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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
不幸を呼ぶ四人編

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御影の狂気(前編)


 日本、とある学園の教室にて。

 園田優たち四人は、元の世界に戻っていた。

 夜、おそらくは深夜、教室の中には誰もいない。月明かりと遥か遠くの街灯だけが周囲を照らす、暗い場所だ。


「くそっ!」


 優は教室の床を叩いた。

 結果として、匠は実の子供を失ってしまった。優たちの責任ではないとしても、悪い結果になってしまったことは否定できない。

 こんな結末は、望んでいなかった。


「落ち着け優、君は悪くない」


 隣の春樹が優を止めようとその手を掴んだ。

 床に打ち付けた拳がじんじんと痛んでいる。これ以上やれば、冗談にならないレベルの怪我になっていたかもしれない。


「気持ちはわかる。俺もこんな後味の悪い結果になるとは思っていなかった。あれでは匠がかわいそうだ……」

「…………」


 優と春樹が悲観に暮れる、そのそばで。


「ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒッヒヒ」


 元凶である御影が……笑っていた。

 血だらけの姿で教室の椅子に座りこむ御影。ゆったりとした体勢のその姿は、目的を果たしてリラックスしているように見える。

 とても、失意のまま日本に強制送還されたようには……見えない。


「御影君、何を笑って……」


 優の質問に答えることなく、御影はただ笑い続けている。


「君、その手に持っているものは……何かね?」


 春樹がそんなことを言った。

 優は御影に視線を落とした。島原乃蒼の腹部を引き裂いた彼は血まみれで、今もなお教室にその赤い液体が滴り落ちている。


 ふと、優は気がついた。

 血に染められた御影だから気がつかなかった。

 彼は、何かを持っている。

 血に染められ真っ赤、それでいて血とは思えないほどの質量をもつ……何かだ。


「あれ? 気がついちゃった? 気がついちゃった? フヒヒイヒヒヒ」


 御影は、ずっと腹のあたりに抱え込んでいたそれを両手で掲げた。血が滴り落ち、徐々に本来の姿が露わになる。

 それは、ピンク色で何かの臓器を彷彿とさせるものだった。


「これ、乃蒼の子宮・・


 誰もが、その場で固まった。

 優は言葉を失った。

 春樹も、冷静さを失い何度も瞬きを繰り返している。

 そしてあの加藤ですら、驚きのあまり息を止めていた。


「な……何やってんだよお前! ど、どれだけ人でなしになれば気が済むんだ!」


 優は御影に殴りかかろうとした。怒りで我を忘れてしまいそうだった。

 だが、それを春樹に止められてしまう。


「待て、優……」

 

 春樹の手が……震えていた。


「春樹、止めるな俺は……」

「そもそもおかしい、おかしいのだよ」

「何がだよっ!」

「……御影は匠の〈操心術〉スキルを受けていた。君は気がつかなかったかもしれないが、スキルの効果が継続してるなら、御影はこの世界に戻っても動けないはずなんだ」

「……あっ」


 優は春樹の指摘を受けはっとした。

 優は御影と加藤を元の世界に戻し、そこで普通の学園生活に復帰させるつもりだった。だが実際、二人はスキルのせいで体を自由に動かすことができず、その症状は全身不随の患者そのもの。

 もし本当に彼らのことを思いやるなら、匠に頼んでスキルを解除してもらうべきだった。優はあの時いろいろと焦っていたため、そこまで思い至っていなかったのだ。


「じゃ、じゃあなんで動けるんだ? あ、日本に戻ってスキルが無効化されたってことか? こっちの世界では、スキルとか魔法は通用しないんじゃないのか?」

「いやおかしいのはそれだけではないのだよ優。よく見ろ御影を」

「…………?」


 優は御影を見た。もっとも、怒りと疑念に心を濁らせた今の自分なら、何か重要な事実を見落としていたとしてもおかしくないが。

 案の定、御影の様子を見ても何も分からなかった。両手・・で乃蒼の子宮と称するものを掲げているだけだ。


「すまん春樹。俺、今冷静じゃないから何も分からないんだ。悪いけど教えてくれないか?」

「その左腕だ」

「左腕……?」


 優はすべてを察した。

 御影の左腕。確かに、あの異世界で優が切断したはずだった。それが決め手となって、御影は敗北したのだ。

 だが今、彼は右手と左手を使って子宮を持っている。切ったはずの左腕が……元に戻っているのだ。


 突然笑い出した御影の不気味さに気を取られ、そこまで頭が回っていなかった。


「俺が切ったはずなのに……。お、お前、どうやってその腕治したんだ?」

「どうやってて、スキルに決まってるでしょ? 下条君のスキルだってそれで治したんだよ」

「馬鹿な、御影君のバッジは俺が弾き飛ばして――」

「あはっ」


 御影は笑いながら片手をポケットに突っ込んだ。そして素早く手を引き抜き、中にあったものを地面に散らした。

 地面に落ちたその緑色バッジの数は多数。十、否十五個はくだらない。

 異世界人がスキルを使うために必要な、例のバッジだ。


「はああ?」


 優は思わず呆けてしまいそうになってしまった。これほどの数のバッジを見たのは初めてだったからだ。


「な、なんだよこれ? なあ春樹、あの公爵は御影にここまで肩入れしてたのか? 予備の予備、というか二週間分以上のバッジを預けて……もし御影が反乱でも起こしたら……」

「……優、俺はあの場に後から来たから知らないのだが、御影のスキルは……何なのかね?」

「え? 御影のスキルは時間を操るスキルで……」

「……やられた」


 春樹が顔をしかめた。


「御影。君は……こいつを修復・・したな?」

「さすが学園で二番目の天才。察しがいいね」


 どうやら御影のバッジは修復したものらしい。だが、冷静さを失っている優にはその言葉の意味が理解できなかった。


「僕は乃蒼たちと会う直前、公爵様の屋敷があったところに行ったんだ。洪水のせいで荒れ果てた場所だったけど、廃墟同然のそこから壊れたバッジを見つけた。昔、下条君がスキルの練習に使ってた分だろうね」

「な、なあ春樹。俺、ちょっと今頭働かないからさ、何があったか教えてくれないか?」

「御影は時間を操ることができる! バッジの時間を過去に戻せば、壊れる前まで戻すことができるのだよ!」

「あ……あ……ああああああああああああああっ!」


 優は今、初めてその事実に気がついた。

 御影はスキルでバッジを壊れる前に戻し、修復したのだ。

 これは非常に恐ろしい未来を示唆している。御影は手持ちのバッジを延々と修復して再利用することができるのだ。

 彼にはバッジの供給源たる貴族など必要ない。この日本で、一人、ずっと最強チートスキルを使用できる……規格外の存在になったのだ。


長くなってしまったため前・中・後編三回予定。

今日中に全部投稿します。

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