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殺さず勇者 人畜無害のタテヤマくん  作者: ゆるゆる堂


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第15話 じぃ様とばぁ様

「お客様です」

 モーダさんはそう言った。

 誰だろう。トカチかな。チェチェさん?

 そんなふうに思いながら客間へと急ぐと、そこにいたのは。

「心配かけおって、この馬鹿モンがああああああああ!!」

「あれから1通も手紙寄越さないなんて薄情な子なんだから!」

 ハヤテじぃ様と、アヤばぁ様だった。

「え?え?2人とも、え?」

 僕が混乱してるのを見て、2人は落ち着いたらしく、ハヤテじぃ様がまあ座れと言った。

 いや、ここ、僕の家…まあいいか。

 ハヤテじぃ様は、王の騎士だ。真白の長髪を後ろでひとつにぐっと縛って、歳を感じさせない筋肉隆々なわがままボディに、ゆったりとしたシンプルな服をきていた。いつも、騎士服か日本で言う袴姿だったから、こんな服装のじぃ様を見るのは初めてだ。

 アヤばぁ様は王族御用達の薬剤師。じぃ様とおなじ真っ白い髪をまとめ髪にして、こちらもゆったりとしたシンプルな服をきていた。ばぁ様も普段は着物姿だったから、新鮮である。

 2人は、僕の能力を見抜き、適切な指導をしてくれた、僕の恩人たちである。

 召喚されたばかりで不安定な僕を支えてくれたこの2人がいなかったら、今の僕はない。

「2人ともどうやって来たの?まだ人民の行き来は基本できないはずじゃ…」

「そんなもん、森を越えれば直ぐじゃろう。儂らを誰だと思うとる」

「いやいやいやいや。おかしいよね」

 じぃ様は人からすると規格外に強い。魔法も剣術も、とんでもない。僕が守らなくても戦場で死なない人種の1人だ。そんなじぃ様だから、そりゃモンスターがそこそこいるくらいの森ならかるーく越えるだろうけども。問題はそこじゃない。人の国と魔の国の間には魔王様の結界があるはずだ。

「ああ、魔王の許可なら取っとるぞ」

「は!?」

「ハヤブサ便で孫に会いたい旨送ったら、『いいですよー』と二つ返事で許可が出たのよ」

 にこにこと笑うじぃ様とばぁ様。

「ええと…軽すぎない?」

「お前の手紙で書いておったろう。魔王に良くしてもらってると。だから儂らもちょっとコンタクトとってみたんじゃよ」

 本当にほんの数ヶ月前まで戦争をしていたんだろうか人の国と魔の国は…。

 …、まあいいや。

 僕は考えるのをやめる。

「来てくれるとは書いてあったけど、あえて嬉しいよ。ありがとう、じぃ様ばぁ様」

 僕の言葉に、2人は柔らかく笑った。

「で、もう一つの目的はなに?」

 僕に合うと言うのも本命だろうけど、多分それだけじゃない。

 これは、勘だけど、こういうときの僕の勘は良く当たる。

 じぃ様ははあ、とひとつため息をついた。

「人の国の現状を伝えておこうかと思っての」

「現状?戦争が終わってひと段落ついたんじゃないの?」

「それがなぁ」

 じぃ様とばぁ様は眉を寄せた。

 どうやら、良くない方向の話らしい。

「今回の不可侵条約、結局人の国の王が望んだものはなに一つ手に入ってないわけでしょう?」

「うん、まあ」

 そもそも、土地寄越せって戦争ふっかけたのは人の国だったのに、僕を召喚して「魔王が侵略して来た助けて」というような国なのだ。この先の話は聞かなくてもわかるような気がする。

「勇者を魔の国に送り込んでおいたから、自陣が整ったら、改めて魔王討伐軍を侵攻する、と王が言い出したんじゃよ」


「…まだ、終わって数ヶ月だよ」

「そうじゃな」

「なんなの、人の国の王は馬鹿なの」

 前の戦いだって、僕やコロさんドンさんがいたから被害は最小限に食い止められた。これは、自慢でも自惚れでもなんでもなく、事実だ。

 それでも、軽くない人的被害や建物や農作物の被害が出ている。

 確かに圧倒したよ。魔王軍を。僕は。

 魔王様と本気でやり合っても、たぶん、勝てるよ。

 僕のこの戦い方は、人の王をつけ上がらせてしまったんだろうか。

 そもそも僕はあの王に忠誠を誓ったつもりだってないのに。

 魔の国のやつらは非人道的だなんだと言っていたけれど、このまま戦いをまた始めるのなら、人の王のほうがよほど、よほどじゃないか。

「サダちゃん。落ち着いて」

 ばぁ様がぽん、と僕の肩に手を置いた。全身に力が入っていたらしく、力が抜けた瞬間かくっと体が揺れる。

 顔をあげると、コロさんやドンさんが心配そうに僕をみている。

「ごめんね。大丈夫だよ」

 笑ってみせると、コロさんがぺろっと僕の頬を舐めてくれた。

「サダヨシの強さが王の予想を超えていた、というのは事実じゃが、それに関してサダヨシには責任はないぞ」

「うん…」

「そもそも、あの王は、民にとっては悪じゃ」

「ハヤテじぃ様…」

 じぃ様は王の騎士なのに、そんなこと言っていいの?と聞こうとしたら、じぃ様の言葉は「だから儂らはあの王をなんとかせねばならん」と続いた。

「私もおなじ意見でねぇ。人の王がこちらの国にどうこうするまえに、なんとか止めようと思っているのよ」

 穏やかだけど、芯のあるばぁ様の声。

「ただ、止められるかどうかは、まだわからない。だから、万が一に備えて、人質であるお前に話をつけておこうと思ったんじゃ。人の王には、お前に開戦の準備を整えておくように内密に話をつけてくる、と言ってある」

「僕は…」

「サダちゃんが、人の国につく義理はないのよ」

「アヤばぁ様…」

 突然きぱっと言われて、思わず首を傾げてしまう。

「あなたは、そもそもこの世界の人間ですらない。どちらの国についても、どちらにもつかなくても、それはあなたが決めていいことなの。何度もそう言ったでしょう?」

 ああ、そうだった。

 召喚されてすぐ、アヤばぁ様はそういって僕を抱きしめてくれたんだ。

 だから、この人たちを守りたい。僕はそう決めて、そして、…今に至る。

「戦いはすぐ始まるわけじゃない。そして、儂やばあさんをはじめ、多くの人間が開戦に反対しておる。じゃからな、サダヨシ。お前はお前が行きたい道を考えなさい」

「…はい」

 魔王様にこの話はしてあるのかと尋ねると、する予定だ、と返事が返ってきた。

 それなら僕も一緒に行く、と言うと、じぃ様とばぁ様はちょっと考えてから、頷いてくれた。

 モーダさんに伝言鳩を飛ばしてもらうと、明日、城に来て欲しいと返事が来る。

 とりあえず使用人の皆さんに頼んで、じぃ様とばぁ様をもてなしてもらって、僕はコロさんとドンさんと裏山に来た。

PV、ブックマークありがとうございます!!


ここからちょっとシリアス風味が強くなりますが、よろしければぜひお付き合いくださいませ!

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