17 再会
ミスリルの件はダンジョンの攻略が進んでミスリル部屋への動線が開けてから考えることにして俺はしばらくは本業に勤しむことにした。
そんな中、今日は昼が過ぎてからキャロルが工房に来ていた。
「というわけで何とかならない?」
「はあ……」
夏もまだまだこれからという暑い日。
少し前にも相談に来たキャロルから俺は再び相談を受けていた。
この前、試してもらった冷却薬は好評のようであれから口コミで村の人たちに大ヒットになった。当初ターゲットだった農家の人たちだけでなく、それ以外の村人たちからもかなりの注文があった。
しかし冷却薬で昼間も農作業できるようになったのはいいものの、じりじりと照り付ける日差しはどうにもならない。
そんなわけでキャロルからの相談は日焼けを含めたお肌対策に何かいいものがないだろうかという相談だった。
正直、男の俺にはお肌がどうとか言われてもやはり今一つピンとこない。
しかし、やはりキャロルも年頃の女の子なのだろう。
「ほら、やっぱり男の人って色白の人が好きじゃない?」
「そうか? 必ずしもそんなことはないと思うが」
俺は健康的に日に焼けた女の子もいいと思うがそういえば王都というか学院では色白の女の子がもてはやされる傾向にあったような気がしなくもない。
こんな奥歯にモノが挟まったような言い方をするのはいつものメンバー以外の学院生とはあまり接点がなかったからだ。
残念ながら同じ錬金科に友達がいなかったとかボッチだったとか言われても反論できない……。
それはそれとしても身分の高い貴族の子女たちは色白の子が多かったし、その中でも姫様は一段と肌の色が白いのは間違いない。
「この村ではどうしても仕事で外に出ないといけないからみんな困ってるのよ」
だからブラン~、みんなのために何かいいもの出して~、というのがキャロルからの頼みだった。
というかボソッと聞こえた『レナが色白の肌を自慢しているのが癪に障るわ』という言葉は聞かなかったことにしよう。
「そうだな。材料となる素材があるかは確認しないといけないが、俺が作れるものはいくつかあるからその中から選んでもらおうか」
「えっ、なに? 何かいいものがあるの?」
キャロルが目をキラキラさせて聞いてきた。
キャロルとはカウンター越しに話をしているがそれを乗り越えてくるのではないかという勢いだ。
「えっ、え~っと、日焼け止めに日焼けによる火照りを抑えるローション、日焼けした肌を元の色に戻すクリームにできたシミを消す付け薬があるけどどれが「全部っ! 全部下さいっ!」
「ひいっ……」
キャロルがバンっとカウンターに両手をつくと凄い形相で顔を近づけてきたので思わず悲鳴を上げてしまった。
カウンターを挟んでいるとはいえ、キャロルがキラキラではなく、今度はギラギラとした目で俺を見ている。
こっ、こわい……。
「いい? ブラン、あなたは優秀な錬金術師かもしれないけど正直、ちょっと常識に疎いわ。いきなりそんなものがあるだなんてみんなが知ってしまったらとんでもないことになるから、まずはわたしがお試しで使って、それから少しずつ村のみんなに広めるのがいいと思うの。だからこの商品のことはしばらく他言無用よ。いいわね?」
「はっ、はいっ!」
何かよくわからないがキャロルの勢いに押されて思わず俺はコクコクと頷き、元気よく大きな返事をした。
「ちょーっと待った~!」
突然、そんな声がしたかと思うと工房の扉がバンっと勢いよく開かれる。
「誰っ!?」
キャロルがちっと舌打ちして勢いよく後ろを振り返った。
「何やら面白そうな話をしているわね。わたしも仲間に入れてよ!」
その声の主は左右で結われた明るい茶色のツインテールの髪型。
そしてこの辺境の村には似つかわしくない整った顔立ちをした女の子だ。
「マーガレットか?」
「ブラン、久しぶりね」
突然俺の前に現れたのは以前この村に滞在していたBランク冒険者のマーガレットだった。




