表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
大侵攻編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

126/410

無人の村

 俺たちは魔族たちの攻撃を退け、森の中へ入った。

 敵が追ってくる気配はなかった。飽きられたのか、それとも俺たちを警戒したのかは知らないが幸運だ。

 そうして、迫りくる危機を一時的に脱することができたわけだが……。


 俺たちは、新たな脅威に遭遇していた。


「雫、まただ、止まるぞ」 

「あそこにも……」


 俺たち二人は、息を殺しながら茂みの先に視線を移した。


 魔族。

 魔族。

 魔族。


 そこには、魔族が数体いた。ここから500mぐらい離れているところにも魔族がいた。さらに3km程度のところにもいた。要するにこの辺、奴らの密度が高すぎるのだ。

 RPGゲームのエンカウント率を彷彿とさせるような発見率だ。経験値稼ぎにはもってこいかもしれないが、今の俺にはそんな余裕なんてない。ゲームオーバーはすなわち死。セーブポイントなんて現実には存在しないのだから……。


「…………」


 魔族に視線を移す。誰かを探しているというわけでもなく、目標が定まっているというわけでもなく、奴らは退屈な顔をしながらこの辺りをうろうろとしている。

 こいつら、道も分からないくせに洞窟から這い出てくるから、道に迷ってるんだ。

 俺がそれを理解したのは、ついほんの少し前だった。


 そもそもあの迷宮の中に引きこもって生活してた魔族がほとんど。道とか立札とかよくわかっていないのかもしれない。

 空中を飛べる魔族はごく少数。そして仮に空からこの大地を眺めたとしても、首都や地方の大都市は距離があるうえ、山や森のせいで見にくい位置だ。


 社会的常識を知らない魔族たちに、突然世界が滅ぼされることはなさそうだ。仲間同士で協力し合ってないならなおさらだ。


 ともあれ、しばらくは動かない方がいいな。こっちは完全な森の茂みだから、不用意にあいつらが入ってこないとは思うけど。


「……雫」

 

 少し時間に余裕ができたので、俺はこれまでずっと聞きたかったことを、雫に問おうと思う。

 

「どうしてあの時、逃げなかったんだ?」

「……そ、それは」


 雫は苦し気に目を逸らした。


「迷宮に逃げろって言ってたはずだ。俺が敵の攻撃を防ぎきれたからよかったけど、もしあのまま死んでたら、あの魔族たちはきっと雫のところに向かってた。そうなったら、お前、死んでたんだぞ? どうして……」

「お前が……死んだかと思った」


 雫が、泣いていた。


「怖かった。一人になるのが。一紗やりんごに何て言えばいいか、そんなことばっかり考えて……。私は、私だって……心配、する」


 雫は肩を震わせながら、縮こまった。

 ショックだったんだな。俺もあの時、もう自分が死んだと思っていたし。


 銀髪を震わせ、目元の涙を拭う雫の仕草は、いつもの彼女と違ってどこか弱々しい感じだった。

 俺は唐突にやるせない気持ちになった。ピンチを切り抜けていい気になってたけど、こうして女の子を傷つけてしまったわけだ。

 勇者失格だな。

 

「悪かった、悪かったって。こうして生きてたんだからいいだろ? 頼むから泣き止んで……」

「……うう、うるさいっ! 泣いてなんかない!」

 

 伸ばした手は、雫に振り払われた。



 俺たちは警戒しながら森の中を進んだ。


 三歩進んで二歩下がる、を繰り返した。慎重に慎重に。俺たちに余裕なんてないんだから。


 発見する魔族たちは、いずれも初対面。まさか俺のような人間がまだこの場所に残っているとは思ってもいないらしく、警戒心はゼロ。軽く隠れているだけですぐにどこかへ立ち去っていく。

 戦闘は、最初に出会った三魔族以降行っていない。


 そして俺たちは、そこにたどり着いた。

 村だ。

 ここは、迷宮に入る直前一紗たちとともに寄った村であり、手紙で指定された俺たちの集合場所だ。

 

 ここは村の中心、無人の家。木造の簡素な造りで、この部屋には調理器具とテーブルが、そして隣の部屋にはクローゼットやベッドが置かれている。つい最近まで人が住んでいた気配はあるものの、今は誰もいない。


 ここへ隠れながら、俺たちは現状を確認していた。


「誰も、いないな」

「ああ……」


 村に血の匂いはない。建物が破壊された形跡もない。

 放置された家畜や鳥たちの鳴き声が響く、牧歌的な田舎村だ。

 ただ魔族と、それに人間が残したらしい新しそうな足跡が見て取れた。


「あまり大きな争いは起きなかったみたいだな。あいつらはきっと大丈夫だ」

「……一紗、りんご」


 結局、この村で一紗やりんごを見つけることはできなかった。

 差し迫る魔族の脅威に対して、一紗とりんごは逃げた。おそらくは村人たちの避難を手伝いながら。

 その結果、この村に人はいなくなった。誰もいなければ魔族もこの村を襲う意味がなくなり、その結果としてこの地は無人となってしまったということだ。


「雫、今日はここの家で泊まろう」

「そうだな、私もそれでいいと思う」


 正直なところ、ここが絶対安全だとは言えない。だが、魔族たちがうろうろしている森の中よりははるかに危険は少ないと思う。新たな侵入者が現れれば、家畜たちが伝えてくれるだろう。


 俺たちも緊張の連続で疲れた。そろそろ休憩を取らなければ、万が一戦闘があった時に支障が出る。


 そういえば、魔族は夜目が効くのだろうか? それはきっと、種族によって違うんだと思う。人間みたいな姿をした奴らが、暗い方が良く見えるなんて考えにくいし、やはりその点は俺たちに近いと考えるのが自然だ。

 だとすると夜は安心、なんてのはさすがに願望過ぎか。

 

 なるべく、目立たないようにしないとな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ