのはブランがそう言った瞬間、鈍色にびいろの鉄と不純物とが完全に分離し、机の上にゴトっと不純物の塊が転がった鈍い音だ。




 視察を終えてこの街で一番格の高い宿泊施設へと案内されたユーフィリアはルークとエレオノーラとテーブルを囲んで夕食をとった。


 食事が終わって王女付きのメイドが食後の紅茶を淹れたところでユーフィリアは二人に尋ねた。


「今日見た工場での作業はとても時間が掛かっていたように思ったけれど、あんなものなのかしら? ブランは同じようなことをもっと早くやっていたように思ったけれど」


 その言葉にルークとエレオノーラは顔を見合わせる。


 そしておずおずとエレオノーラが口を開いた。


「殿下、一般の、それも辺境で働く下位の錬金術師たちをブランと比べるのはさすがに可哀想です」


「その通りです。錬金科のことですのでそこまで詳しい訳ではありませんが今日見られたのが普通かと」


「そうなのですか。なるほど、それがわかっただけでも視察をした意味があったのかもしれませんね」


 ユーフィリアはルークの言葉に頷くと「それならもっと効率化するための手法をブランに聞いた方がいいのかしら」などと呟きながら手に持っていた紅茶のカップに口を付けた。

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