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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
不幸を呼ぶ四人編

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主人公、御影新

 御影はその光景が信じられなかった。

 柱の並ぶ地下室で、現代日本とは思えないコスプレをしたような人々。杖、剣、マントに鎧。異世界ファンタジーの登場キャラそのものだ。

 自分たち四人は、異世界に召喚されたらしい。


 園田優は周囲をせわしなく見渡している。イケメンである彼だから、こうして焦りうろたえてる姿も妙に映えて見える。

 時任春樹は冷静だ。柱を背に周囲を見渡すその目は、まるで遥か大空から大地を俯瞰する大鷹のようだった。

 そして加藤達也は、薄ら笑いを浮かべながらその場に立っていた。


 周囲には数多くの異世界っぽい人たちがいる。こちらを見るその姿は、期待、不安、両方入り混じったものだ。

 そのうち、一人の中年男性が前に出た。カイゼルひげを生やした、いかにも偉そうな男だ。


「私の名前はフェリクス。旧グラウス王国において公爵の位についていた者だ。心労で政務の滞る元国王陛下に代わり、この場の全権を託されている。ここまでは良いかね?」


 公爵を名乗る彼であるが、その振る舞いはまるで国王のようだった。そう感じさせるほどに、威厳と貫録を兼ね備えている。

 彼の後ろには、金髪の大男が控えている。別に何か彼が発言をしたわけではないが、得体のしれないものを感じる男だ。一瞬だけ御影と目を合わせたが、すぐに目線を逸らされる。

 御影は、一旦金髪の大男については忘れることにした。


「異世界の勇者殿。どうか私の話に耳を傾けてくれないかね。君たちのクラスメイトであり、忌まわしき魔剣に支配されてしまった悲劇の勇者――下条匠のことを」


 下条匠。

 その言葉に、御影たち四人は息をのんだ。元クラスメイトであり、例の女子失踪事件で唯一いなくなってしまった男子。関心がない者はいない。

 フェリクスは、ゆっくりと身の上話を始めた。


 

 かつてフェリクスのいたグラウス王国は、国王の名のもとに繁栄を極めていた。

 だが、その栄華の裏に一つの危険が潜んでいた。

 

 魔族だ。

 魔族は魔王を頂点とし、レグルス迷宮に存在する強力な勢力。時々転移門から侵入する彼らは、時として一都市を陥落させるほどの圧倒的な力を持っていた。

 多くの血が流れ、人々は恐怖した。その恐怖に対抗するため、王国は軍備を増強し、その過程で自然と身分や性の差別が生まれた。魔法の力を持つ男性を優遇し、女性を蔑むようになったのはこのためだ。心優しい貴族は時として性の差別を撤廃しようとしたが、平民たちの男性優位を訴える声には逆らえない。


 そして軍や冒険者を増強しても、人間の力だけではどうすることもできないほど、魔族たちは強力だった。

 そこで魔王の脅威に対抗するため、異世界人――すなわち下条匠と女子17人が召喚された。中でも下条匠は魔剣聖剣魔法スキル、あらゆる能力に卓越したまさに超人だった。

 彼なら、魔王を倒せる。貴族たちは平和の成就を確信し、涙を流してすらいた。

 

 しかし、ここで不幸な事故が起こった。

 下条匠は、迷宮で手に入れた魔剣ヴァイスの呪いによって支配され、暴走を始めたのだ。

 悪に染まった匠は、心優しい国王や公爵たちを追放。反乱を起こし、赤岩つぐみを大統領に据えた。

 魔剣ヴァイスは異性を支配し、ある種の惚れ薬に似た効果を発揮する。匠はその能力を使い、グラウス共和国を女性の国に変貌させた。



 ――と、いうのがフェリクスの話だった。


「君たちのクラスメイトも、何人かは匠殿の支配下。島原乃蒼、大丸鈴菜、赤岩つぐみ、柏木璃々、そして長部一紗は皆彼の手中に収まった。魔剣ヴァイスの恐ろしい呪いで、彼を愛し彼のために奉仕しているのだよ」

「ええっ、乃蒼がっ!」


 御影は強い口調でそう言ってしまった。

 魔剣の恐ろしい呪いによって、乃蒼が匠の手に落ちた。その事実は御影にとって、あまりに悲しく受け入れられない事実だったからだ。加藤に好きな女の子のことを知られたくはなかったが、気持ちの焦りからそんなことすら忘れていた。


「嘘だろ……一紗が……匠に。何かの冗談だ……」


 と、絶望に震える園田優の声が聞こえた。よくは知らなかったのだが、どうやら自分と同じで、園田優は長部一紗のことが好きらしい。

 

 御影はあまりクラスメイトと関わり合いを持とうとはしなかったし、正直なところクラスの半分ぐらいは名前さえ憶えていない。例の下条匠ですら、どんな声でどんな顔だったかあいまいになってしまうほどだ。

 だがそんな御影でも、長部一紗のことを知っている。

 教室でも多くの男子に話しかけていたビッチ。それが御影の知っている一紗だった。


(ああいう女は駄目だよね。遊んでる、絶対処女じゃないよ……)


 どれだけ見た目が超美少女でもそこだけは許せない。御影も3回ほど一紗に話しかけられたことがあるが、徹底的に無視した。非処女の淫乱とは関わり合いを持ちたくなかったからだ。


 一紗の現在を嘆く優を見て、御影は心の中でため息を漏らした。『これを機に清らかな女性と付き合えばいいよ』、と心の中で優しくアドバイスを呟く。


「異世界より参られた勇者殿。あなた方のスキルを使い、どうかかつてのクラスメイトを止めていただきたい」

「僕たちにも、スキルが?」

「無論。異世界人の男性であれば、誰もがスキルを持っているからね」


 フェリクスはそう言って、空中にいかにもステータスウインドウっぽい四角い画面を出現させた。どうやら、異世界人の能力について調べているらしい。

 まず、彼は沈む園田優のもとに近づいた。


「……スキルの名は〈交友法〉。スキルを使えば他人の好感度が上がり、話を弾ませ好印象を持たれるらしいね。戦闘向けではないが、交渉事には向いているかと」


 魔剣を操る下条匠は倒せそうにないが、役に立つスキルではある。

 次に公爵が近づいたのは、未だ周囲への警戒を解かない時任春樹だった。


「これは……、〈発火陣〉。手から炎を発することのできるスキルらしい。時任殿、少々試してみてもらえるかね」

「どうやって使うんだ?」

「このバッジを身に着けて、『イグニッション』と言えばそれで」

「…………イグニッション。ふっ、こうかな?」


 ごぅ、とまるでストーブが着火するような音とともに、春樹の手から握りこぶし程度の炎が出現した。 


「…………」

「…………」

「…………」


 手から炎が出る、といういかにも漫画の主人公みたいなかっこいいスキルを使ったにもかかわらず、貴族たちからの反応が薄い。


「魔法でやれよ……」


 ぼそり、と貴族の一人が呟いたのを、御影は聞いた。

 どうやら、この世界には魔法があり、炎を生み出す程度であれば簡単にできるらしい。であれば貴族たちの呆れも納得のいく話だ。


(……ご愁傷様)


 いわゆるハズレスキルだ。しかも何のひねりも強さもなさそうだから、実は応用でチートとかそういう展開の可能性も低い。

 普段優秀さをいかんなく発揮している天才の時任春樹が、この扱い。

 彼に別段悪い印象を抱いているわけではないが、思わず笑ってしまいそうになる。


「加藤殿は〈創薬術〉。様々な薬を生み出せるスキルですな」

「おう」


 加藤は特に感慨もなくそう言った。まるで事前にそうであることを知っていたかのような冷静ぶりだ。


 御影は気が重かった。加藤のスキルは名前だけ見るなら応用が効いて攻守ともに優れるスキル。これでは異世界でもいじめられてしまうではないか?


 そして、最後に公爵は御影のところへやってきた。


「こ……これはっ!」


 公爵は目を見開き、画面の文字を凝視している。手が震え、冷や汗の滴り落ちるその姿は……明らかに尋常ではない。

 その様子を見て、他の貴族たちが公爵のところへやってきた。


「な、なんと。こんなスキルが現実に……」

「……恐ろしい、勇者も魔王も敵わない、世界最強の力だ」

「ぜひっ! ぜひそのスキルを私に使っていただきたい。金でも女でもいくらでも出す! 頼むっ!」


 わらわらと、まるで人気アイドルに群がるファンのように、貴族たちが御影のもとへと殺到した。


「え……えええ?」

「御影殿!」

「勇者様!」

「異世界人殿!」


 御影は焦った。こんなに人気者になったのは、暗い日陰者の人生で初めてだったかもしれない。


(そうか、やっと分かったよ……)


 御影はこの時、理解した。


 いじめっ子のクラスメイト。

 彼女を持ったイケメン。

 闇に落ちたクラスメイト。

 その手に落ちたヒロインたち。

 そして、元いじめられっ子にして世界最強のスキルを得た……自分。


(僕が……このクラス転移物語の、主人公なんだっ!)


 御影は口角を釣り上げ、歪な笑みを浮かべた。


この不幸を呼ぶ四人編は特殊な回です。

今までは一つの編につき一ヒロインが加入という流れでしたが、今回はそういうのありません。

ひたすら話が進みます。

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