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20 加工

 マーガレットたちがユミル村に戻ってきてから2週間。


 高ランクの冒険者であるマーガレットたちはかなりの頻度でダンジョンに潜り、未踏破エリアをどんどんと探索していった。



「5階層のフロアマスターを倒したわよ!」


 店仕舞いをしようと片付けをしていたある日の夕方、ダンジョンから村に戻ってきたマーガレットは工房に来ると胸を張ってそう言った。


「ホントか? それは凄いな!」


 ダンジョンは5階層ごとにフロアマスターなる魔物がいるらしく、それを倒さないと次の階層へは進めないそうだ。


 マーガレットたちがフロアマスターを倒したことでより深い階層へと潜ることができるようになる。




 マーガレットは出ずっぱりで疲れたから数日レナちゃんちの宿で休むと言って上機嫌で帰っていった。そんなマーガレットと入れ違う形で今度は村長さんがやってきた。


「ブランくん、いま大丈夫かい?」


「村長さん、ええ、お客さんもいませんし大丈夫ですよ」


 村長さんは工房のドアを閉めるとカウンターまでやってきて数枚の紙を広げた。


「これは……ダンジョンのマップですね?」


「そうだ。で、きみに見てもらいたいのはこの階層のマップだ」


 このマップの一部には見覚えがある。


 俺が遭難した後に俺がマッピングした場所のものと同じだったからだ。


「この場所は?」


「ここは5階層だ。つまり、きみが2階層から落ちた先は5階層だったということだ」


 今やこの村が管理するダンジョンはマーガレットたちだけでなく、他のCランクからBランクの冒険者たちがこぞって攻略のため中に入っている。


 常時複数のパーティーがダンジョンに潜っているという状況だ。


「きみが言っていたミスリルという鉱石が採れる部屋はここでよかったかな?」


 村長さんがマップの一部、ひとつの小部屋を指差して俺に確認を求めた。


「ええ、その部屋で間違いありません」


「そうか、では、直ぐにうちの村の腕利きを派遣してこの部屋を村の管理下の場所として封鎖するとにしよう。木工屋のマイクも連れていって、部屋の入口に頑丈な鍵の付いた扉を設置する予定だ」


 俺が鉱石から錬金精錬によって純度の高いミスリルを取り出すことに成功したことは村長さんにも報告済みだ。


 当初こそミスリルに関心のなかった村長さんだったが、ミスリルがどんな金属かを説明すると直ぐにその価値を理解してくれた。


 もしもこの金属を大量に産出できるとすれば生活に大きく影響する可能性もある。


 この金属を武具や農具に使うことができればこれまでのものとは一線を画する品質のものになるだろう。


「頼まれていたミスリルの精錬ができる小屋をダンジョンの傍に突貫で作る予定だ。そこに鉱石を集めてもらうように皆には伝えよう」


「本当ですか! それは助かります」


 このミスリルのことはまだ村長さんとごく一部の村の上役の人たちしか知らない。


 俺が遭難した直後は村の人たちには1階層までしか解放されていなかったが、その後ダンジョンの攻略と調査が進み今は3階層まで解放されている。

 今後はミスリル鉱石の採取に限って5階層に行けるようにするそうだ。


 村の人たちには貴重な錬金素材で俺が欲しがっているから集めてもらうように伝えてもらうことになっている。


 このミスリルの精錬小屋を作るのと鉱石の採掘と運搬は無料ただでやってもらうわけではない。


 正直、ここ最近は本業が順調過ぎて工房の売り上げや利益はかなりのものになっている。


 元々俺は何かにお金を使う方ではないので、村の人たちに何か還元できることはないかとずっと考えていたしちょうどいい機会だということで仕事を発注することにした。


 小屋作りは木工屋のマイクさんを中心にこの村の手先が器用な人たちがやってくれることになっていて、鉱石の採掘と運搬は村の自警団員たちに俺がクエストとして出すことにしている。


 これからの予定を一通り話し合ったところで村長さんが思い出したように口を開いた。


「そうそうブランくん。そのミスリルという金属は最終的にはどこで加工してもらうんだい?」


「えっ、それは当然鍛冶屋さんにお願いする予定ですが……」


「その鍛冶屋だが恐らくこの村の鍛冶職人には扱いきれないだろう。特殊な金属という話だしアムレーの街でも適任がいるとは思えないが……」


 ミスリルという稀少金属を見つけたことで舞い上がり、その後のことはまったく考えていなかったが確かにそうだ。


 そろそろ師匠への送金のために街に行く予定だからそのときに街の鍛冶屋で情報を収集するとしよう。

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