57,象徴をぶっ壊せ!!
「ライー! 準備はいいー?」
「おい待て! 待ってくれ!!」
「お前は聖女なのだろう!? こんな所業……神への冒涜ではないかっ!!」
ライへと声をかけたはずなのにぎゃあぎゃあと返事を返しているのは、あの日捕らえた大司教と司教だ。
その後ろに、私を軽んじ続けてきた大神殿の神官や巫女も、大神殿を目の前に座らされている。
更にそれより離れたところで、なんだなんだと遠巻きに見物している民達が。
全員拘束しているので大丈夫だろうが、万が一があってはいけないので、民達を守らせるために兵士達を立たせている。
その先頭で仁王立ちしていた私は大神殿を見上げていたが、その耳障りな大司教と司教の声で振り返る。
「神への冒涜なんて、これまでしてきたことを棚に上げて、よくそんなことを言えるよね。煩いからちょっと黙ってて」
そう言い捨てると、再び大神殿を見据えた。
ライや兵士達が確認を終えたのか戻ってくる。
「中には何も残ってねぇし、人も全員出たはずだから問題ないと思うぞ」
「ありがとう。じゃあ心置きなくやっちゃおっか。――取り壊しを!」
私が両親と再会したあの日から、ライとテルセロ様はすぐに行動し始めた。
元王族、そして元王妃お気に入りの元侯爵夫人。
大神殿の聖職者と癒着し、この国を支配していたとして民達に公開された。
その時、私の出自についても簡単に語られたそうだ。
ライは、民に多くの苦労を強いてきてしまったと言って、王城や大神殿にある調度品を全て金に変え、民への支援や国の発展のために使うと宣言。
その言葉通り、二つの建物から高価な品物が続々と売られていった。
それでも一度に全ては売り切れず、しかもこれから貴族達についても降爵や奪爵を行う予定をしており、領地の一部返還や国への賠償も見込まれるのだから、巻き上げる金品はもっと増える予定だ。
けれどその分、立て直しに必要となる資金も相当なものになるだろう。
巨額な金貨や売り切れなかった調度品などは、一旦国の金庫に預けた上で結界を張っておいた。
あの金の山は善人でも欲に目が眩みそうな危うさがあったので、人々のために封印したと言えるかもしれない。
そうしてもぬけの殻となった王城と大神殿をどうすべきかという話し合いの際に、
「不愉快だからぶっ壊しちゃいませんか?」
とうっかり言ってしまった私の一言で、ライとテルセロ様が爆笑し始めた。
あまりにも真に迫った顔と声だったらしく、二人にウケてしまい、まさかの採用。
本当に取り壊すことに決まったのだ。
「この国の守り続けてきた大神殿を壊そうなど! 許されん行いだぞ!」
「こんな好き勝手に振舞えば、お前に聖女の力を与えた神でさえお前を見放すに違いない!」
二人は目を血走らせて私に怒鳴り続けていた。
大司教や司教は自分達の正当性を主張するばかりで、一切反省が見えないまま今日に至ると聞いている。
愚かすぎて話にならないため、私は悠々と笑ってみせた。
「私の行いで離れていくような神様なら、そんなもの要らない。でも正直に言うと、大聖女達の負の象徴を壊すんだもん。私は寧ろ喜んでくれると思うけどね」
私はその言葉を呟くと、両手を胸の前で組む。
「結界!!」
ぶわりと大きな風が吹き、大神殿全体が結界の膜で覆われた。
そこから徐々に結界の範囲を狭めていく。
暫くすると、圧に堪えられなくなった建物がミシミシと悲鳴を上げ始め、外側の石柱が一本折れた途端、ガラガラと他の柱や屋根が崩れ始めた。
「ああぁ! 私の大神殿がああぁっ!!」
「……誰がテメェのだっつうの。民のための大神殿って言えねぇ時点で大司教失格だろ。いっそ清々しくていいけどよ」
「えぇい煩い! なんと罰当たりなことを……っ」
これまで散々罰当たりなことをして大神殿を穢してきた張本人が何を言うか。
私はどんどんそのまま圧縮を続ける。
「ディア、どこまで小さくするんだ?」
「中の空気がなくなるまで!」
「あ?」
ライは首を傾げた。
それもそのはず。
私は取り壊しを言ってみただけで、その後この建物の残骸をどうするかまでは話していなかった。
ライやテルセロ様は廃材を無駄なく使えるようにと考えていたようで、それならと閃いた。
しかし私自身、成功するか分からないため黙っていたのだ。
圧迫すればするほど、石材も木材も関係なくゴリゴリと音を立てて粉々に砕けていく。
金属はひしゃげた形状で残ってしまっているかもしれないが、それは後々どうにかすればいい。
そうして先程まで大神殿が建っていた場所には、コンパクトになった長方形の塊が出来上がっていた。
それでもかなりの体積がありそうだ。
「いや、ディア。こんな粉々の塊にしてどうすんだよ……。ここまで細かくなっちまったら運び出しにくくならねぇか? 粉が風で舞っても危なそうだし」
「まぁまぁ見ててよ! 浄化!」
困惑するライを軽く宥め、私は術を行使する。
すると、パアァと塊が光り出した。
これはあくまでも私の気持ちの問題で、この塊に染み付いた嫌な歴史を浄化しておこうというだけのもの。
やらないよりはやっておいた方が幾分気が楽になるので、心のままに浄化していく。
「じゃあ次は、結界! ……ちょっと、一つあたりこのくらいのサイズで……」
「ディア、何ボソボソ言ってんだ?」
「ごめん、ちょっと黙ってて。今集中してるから」
細かい作業が苦手な私は、こういった作業はかなり集中しなければいけない。
その大きな塊を等間隔に切り分けるように想像しながら結界を細かく展開する。
「じゃあ次は保持! ……よしっ、これでいいかな」
全ての作業が終了すると、ふぅと額の汗を拭う。
流石にあれほど膨大な数の結界を使うのはしんどいな。
しかし、こんな使い方をして疲労したなんて言ったらライに呆れられそうだ。
「大丈夫か? というか何やってたんだよ」
「大丈夫大丈夫、ちょっと細かい作業が多くて疲れちゃったけど。何をしていたかは、説明するより見てもらった方が分かると思うんだよね。ライって浮遊の魔法は使える? 物を浮かせたりするやつ」
私がそう問いかけると、ライは微妙な顔で塊を見上げた。
「……あんま得意ではねぇなぁ。それにこんな重たいもんは絶対に無理だぞ?」
「全部じゃなくていいの! 右上のほんの一部だけを持ち上げようとしてみてくれない? もし問題なく浮いたら私のところまで下ろしてほしい」
「あ? 一部だけ?」
訝しげなライに向かってニコニコと笑みを向けると、不思議そうな顔をしながらも魔法を使ってくれる。
「浮遊」
「あっ、ライが魔法の詠唱してるの聞いたかも!」
「得意な属性魔法は無詠唱でいけるまで練習したからな。……って、なんだよ、あの小せぇの」
ライの魔法でふよふよと空から飛んできたのは、巨大な塊の中の角ひとつ分。
私が手を出してそれを受け取ると、ライは目を丸く見開いてぱちぱちしていた。
……ちょっと可愛い。
ちなみに周りに居た兵士達も「あれは何だ?」と興味深そうに覗いている。
「これはねぇ……石材だよ!!」
「うん、そうだろうな」
あまりにもあっさりと納得されてしまい、私はむぅっと頬を膨らませる。
せっかくドヤ顔したのにバッサリ切り捨てられてしまった。
「くくっ、それで? それがどうしたんだよ」
「どうしたもなにも、これ全部石材になったんだよ」
「……あ?」
「「「「「えっ?」」」」」
ライや兵士達、他にも見ていた全員が唖然として、私の手にある白い石材と巨大な塊を交互に見やる。
私は「むふん!」と再びドヤ顔を浮かべた。
「……あーー、ちょっと待て。取り壊した大神殿の素材を使って、それを作ったって?」
「うん!」
「そんで、これ全部がそうだって?」
「うん!!」
「…………なんでもありすぎんだろ」
ライは諦めたように塊のてっぺんを眺めている。
ちゃんと成功したようで良かった。
ビックリしてもらえたみたいだしね。
「ちなみに石材だけとは限らないの。圧縮した時に木材が密集していたりガラスが密集しているところは、その素材が多いブロックが出来ていると思う。あと金属だけはもしかしたらブロックになりきれなくて、ひしゃげた形のまま出てきちゃうかもしれないけど」
「……いや、元々廃材のうち少しでも再利用出来たらいいくらいの気持ちで居たってのに、こんなもん十分すぎるだろ」
ライは苦笑すると、私が持っていた石材を掴み上げてまじまじと見始めた。
強度を調べるためか、コツコツと叩いている。
「ホロンビスが王都じゃなくなったとしても、ここに住む人達のために神殿は建てなきゃいけないよね。それにサグラードの神殿を大神殿にするなら、材料はいくらあっても無駄にはならないでしょ?」
「そうだな」
「大神殿は身勝手な人達のせいでよくない歴史を刻まれてしまったけれど、大聖女達が必死で学び守ってきたことも事実だから。彼女達と一緒に居られるよう浄化して、再利用出来たらなって」
もう大神殿ではなくなり、ただの資源になってしまったものを見上げながらそう言うと、ライは私の頭をポンと撫でた。
「これ、崩れねぇようにしておけるのか?」
「うん。結界で固定しておけばいいし」
「まぁそうか。それならあいつらに運ばせるか。おい、ちょっといいか?」
ライは兵士達を呼び、指示を出し始めた。
定期的に運んでもらうよう頼んでくれているようだ。
暫くして、この石材は城内の倉庫に保管することが決まった。
すると、ニヤッと笑ったライが私を手招きしていて、なんだろうと近付く。
コソッと耳打ちしてきた内容に私は目を見開き、バッと顔を上げる。
「どうだ?」
「いいねいいね、そうしよう!」
私達はククク……フフフ……と悪どい笑みを浮かべて笑う。
また悪いことを考えてるなぁと兵士達に苦笑されながら、私達は大神殿の跡地から撤収した。
王城に戻ってからライの企みをテルセロ様にも言ってみたところ、私達と同じような笑みを浮かべて賛同してくれた。
あぁ…………これだから悪巧みはやめられない。
大聖女だからって、あんな人達相手にお綺麗で居続ける必要はないし、天罰とか神罰って言葉があるんだもん。
それ相応の罰を与えたって、バチは当たらないよね?




