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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
不幸を呼ぶ四人編

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賢者の決断


 すべてが終わった。

 春樹、優、加藤、そして御影は元の世界へと戻った。


 戦争は完全に終結した。


 生き残りの貴族たちは、マルクト王国側が監視付きで保護しているらしい。

 これだけなら戦争前と何も変わらないように見えるが、実際のところ以前よりはるかに扱いが悪くなったらしい。

 女を奴隷にし、陰で王国に干渉し、そして何より魔王と結託していた貴族たちだ。もはや世界の敵と言っても過言ではない。

 奴隷もすべて取り上げられ、衣食住も制限されたらしい。囚人、というのは少し言い過ぎだがそれに近い扱いを受けているんだと思う。

 もはや軟禁状態に等しい亡命貴族たちは、完全に政治的影響力を失った。


 俺たちは勝利した。戦争にも勝ったし、御影も追い払った。

 だが、その代償は大きかった。


 子供を失った俺はもとより、近くで乃蒼と触れ合っていた他の女の子たちも……心に少なからずダメージを負っている。

 乃蒼はいい子だった。そんな彼女がこんなひどい目にあうなんて、あんまりだ。


 ……帰ろう。

 屋敷に戻って、ゆっくりと休もう。

 そうすればいつか、乃蒼も俺も……元気になれると信じて。



 ********


 グラウス王国旧貴族、生き残りは戦争があった地区の西方へと移動していた。

 ある種の拉致にも等しい扱いだ。


 当初住んでいた家とは雲泥の差、武骨な造りをした砦のような建物の中に全員が押し込められた。

 一応私室は与えられているものの、出入りや面会は完全に制限されている。囚人、といっても差し支えのない扱いだ。


 そんな貴族たちの嘆きが響く、建物の中の一室。


「…………」


 杖を構えたその男は、決意に燃えた瞳を光らせた。


 賢者である。


「フェリクス公爵……」


 これまで、賢者は受け身だった。

 彼は有能ではないが、愚かというわけではない。フェリクス公爵が的確な指示を与えていたころは何も考えることなく己の責務を全うしていたが、今となってはそれも叶わない。

 公爵は魔王の一件以来、完全に気力を失ってしまった。待っていれば回復するかもしれないが、このままでは情勢は悪くなるばかり。

 何かを、しなければならない。

 そして賢者には、切り札がある。


 異世界人召喚だ。

 

「ふ……ふふふ、ふふ……」

 

 異世界人召喚はもろ刃の剣。御影新のような強力な手ごまを増やせる可能性がある一方で、赤岩つぐみのように危険極まりない敵を招き入れてしまうかもしれない。

 しかし、もはやリスクがどうとか心配している段階は過ぎた。ここで囚人のように扱われているこの現状こそが、すでにどん底なのだから。


 ……確かに、異世界人は時として牙をむく。

 だが、どれだけ優秀なスキルを持っていても、どれだけ魔剣に適性があったとしても、召喚された時点ではただの人間。

 そこで殺してしまうことは、賢者たちにとって容易い。


 賢者の立てた計画は極めてシンプルだ。

 まず大量の異世界人を召喚し、面接。貴族たちの現状、女性に対する考え方を包み隠さず説明し、報酬を提示し協力者を募る。

 快く協力してくれるものは味方とし、そうでないものは殺す。赤岩つぐみのような禍根は二度と残さない。


 異世界人召喚は頻繁に行えるものではない。莫大な魔力が必要になるし、何より召喚場所の指定も重要だ。向うの世界が夜であれば人は捕まりにくいし、女であればスキルも使えず利用価値は下がる。


「……行くか」


 監視もあるから、どれだけの人数を呼べるか分からない。まずは大人数、できる限り召喚し、可能ならばこの地からの脱出を試みる。


 賢者は召喚魔法を唱えようとした……が。

 不意に、腹部に衝撃を感じた。


「な……こ……」

 

 声を上げるたびに、口から血が漏れてくる。改めて己の腹を見ると、そこから鋭利な刃物が生えていた。


 刺された。


 誰に? どうして? 

 ここはマルクト王国が監視を徹底している建物。そう簡単に刺客がやってこれるわけがない。

 あるいは……阿澄咲が用意したのか?


 刃物が抜かれ、賢者は衝撃から地面に倒れこんだ。

 血が体から抜けていく。寒い。頭がぼんやりとして……死に近づいていくのを感じる。

 それでも、己を死に追いやったものの顔を拝もうと、最後の力を振り絞って……目線を上げた。


 そこには、一人の少女がいた。


 全身に黒い布を身に着けたその姿は、暗闇に紛れることに特化している。暗殺者や間者が好んで使う、いわゆる忍び装束のようなものだ。

 彼女の背は低く、凹凸はないが華奢な体は紛れもなく少女のもの。衣類からわずかに漏れる二の腕や太ももは、細くありながらもほどよく鍛えてあるかのように見える。

 黒い髪はまるで定規をあてたように水平に切られたショートカット。その奥に隠れる瞳は、見るものを凍らせてしまうかのように……冷たい。


 そしてその手には、血の滴る小刀を握っている。


「我ら闇人。影を生き、決して表に出ることのない暗部に生きる。我が名を聞き、恐れおののけ」

 

 少女は目を瞑り、小刀の血を振り払った。


「我は日隠月夜ひがくれ つくよ。〈黄昏〉が長」


 賢者は、そこで意識を失った。

 


 旧貴族のうち、国王とフェリクスに次いで権力を持っていた大魔法使い――賢者が死んだ。

 そして人類で唯一異世界人召喚を行える男であった彼の死は、御影や加藤の帰還が不可能になったことを意味する。


 すべては、時任春樹と阿澄咲の采配。

 強力な異世界人が貴族たちの手に入らないように、賢者を暗殺した。


 とどめを刺した彼女・・は、阿澄咲によって用意された暗殺者である。


 少女の名前は 日隠月夜ひがくれ つくよ


 どの国にも属さぬ暗殺ギルド、〈黄昏〉の頭領にして、匠たちのクラスメイトでもある。


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