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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
大妖狐編

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189/410

大妖狐マリエル戦、その後


 俺とダグラスさんは地下室へと向かった。

 一応敵がいないか警戒しながらだったが、それは杞憂だったようだ。こちらに襲い掛かってくる気配もなく、俺たちはすんなりと地下牢へ入れた。

 空気が冷たい。硬い石畳と鉄格子で構成された無機質な部屋だ。


「鈴菜! いるのか? 鈴菜」


 しばらく待っていたが、何も返事は返ってこない。もっとも、呼んで返事が聞こえるぐらいだったら、これまでここにやってきた時気がついているはずだ。


 ろうそくで照らされた地下牢は確かに少々薄暗い。しかしどこに何があるか分からないと言うほどでもなく、しっかりと周囲の状況は確認できているはずだ。


「ダグラスさん、どうだ?」

「見えますね、ここ」


 ダグラスは正面右にある牢を指さした。もちろん、そこには誰もいないように見える。


「分からないな。そこにいるのか? それとも別空間に繋がってたり?」

「認識阻害の魔法でしょう。魔法陣で奥の半分程度が隠されています。ここは僕の力で……」


 ダグラスは空中に指を這わせ、魔法陣を描いた。俺がかつてスライムを召喚した時とは違う、複雑で芸術的な図形だ。


「――解呪」


 光り輝く魔法陣が、鉄格子の奥に向かって進んでいく。そして――

 パリン、とガラスが砕けるような音がした。

 視界が開けた、というよりは目の前の光景が紙芝居のように切り替わったと言った方が適切だと思う。


「鈴菜っ!」


 鈴菜が俺の目の前に現れた。

 牢の隅で座りこんでいる彼女は、若干やつれているように見える。白衣が特徴的な長い黒髪の少女。

半分眠っているようなどんよりとした彼女の目が、ゆっくりとこちらを向く。

 俺は鉄格子を開けようとしたが、鍵がかかっていて開かない。


「〈白刃〉」


 鈴菜に当たらないよう、聖剣で鉄格子を壊す。からん、と地面に落ちた鉄の棒を蹴り飛ばすと、俺は鉄格子の中に入った。

 俺はゆっくりと鈴菜の頬に触り、彼女の感触を確かめた。

 本物だ。

 一度偽者に騙された俺がこんなことを言っても説得力なんてないかもしれない。でも、今度こそ間違いない。絶対に……だ。

 

「大丈夫か? あいつに何かされなかったか?」

「そうか、魔法は解けたのか?」

 

 俺に触れたせいか、鈴菜は少しだけ気力を取り戻したらしい。……なんて言うのは少し自惚れすぎか?


「ああ、解けたぞ。あの女魔族も倒した。だからもう心配ない」

「君や乃蒼がここに来た時、何度か声をかけたんだがね。気がついてもらえず、さすがにもうだめかと思ったよ」


 俺がここに来たことにも気がついていたのか。

 なんてことだ……。その時牢屋を一つ一つ調べていれば……こんなことにはならなかったのか?

 悔しさに胸を掻きむしられるような感覚だった。あんなに心配して不安になっていたのに、その答えがこんな近くにあったなんて。


「……すまない。こんなに近くにいながら気づけなかった、俺の不甲斐なさを許してくれ」

「でもこうして助けにきてくれただけで十分さ。僕は君のことを信じていたからね」


 力なく笑う鈴菜。こんな風に褒められてもうれしくなかった。


「と、とにかく医者に診てもらおう。歩けるか?」

「この世界の医者は信用できないな。変な民間療法を押し付けられて、逆に体を壊してしまわないか不安でならないよ。こんな時、時任がいてくれれば……」

「……あいつは優秀だったからな。俺なんかより……」

「ふふ、すまない。わざと名前を出した。嫉妬したかい?」

「……別に」

 

 ちょっと嫉妬したことは秘密にしておこう。

 俺は鈴菜を背負って、すぐに医者の所へと向かった。

 


 ――後日談。


 鈴菜はすぐに医者の元へと連れていかれた。科学知識に乏しいものの、妊婦の検診に対する経験が豊富な医師だ。

 彼に診てもらい、そして自分自身でもしばらく経過を見たのち、鈴菜は結論を下した。

 お腹の子は、無事であるだろうと。

 俺はほっと胸を撫で下ろした。

 

 後日、マルクト王国から便りが来た。

 領内に侵攻していた魔族たちをほぼ駆逐。約一割は降伏、残り全員が倒されたとのことだ。

 降伏した魔族たちは穏便に扱われ、領内の無人地域へ開拓移民として派遣されたらしい。へき地に無一文で追放したというわけでもなく、中央からある程度の物資供給を受けている。

 悪くない話だ。争いの芽が生まれないことを願おう。


 マルクト王国、そしてグラウス共和国内の敵対魔族がいなくなったことによって、両国の国交が再開された。陸路と海路による物流の回復は、多くの資源の取引を可能にした。欲しかった食べ物、きらびやかな服に特殊な鉱石。様々な特産品は戦争で荒んだ人々の心を慰め、市場は再び活気を取り戻している。


 咲、そして国王のアウグスティン8世は俺や一紗にとても感謝しているらしい。以前の戦争協力はもとより、敵の親玉である大妖狐マリエルを打ち取った件がかなり助かっていたようだ。

 彼女を倒したことは、つぐみによって大々的に宣伝された。マルクト王国でも多くの兵士たちが士気を上げ、そして敵対する魔族たちの気力を削いだらしい。

 戦後処理が落ち着いた後日、戦勝パーティーが開かれるから来てくれないかと誘われた。正式な招待状はまだなのでこの件は保留にしているが、つぐみにもお伺いを立てておいた方がいいかもしれない。


 激戦区にはモニュメントが建てられ、そこには俺や一紗の石像が建てられる予定らしい。やめて欲しい。どこかの国の独裁者じゃないんだから……恥ずかしくて死にそうになる。


 未だアスキス神聖国側の魔族は暴れ回っているものの、もはや俺たちの周囲に戦争の影は残っていない。


 世界は、また一つ平和になった。


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