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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
勇者の屋敷編

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142/410

共和国第二都市の壊滅

 

 グラウス共和国南方、ダークストン州。

 この地の州都、ダークストンは共和国第二の都市として繁栄を謳歌していた。

 半島の端に位置するその都市は天然の良港に恵まれ、その立地から西のマルクト王国、東の都市国家との貿易が盛んだ。

 共和国の南部であるがゆえに栽培できる作物、とれる魚介類、木の実やキノコも首都近郊とは大違い。首都との交易だけで相当量の金銭を稼いでいる。


 昨今の魔族侵攻に対してもぬかりはない。元々存在していた城壁は堅牢。それに加えて共和国軍2万人と傭兵3000人で構成される軍隊は、必要とあればすぐに出撃できる。一人で魔族を倒すことはできなくとも、50人、100人で囲えば勝利の可能性は格段に跳ね上がる。


 さらに、赤岩つぐみが起こした革命の余波で、貴族たちの保有していた聖剣・魔剣が兵士たちの間にもわたるようになってきた。

 魔剣・聖剣を持ち、扱うことのできる者は、この州に五人。

 適性は匠たちに遥かに劣るものの、百人力とも称せる彼らは、門の要所に配置されている。

 まさに盤石の布陣。匠たちがいる首都を除き、この国、否、世界で最も防衛の進んだ都市と言っても過言ではなかった。


 しかし、今、そのダークストンは存在しない。

 まるで火山にすべてを焼き尽くされたかのような茶色い荒野に、白い煙が立ち込めている。ここはかつて、栄えある州都ダークストンだった。ところどころに点在する瓦礫や、荒野の遥か先に見える途切れた街道がそれを何より示している。


 その、上空。高度11kmにて。

 背に生えた翼で空を飛び、上空から荒野を俯瞰する一体の魔族がいた。


「かかっ、かかかかかか」


 魔族三巨頭の一角、イグナートである。

 心優しい好々爺のような姿をした、執事風の男。背中にコウモリのような羽さえ生えていなければ、ただの人間といっても違和感がないだろう。


「イグナート様、よろしいのですか?」


 背後に控えていた、同じくコウモリ風の翼をもつ魔族が口を開いた。

 名は、ダグラス。

 彼はイグナートの副官として、その行動を補佐する役割がある。彼と同じように黒いスーツのような服。髪型は整髪料で固めたオールバック風であり、清潔で紳士な印象を受ける。


 今回の惨状はすべてイグナートの働きによるもの。このダグラスはずっとその様子を背後で見ていただけだ。


「……ここは第二都市。この国を滅ぼさんとするのであれば、北にある中枢都市を先に攻撃すべきだったのでは?」

「よい」


 イグナートは軽く頷いた。


「考えあってのことじゃ。何も気にすることはない」

「…………しかし、これではあまりにも……。人間を倒す、というよりはむしろ苦しめて虐殺しているかのように……」

「かかかっ、これはおかしなことを言うのうダグラスよ。仮に、仮にじゃ。わしが人間を苦しめ虐殺していたとして、何か問題があるのかのぅ……」

「…………過ぎた発言でした。お許しを」


 ダグラスはうやうやしく頭を下げた。軽率な気持ちで主に逆らうことなどしない。

 だが胸中で疑念は渦巻いている。


 らしくない。

 主、イグナートは策謀を働かせて敵を陥れるタイプだ。このように直球勝負で相手を殲滅したりはしない。理詰めと、わずかな遊び。力押しでない何かが垣間見れる、そんな行動をする……はずなのだ。

 何が彼を、この行動に駆り立てているのだろうか?


「わしの究極光滅魔法メギドは完全無敵。今は亡き魔王陛下を除き、誰もわしを止められる者などおらぬよ」


 イグナートはしたり顔であごひげを撫でた。


 究極光滅魔法メギド

 これはイグナートオリジナルの純魔法であり、この州都ダークストンを一夜にして壊滅させた元凶である。

 一日を費やして空中に描かれた魔法陣。この魔法が発動すると、そこから一度に万を超える閃光の矢を地上に降り注ぐ。

 矢一本で半径100㎡を破壊する。それを万も放つわけだから、この都市を荒野に変えるには十分すぎる量であった。


 反撃する隙も、逃げる時間も与えない。攻撃ははるか上空からやってくるため、仮に気付けたとしてもそこから逃げることは難しい。


 だからこそ、副官ダグラスは思う。

 これは戦いではない。ただ、相手を滅ぼすための殲滅だ。

 こんな戦いに何の意味がある、と。


 口に出すことがないのは、目の前の魔族が尊敬する主であるから。

 

「さてダグラスよ。命令を与える」

「はっ」

「これを……」


 イグナートはそう言って、一枚の手紙を懐から取り出した。

 ダグラスはその手紙を受け取ると、封を開けることなく表と裏を確認した。


「こちらの方に?」

「然り」


 手紙に裏には、宛名らしき名前が書いてあった。ダグラスはどの人間がどこに住んでいるか全く知らないが、調べる方法がないわけではない。


「イグナート様はどちらへ?」

「わしは北へ向かう。まずは魔法陣を完成させねばのぅ。そのあとは……、そう…………べては、魔王陛下……」


 イグナートはブツブツと独り言をつぶやきながら、北の方へと向かっていった。


 衛星どころか飛行機すらないこの異世界。翼をはためかせ、成層圏を飛行する彼の姿を捉えることは、不可能。

 それは同時に、究極光滅魔法メギドの予防が不可能であることを意味する。

 匠たちの住む首都に、ゆっくりと……崩壊の危機が訪れていた。


新連載始めました。

『仮想通貨で大損した俺、異世界にてSSSランク相場師として億り人になる』です。

 

よろしければどうぞ。

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