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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
近衛隊編

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つぐみの髪

 大統領官邸、城の中庭にて。


 普段、多くの市民に開放されているこの憩いの場であるが、今は近衛隊採用試験の実技会場となっている。

 支給された模擬刀を持った候補者たちが、一対一で剣術を競い合っている状況だ。金属の重なる衝撃音が周囲へと響き渡っている。

 

 俺の相手は、大柄なゴリラっぽい女だった。


「ウホオオオオオオオオオッ!」


 ゴリラ女が勝利の雄たけびを上げた。


 つ……つええええええええっ!

 え、何こいつ?


 模擬刀を枯れ木の棒か何かみたいに真っ二つにして、俺の体を壁際に突き飛ばした。受け身を取れたから怪我はないものの、素人だったら危なかったかもしれないな。

 まあ、怪我はしなかったが敗北してしまったということだ。


 別に近衛隊に入りたくなかったから手加減したというわけではない。勝負は勝負、と思い真剣に挑んだつもりだった。


 剣がダメだったなんて言い訳にならない。

 聖剣ヴァイスは強力な剣だった。それに慣れすぎていた俺の慢心。時として力任せの一撃が技術を上回ることすらある。どこかで、『女だから』とか『素人だから』とか相手を侮っていたところがあったかもしれない。


 俺は落ち込んだ。

 ダメだ、ダメダメだ。いや別に近衛隊に入れなかったらつぐみにそう言えばそれで終わりなんだが、負けたのが悔しすぎる。聖剣と魔法使えない俺なんて、こんなレベルだったのか? 


 俺は控えスペースの椅子へと腰掛けた。

 はぁああああああ、テンション下がる……。


「ミーナさん」


 と、俺に声をかけてきたのは璃々。


 ミーナというのは俺の偽名だ。

 最初は、つぐみが『タクミーナ』にしようとか訳のわからない名づけセンスを発揮して大変だった。『俺の名前ばれるだろそれ!』と猛抗議した結果。最後の三文字をとってその名前になった。

 悪くない名前だと思う。つぐみに子供の名前つけさせちゃだめだなきっと。


「怪我、大丈夫ですか?」

「大丈夫。少しびっくりしたけど、でも私、全然ダメだった……」

「実技の試験に勝敗は関係ありません。ミーナさんは頑張ってて、動きは悪くなかったので、問題ないとは思います」


 そ、……そうだったのか?

 いや、まあ別に俺は真剣に近衛隊入りたかったわけではないんだが……。ま、まあ、評価されていることはいいことだ。


「確かに頑張ったけど、負けは負け……」


 はあああああああ……。落ち込むわ。

 

 などと考えていたら突然、璃々が両手で俺のウィッグを触り始めた。綺麗に整えられていたストレートの黒髪ロングが、少しだけはねてしまう。


「きゃっ、璃々さん何を」


 俺、『きゃ』とか言っちゃうの巻。


「面接の試験官、誰だか知ってますか?」

「知らないけど」

「お姉……あ、大統領閣下です」


 へえ、つぐみが試験官やるんだ。まあ、自分の護衛を兼ねてるわけだから顔合わせぐらいはしておくべきか。


「お姉様、自分の髪がちょっとくせ毛なの気にしてるんです。だからこうして、ちょっと髪が乱れ気味の方が……印象いいと思うんです」

「私のために?」

「そうです。その髪でばっちり面接決めちゃいましょう」


 そう言って、璃々は軽くウインクした。

 璃々さん……優しい。

 なんか俺と話してる時と違うぞこの子。もっと『死刑死刑』って連呼するような、つぐみの悪いところを濃縮抽出したキャラだった気が……。


「私、頑張ってる女の子って、好きですよ。一緒に仕事、できたらいいですね」


 そう言って、璃々は笑った。いつもイライラしながら俺をにらみつけている時とは違って、その顔は……年相応のかわいらしい女の子に見えた。

 

 ……いけない、璃々がかわいく見えてきた。

 女相手にはこんな表情するんだな、あの子。

 

 

 そののち、筆記試験は無難に終わった。

 最後の面接、面接官はつぐみ。璃々の言ってた通りだった。


「合格合格合格合格っ!」


 俺は部屋に入った瞬間合格を連呼された。

 

 疲れた……。



 新勇者の屋敷、匠の寝室にて。

 島原乃蒼はベッドの前に立っていた。来ている服は衣装室ことコスプレ部屋にあったイヌを模したパジャマ。エロさではなくかわいさで攻める感じの服だ。


 今、この場には乃蒼と匠以外誰もいない。つぐみは風呂、鈴菜は研究所。今日は自分が一番乗りだ。


 匠はベッドの中で寝ている。今日はことのほか疲れていたらしく部屋に戻るとすぐに眠ってしまった。


(今日、私の番だったのになぁ……)


 乃蒼は少しだけがっかりした。でも、疲れてる匠を起こして無理やり迫るほど、彼女はわがままではない。

 今日はただ、添い寝をするだけ。

 匠のベッドへ入り込む乃蒼。頬にやさしくキスをして、彼の体をゆっくりと抱きしめる。


「匠君……」


 彼の匂いが好きだった。

 この手で、口で、何度も何度も愛し合った。今日まで過ごしてきた夜を思い出すと、寝ている匠を前にしても気持ちが高まっていく。


 やりすぎてはいけない。これ以上匠成分を摂取しすぎてしまうと、興奮で夜も寝れない状態になってしまうからだ。 


 何度も自分を受け入れてきた、彼の胸板にそっと顔を近づける乃蒼。


「あれ?」


 ふと、気が付いた。

 匠の胸当たり、服の隙間から何かが見えている。

 乃蒼はそれを拾った。

 長い黒髪だ。


「この髪……誰の?」


 乃蒼と鈴菜は黒髪、つぐみは赤毛。しかもこの髪は乃蒼や鈴菜よりも長く、髪質、細かい色合いも違う。匠の服の中へと紛れ込むような長い黒髪を持っている女性はいないはず。

 乃蒼の疑念は深まるばかりだった。


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