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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
大妖狐編

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メイド服の子猫


 手札を切る。

 この膠着した現状を打破するために、俺は一つの手を打つことにした。


 決断したら即実行、と思い俺は彼女・・の元へと向かった。


「匠君」


 ……と、ドアの前に立った俺の耳に、聞きなれた声が聞こえてきた。

 乃蒼だ。

 そうだ忘れてた。乃蒼が話をするって言ってたな。まずはその件から片付けないと。

 

 出鼻を挫かれてしまった形になったが、彼女を無視するわけにはいかない。俺は乃蒼を出迎えるため、部屋のドアを開いた。

 部屋の前には乃蒼が立っていた。そして、その後ろには――


「子猫?」


 須藤子猫。


 俺のクラスメイトである子猫が、なぜかメイド服を着て乃蒼の後ろに立っていた。普段どおりネコミミ尻尾付きだから、メイド服と相まって随分マニアックな容姿になっている。


「ふにゃっ!」


 突然子猫が声を上げる。

 彼女の視線が部屋の奥にあるベッドへと向いている。あのどう見ても一人用ではなく豪化過ぎる家具を見て、彼女はいったい何を思ったのだろうか。あまり想像したくない。


「……あ、匠君、お久しぶりにゃ」


 なんでこの屋敷のメイド服着てるんだろ? 近くの泥沼で転んで、着替えさせてもらったりしたのか?


「ホント、久しぶりだな。例の戦争のあとどうなったのか、ずっと心配してた。今は大丈夫なのか? 夕方だったら、あの店かなり忙しいだろ?」

「……それが、ラ・ネージュ潰れちゃって」


 あーあのお店つぶれちゃったのか。ご愁傷様。

 問いただすまでもなく例の戦争の影響だろう。こうして身近に被害が出ているところを感じると、改めて魔族の恐ろしさが身に染みてくる。


「私を、ここで雇って欲しいにゃ」


 子猫が頼み込むように頭を下げてきた。


「雇うって? ここで料理人とかメイドとして働きたいってことか」

「りょ、料理はそんなにうまくないから、できればメイドがいいにゃ。皿洗いとか掃除とかなら……」

「私からもお願い」


 乃蒼が続いてそう言った。


「須藤さん、かわいそうだよ。仕事がなくなって、将来どうするか不安で。昔の私みたいに……心細いんだと思う。だからお願い匠君。須藤さんを、この屋敷で雇ってあげて……」

「乃蒼……」

 

 昔、屋敷で留守番してた頃の自分に子猫を重ねているのか?


「…………」


 俺たちは異世界人。また新しく働きだすとしても、いろいろと壁が多いと思う。

 ここで見捨てるのは、ちょっと冷たいよな。


「いいさ、俺だって顔見知りのクラスメイトが野垂れ死んでたら嫌だからな。じゃあ、子猫は今日からここのメイドってことで。仕事については乃蒼に聞いてくれ」

「ありがとにゃ」

「はは、それはそうと子猫、無理しなくていいんだぞ? 別に働かなくてもいい。俺だって今はそれなりの金がある身だからな、同じクラスだったよしみで養ってもいい」

「そ、そんな申し出受けれないにゃ……。お金をもらう以上はちゃんと働くにゃ」


 なんとまじめな受け答えだろうか。この申し出を受けたのが一紗だったら、きっと骨まで俺のことをしゃぶりつくすに違いない。


 まじめな態度には俺も好感を持った。これなら、気持ち良くこの屋敷で働いてくれると思う。


 こうして、子猫が俺たちの屋敷にやってきた。



 夕食時、みんなに子猫のことを紹介した。

 『また? また女が増えるの?』みたいな表情をされたため、あわてて弁明することになった。恥ずかしい限りだ。


 そして、深夜。

 俺は例の対策を行うことにした。偽者探しに関する、俺の戦略だ。


 自分で解決することができないなら、クラスメイトの中で協力者を募るしかない。


 というのが俺の出した結論だ。


 ここは地下牢。薄暗い空間は、エリナがいたころはろうそくが焚かれて見張りもいたが、今は誰もいない。


「少し、内密な話がしたい」


 俺はそう切り出した。

 ここには基本、誰も来ない。

 だからこそ、秘密の話をするにはうってつけなのだ。


「――つぐみ」


 俺の眼前にいる少女、赤岩つぐみはこくりと頷いた。背後のドアからわずかに漏れるランプの光が、彼女の顔を照らす。緊張と不安、二つの感情が読み取れた。


 クラスの女子に協力を頼むといっても、彼女たち自体が容疑者なのだ。誰それ構わずこの話題を持っていくわけにはいかない。

 だから俺は絞ることにした。誰に頼むのがベストか、その答えを。

 その結果、候補者は二人。


 一紗とつぐみだ。


 一紗は先のマルクト王国戦で大活躍をした。つまり魔族たちにとっては、自分の仲間たちを大虐殺した怨敵なのだ。

 偽者の情報をくれた魔族フーゴは俺に言った。大妖狐マリエルは仲間思いであると。ならば大切な部下たちを喜んで倒しまくった一紗は、本物である可能性が高い。

 ちなみにりんごや雫はその武器の性質上、大活躍したとは言い難い。役に立ったことは否定しないが……あえて慎重に話を進めるなら一紗を選ぶのがベストだ。


 そしてつぐみはこの国の大統領だ。常日頃から多くの人間に監視されている。業務、交友関係は俺たちの中で群を抜いている。俺が一紗や璃々の代わりをすることはできても、つぐみの代わりをすることは不可能だ。

 おそらく、俺たちの中で最も成り代わるのが難しい人間。

 そもそもつぐみが偽者であるならば、先のマルクト王国援軍の件はうやむやにしていたはず。ならば彼女もまた、偽者である可能性が最も低いと言える。


 二人のうちどちらに話をするか悩んだが、ここはつぐみに話しをしておくことにする。魔族のスパイは国家の一大事。もし彼女が容疑者でなかったなら、俺は真っ先にこの件を報告していただろう。


 俺はつつみ隠さずつぐみに偽者の件を打ち明けた。

 

 冷えた石畳に腰掛けたつぐみは、頭痛がするようなしぐさのまま固まっていた。深い思考にその身を委ねているに違いない。


「咲の嘘、何かの勘違い……であればいいとは思ってる。でももし、万が一俺たちの中に偽者がいたとしたら……本当の俺の婚約者は……。なあ、俺はどうすればいいんだ? どうすれば、偽者を見つけらえる?」

「容姿が瓜二つ、記憶もコピー。打つべき手は限られている」

「具具体的には?」

「スパイとしてこの地にやってくるということは、本物の記憶を持ったまま自分の意思を保ち、行動することができるということ。他人の記憶は他人の記憶だ。慣れない作業、する必要のない事、やりたくない事、手足を使う動作、そのどこかで矛盾が生じるはずだ」


 お……おお……。

 さすがつぐみ。俺よりはるかに冴えた考えのまとめ方だ。


「匠が判断した通り、奴は仲間を殺すことを躊躇する可能性が高い。ならばそれを逆手にとって、全員をテストしてみるべきだ」

「テスト? 具体的にはどうするんだ? 魔族の絵を描いて、それを足で踏めるかどうかテストでもするのか?」

「訓練だ」


 まるで命令するかのように、鋭い口調でつぐみは言った。

 

「大妖狐マリエル傘下の魔族の捕虜を使って、訓練を行う。私たちが本当に彼らを殺せるか、その機会に証明するのがベストだ」

「訓練? 魔族侵入を想定した訓練ってことか?」

「そうだ。一度訓練のようなものをしておく必要もあるだろうと、前から考えていてな……。抜き打ちで、魔族が攻めてきたということにして行う予定だ」


 確かに、最近はいろいろと物騒だからな。

 悪魔王イグナートとの戦争。そして偽者の侵入。戦闘員、非戦闘員関係なく直接対決の危機にさらされるこの状況において、訓練のようなものは必要だと思う。

 俺は訓練自体に異論をはさむつもりはない。むしろ問題は……。


「こ、殺すって、魔族たちをここに引き入れるってことか? その捕虜はどの程度弱ってるんだ? 弱ったふりをして人質でも取られたら、今度は俺たちのピンチだぞ?」

「すでにダークストンからダグラスを呼び寄せている。奴の目をもってすれば、怪しげな魔法の発動をすぐに察知できる。これまで何も起こらなかったわけだから、問題ないと言っていいと思うが……。かなりの傷だからな、瀕死と言ってもいいぐらいだ……」


 つまり、死ぬほど弱らせた魔族を屋敷近くで解放して、クラスの女子に倒してもらうと。

 さ、さすが革命の独裁者。なんかやることが残酷だな。こうやって貴族たちをいじめてたのだろうか……。

 人道的観点から言えば止めるべきではあるが、彼女以上によりよい方法が思いつかないため、否定することはできなかった。

 偽者の存在は俺たちの命に係わることだ。俺も心を鬼にしなければならない。


「……俺たち勇者はこの前戦ったから除外として、璃々とエリナか。他の非戦闘員はどうする?」


 エリナはまあ大丈夫だろう。璃々は戦闘面ではかなり不安だが、弱った相手なら倒せなくもないと思う。一応近衛隊は軍属なんだから、いい経験になってくれると嬉しい。

 だが乃蒼や鈴菜はどうする? 戦闘力で言ったらゼロに等しいぞ? っと、そういえば子猫もいたな。


「魔物を召喚して、倒してもらう予定だ」

「魔物召喚って、この前まで鈴菜が研究してたやつか? さすがにスライム程度じゃ、魔族は倒せないと思うぞ?」

「ダグラスの助力でヘルハウンドが召喚できるようになった。あの魔物であれば、弱った魔族を倒すことは可能だと思うが……」


 おお……ヘルハウンドか。


 それなら、確かに倒せるだろうな。


 弱った魔族にヘルハウンドをけしかけてやっつける。

 まあ、それはいい。話の方向性は理解できた。

 ただ……な。


「……乃蒼が本当に嫌がったら中止してくれよ。優しい子だからな、魔物を召喚してぶっ殺してもらうなんて、もしかしたらできないかもしれない」


 乃蒼は優しい。鈴菜は妊娠中。本当なら、こんな怖い嘘をつきたくないと言うのが本音だ。

 だがもし、本当の彼女たちがこの場にいなかったら? そう思うと、いてもたってもいられなくなってしまう。


「私も鬼ではないからな。その時は中止にするさ。ただ、私自身は絶対にやるから、その様子は見ていて欲しい」

「無理しなくていいんだぞ? 俺はもうつぐみを疑ってない」

「そういう問題ではない。訓練とは言え、みんなを騙すことになるんだ。上に立つ者として、誠意を示す必要がある」


 やっぱ、偉い人間ってのは考え方まで違うんだな。

 この国は、きっとこれからも安泰だと思った。


 こうして、つぐみ&ダグラス&俺の監修のもと、魔族出現を想定した訓練が開始されることとなった。


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