第25話 死化粧
トウマさんが描いた図は、傷だらけの人(こう、殺人現場の型みたいなあれに線がいっぱい書いていあるやつ)と、その人の周りにたくさんの丸。
「死化粧って知っていますか」
あ、一応敬語で喋ってくれるのか。
そんなことを思いながら、僕は首をふった。
この世界にきてもう3年近いけれど、いまだ身近な人が亡くなったことはない。トウマさんの説明を聞くに、この世界での死化粧は、元いた世界のエンバーミングのようなものらしい。
「魔力は人によって微妙に異なるので、たとえ親兄弟であっても、自分の魔力を他人に貸し与えるようなことはできないのは、ご存知ですよね」
「うん。ここにきて最初の頃にじぃ様から教えてもらいました」
「人の魔力は微弱ではありますが、常に放出されているというのも?」
「知っています」
僕の回答に、では、とトウマさんは続ける。
「人は死んだ後も、しばらくその人の魔力がこの図の丸のようにふわわ浮いている、ということは」
「いま初めて知りました」
魔力感知はできるけれど、死人を見たことがないから。
「死化粧は、この浮いている他人の魔力を使って、死んだ人の傷をむりやり塞ぐ技術です」
トウマさんは図の傷にバッテンをつけた。塞いだ、という意図らしい。
「え、でも他人の魔力は使えないのでは?」
「それには“生きている人の“、という注釈がつくんです。と言っても死化粧は緻密な魔力コントロールが必要ですし、死は不浄なものなので、そもそも死化粧をしたがるような魔術師もほぼいません」
ですから、先ほどの注釈は魔術師の中でも知らないものもいる、とトウマさんは続けた。
「なぜ生きている人の魔力は他の干渉を拒み、死んだ人の魔力は他からの干渉を受け付けるんでしょうか」
僕の問いに、トウマさんは表情をかえずに、そうですね。と首を傾げる。
「魔力というのは基本的に本人の支配下にあります。無意識下でもそれは変わりません。今回の召喚のように魔力を奪う、タンクのように使うだけなら干渉と言っても大した抵抗はありませんが、操るとなると、どうしても拒否反応が起きてしまう。けれど、死んだら本人の意識も無意識もなくなります。僕は、本人の意思というものがなくなることが条件ではないか、と思っています」
ふむ、と僕も首を傾げる。
本人の意思があるから、魔力が本人の支配下にある、ということか。
支配下から外れれば、魔力を他者が操ることも可能。そうなれば、傷を塞ぐ、という技術は存在する、というところまではわかった。
ん?
支配下から、外れれば?
「あの」
「はい」
「例え相手が生きていても、相手の魔力の支配権を奪うことができれば、相手の魔力を使って傷を塞ぐことが可能、という認識でいいですか?」
「え?」
「え?」
トウマさんは、数度瞬きをして、から、あらためてまた、「え?」と言った。
読んでくださってありがとうございます!
ずいぶんと間が開いてしまって申し訳ありません!
変わらず不定期ですし(なかなかこの展開が難産でして…)プライベートでも地味にいろいろありまして、更新期間とびとびではありますが、完結に向けて頑張りますので、よろしければのんびりお付き合いいただければと思います。




