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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
創薬術編

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33/410

過去の因縁


 それは遠い日の記憶。まだ匠たちが異世界転移をしていない、そんなある日の事。


 加藤は校舎の廊下を歩いていた。肩幅を広げ、がに股で歩くその姿は、野生の動物が相手を威嚇するのに似ているかもしれない。

 舐められてはいけない。加藤は常々そう思っていたから、その表現はあながち間違いではないと思う。

 

 突然、肩に衝撃を覚えた。


「あ、ごめんなさい」


 一人の女生徒が加藤とぶつかったのだ。横に広がるよう歩いている加藤であるから、これはよくあることだ。


 加藤は女生徒を壁に押し付けた。

 彼女のポニーテール・・・・・・が震えるように揺れていた。


「いてぇよ、肩。ごめんなさいじゃねーだろ?」

「え、あ、あの、私」


 震える女生徒を壁に押し付けた加藤は、そのまま彼女の首筋に手を這わせた。

 

「なあ、いいだろ? あ、怖い? 心配すんなや、生乳触らせてくれるだけでいいからよぉ」

「あ、あの、止めてください。ホント私、そういうの無理で」

「へへへへへ、嫌よ嫌よもなんとかってよぉ……」 

「いやっ、止めてください。止め――」

「あ?」


 加藤は混乱した。

 何が起こったのか理解できなかったのだ。一瞬にして視界が暗転し、体に激しい衝撃を覚えた。

 

 自分が誰かに投げられた、と理解したのは五秒後の事だった。


 やや息苦しさと痛みを覚えながらも、加藤は立ち上がろうとした。しかし、その上半身は再び地面に抑えつけられてしまう。


 それは少女の足だった。白いスニーカーのような上履きに、白いソックス。さらにその上には美しい脚線が見て取れる。


 赤岩つぐみ。

 彼女は有名人だ。悪を砕き、正義を守るその姿勢はまさに聖人。風紀委員・・・・としてまともに活動をしているのは、彼女だけだと専らの噂だ。

 もっとも、その対象が男性よりも女性に偏っているのが玉に瑕なのだが。


「貴様、何をやっているっ!」


 つぐみは、まるでゴキブリでも見るような目で加藤を見下した。彼女が品のない人間であったなら、唾を吐きつけていたかもしれない。


「汚らわしいっ! これだから下品な男は……」 

「くそ……糞がっ!」


 加藤は起き上がろうとしたが、それを許すつぐみではない。彼女の足は完全に肩を抑えつけており、未だ投げられたせいで本調子ではない加藤にとって抗えない圧力だった。


「大丈夫か? 私は間に合ったか?」

「ありがとう、ございます……。お姉さま」

「すぐに先生へ報告しよう。私も一緒に行く」


 そう言って、二人は倒れる加藤を置いてその場から立ち去った。


 加藤は動けなかった。先ほどまでの衝撃が未だ体に残っており、上半身を起こすだけで精いっぱいだった。


 揺れるつぐみの赤髪を、背後から見ているだけだった。


 その後、つぐみは教師に事の顛末を報告した。

 品行方正、教師から絶大な信頼を得るつぐみと加藤では評判が違い過ぎる。このまま騒ぎが大事になってしまえば、間違いなく加藤は糾弾されてしまうだろう。


 しかし、実際そうはならなかった。

 大声でこの件を糾弾するつぐみだったが、大事にしたくないという教師たちの思惑が勝った。この件は学園という枠組みの中で処理され、加藤は強面の体育教師から説教を受けただけだった。


 気分が悪かった。

 つぐみに負けたこと、普段馬鹿にしている教師たちから庇われたこと、そして女に負けたからと陰で馬鹿にしているクラスメイトたち。すべてが煩わしく、いら立ちを募らせずにはいられなかった。

 

 加藤はその日以後さらに粗暴となった。その行いはことさら男性へと向き、御影新などはさらに過激に虐められることとなったのだが……それは別の話。



 ――そして現在、異世界にて。

 加藤は元の世界での記憶を思い出していた。つぐみに倒されたあの時の出来事は、未だ彼の心でめらめらと燃え続けている。


(赤岩ぁ……) 


 血のたぎった頭で、歯を食いしばる。


 すでに異世界へと来てから一か月が経過している。この世界の主な情勢は完全に理解した。

 グラウス王国で革命が起こったこと。そして今、あの地を支配するのがあの忌々しい赤岩つぐみであること。

 最初の頃はこの場所に住んでる王侯貴族たちをうっとおしく感じていたが、今では逆に安心していた。あのつぐみが治める国家に転移したとすれば、それはきっと耐えられない程不愉快だったに違いないからだ。


(うっとおしい糞フェミ女。今度こそ、てめぇは終わりだ……)


 この一か月、加藤は準備をしていた。

 つぐみを倒し、そして国家を転覆させるための力を……。


「んじゃ、行ってくるわ」


 加藤はリュックのようなカバンを背負ってそう言った。背後には魔王レオンハルトや亡命貴族たちがいる。

 

「少年、くれぐれも油断はするなよ」

「ああ、魔王さん。安心しろや。クラスの奴等、首に鎖つなげてここまで連れてきてやるぜ」

「勇者殿、どうかよろしく頼みたい。わが国の悲願は、君の双肩にかかっているのだよ」

 

 そう言ったのは、一人のカイゼル髭を生やした貴族だった。

 フェリクス公爵。

 加藤はこの地に来て一か月であるが、なんとなく彼のことを理解している。ここには王がいる、賢者がいる、そして魔王がいる。ただの公爵、と名乗るフェリクスであるが、しかしその実指導力はレオンハルトと肩を並べるほどだ。


 この男はボスだ。加藤はそう理解していた。

 だからこそ、警戒しなければならない。


「あんたらさ、俺にバッジ一個しか渡さなかったよな」

「……な、何か不満でも?」

「俺の事警戒してんだろ? 信用してねーんだろ? こいつを使って手綱を握りてぇから、必要なもの以外与えなかった。そうだろ?」

「ご、誤解だ勇者殿。このバッジは非常に作るのが難しく、そう何個も何個も生み出せないのだよ」

「俺は下条みてーにお人よしじゃねーからな。信用してもらいてぇなら、言葉だけじゃなくて物や金で示すんだな」

「…………」


 フェリクス公爵は目を細めた。


「あんたは俺がいなきゃ何もできねー。国とったらよぉ、覚悟してろよ。褒美は弾んでもらうぜ」

「……私たちは敗戦の将だ。金でも女でも土地でも、それ相応の対価は約束しよう」

「はっ、頼んだぜヒゲのおっさんっ!」


 加藤はフェリクスの肩を大げさに叩き、そのまま建物の外へと出て行った。


 目指すは、グラウス共和国。

 国家を破たんさせるための戦いが、始まる。


「待ってろよ赤岩ぁ。俺のスキルで、お前の人生終わらせてやるからよぉ」


 けけけっ、と下卑た笑みを浮かべる加藤。腰回りを手で撫でて、感触を確認する。


 その腰に巻き付けたベルトには、いくつものビンが固定されていた。


10/7 女生徒を某キャラ風に訂正。

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