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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
悪魔王編

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魔物ヘルハウンド



「ああ今日も、悪があたしを呼んでいる。世界の平和を守るため、聖剣片手にいざ行かん!」


 部屋の中に突っ込んできたエリナが、聖剣を光らせて走り出す。


「愛と勇気と友情のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! ジャスティス!」

「やれやれ、僕自身が戦うのはルール違反なのですが、これは致し方ありませんね」


 ……何考えてるんだエリナ。ここは俺の屋敷だぞ!


「止めろエリナっ!」


 魔族と戦いたい、という気持ちは分からないわけじゃない。でも今は、決戦を目前に控えた重要な時期。敵側の使者であるダグラスを殺してしまうのは……あまりに不味い。


「うおおおおおおおおおおっ!」


 だがエリナの気迫は無駄にすさまじく、俺の声なんすぐにかき消されてしまった。


「…………」

 

 魔族、ダグラスは無言のまま手をかざした。するとそこから光り輝く白い魔法陣が現れ、その中を通り抜けるように魔物たちが生まれていく。

 魔物召喚。

 高位の魔族が行えるという技。当然と言えば当然だが、敵地にのこのこ殺されるような低レベル魔族を送り込んでくるはずがない。彼は強い魔族なのだ。


「鈴菜、危ないかもしれないからこの部屋から離れてくれ」

「わかった。他の使用人たちにも伝えておこう」


 すぐに鈴菜を避難させる。非戦闘員がこの場にいるのはまずいからな。


「あの女を捕えなさい」


 黒い犬のような魔物――ヘルハウンドが六体。獲物を品定めし、犬歯に涎を絡ませる。

 そして、まず前方にいた一体が、エリナの喉笛目掛けて駆け出した。


 エリナは深く腰を落とすと、そのまま己の脚力を利用して激しく跳躍した。突き出したひざはヘルハウンドの顎を正確に捉え、その体をまるで木の葉か何かのように吹っ飛ばす。

 壁に激突したヘルハウンドに、エリナは剣を突き刺して殺した。光り輝く聖剣ゲレヒティカイトは、その威力をいかんなく発揮していた。

 

 ――一体目。


 仲間を殺されたヘルハウンドは激しく吠え始めた。前方にいる二体が、左右から挟撃してエリナを襲う。

 エリナは体をひねって、まるでプロペラか何かのように上半身を回転させた。聖剣の空気を切る音が周囲に木霊する。

 その剣は正確かつ効果的にヘルハウンド二体の口元を捉え、そのままの勢いで頭部全体を引き裂いた。


 ――二体目、三体目。


 距離をとったヘルハウンドが激しく咆哮した。その声は空気の弾丸となり、遠距離からエリナを襲う。

 対するエリナはそれをよけようともせず、剣先を突き出しそのまま駆け出した。

 切断。

 空気塊は聖剣の力によってやすやすと切断され、エリナの両側へと散っていった。走るのを止めない彼女はその勢いに任せ、そのまま二体を一刀両断。

 綺麗な線を描いたその軌跡は、空中に血の一文字を作り出す。


 ――四体目、五体目。


 もはや戦意を失ったらしい残り一体のヘルハウンドは、情けない悲鳴を上げながら後ずさっていた。

 追い打ちをかけるように、エリナは残り一体を聖剣で切り伏せた。


「びくとりぃ! 正義は勝つ!」

 

 Vサインを決めてこちらに微笑みかけてくる彼女を見ると、緊張感が薄らいでしまう。


 さすが、将軍として抜擢されるだけのことはある。その力は折り紙付きというわけか。


「そしてえええええええええええええええええええ、ラスボス覚悟!」


 と、まずい。鮮やかな戦闘風景にちょっと感動してしまったが、エリナを止めないといけないんだった。


 すでに臨戦態勢のエリナは、掛け声を上げながら魔族ダグラスへと突撃している。

 対するダグラスは背中に翼を出現させ、こちらもまた臨戦態勢。


「落ち着けっ!」


 俺は、二人の間に割り込んだ。

 正面の魔族はにらみを利かせてけん制。そして背後のエリナは背中に回した聖剣で止める。

 エリナの攻撃は重い。魔族ダグラスに至っては、俺を殺せるかもしれない魔法を使う可能性がある。

 あまりに危険。とりあえず、現状維持だ。


 膠着状態に陥ったこの状況。やがて、エリナは冷静さを取り戻したらしく、剣を収めた。

 

「匠……君」

「僕は最初から落ち着いてはいますが……、あなた様の屋敷を汚したことは謝罪しましょう」

 

 ダグラスはそう言って、散ってしまった魔物の肉片や体液を片付け始めた。執事服を着ている彼だから、こうして掃除をしていると本当に使用人のように見える。

 薄々分かっていたことだが、このダグラスとかいう魔族。話せばわかるタイプだな。こいつがもっと偉い魔族だったら、きっと戦争に関する交渉もできていたと思う。


「エリナ、割り込んですまなかったな」


 俺は改めてエリナに向き直った。悪気はなかったようだが、いかんせんタイミングが悪すぎた。

 彼女の有り余る気力は、来るべき決戦の日に発揮してもらうことにしよう。


「つぐみか誰かから、魔族の話を聞いたんだよな? あいつを今倒すのはまずいんだ。自重してくれ」

「匠君が困ってた! だから助けた! 匠君が言うなら止める!」

 

 えへん、と胸を張るエリナ。

 お、おう。本当に俺の言ってること分かってるのかな?


「……余計な争いが生まれず、助かりました。感謝いたします」


 ダグラスはこびりついた魔物の体液を拭きとりながら、頭を下げた。


 さてと、エリナはこの都市にしばらく滞在するのか?

 そういえば、魔族襲来に対応していくつかの軍団を呼び戻すって話だったな。エリナもその過程で呼ばれたってことか。

 戻ってきて早々、例の都市滅亡騒ぎだ。不運な奴。


 しかし戦力増強は嬉しいところ。

 決戦の話、エリナにもちゃんとしておかないと……。

 あと変に暴走しないよう、俺も注意して話をしないとな。


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