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47,溢れる想いを願いに変えて


 そのまま私達は馬車に乗り、今度は城壁へと向かう。

 次は民から見えるよう、門塔の上に立つのだ。

 塔を登っている途中、小窓から外を眺めると多くの民が詰めかけているのが見えた。

 きっと集まっている者達の多くは王都ホロンビスに住む民だろう。

 今から私達が語るものは、彼らにとってはあまり喜ばしい話ではないはずだ。

 きゅっと私が唇を噛み締めていると、おでこを指で突かれた。

 そしてライはぎゅっと私の手を握る。


「なんも心配要らねぇよ。大丈夫だ」

「……うん」


 私達は民の前に出る手前まで手を繋いで歩いていく。

 手袋越しでも伝わる、大きくて温かなライの手。


(私、ライに励まされてばっかりだな。私だっていずれ王妃になるんでしょ。ライとこの国を変えるって決めたんだから、しっかりしなきゃ)


 頂上に到達し、外に出る直前、私はライの手を一度ぎゅっと握ってからエスコートの姿勢に戻した。

 ライもさっきまでの砕けた顔から王らしい表情に変えている。


「新王国、ミログラシア王国の太陽、ライジェス・ミログラシア国王陛下。大聖女ディア・ソログラシア様のお出ましです」

 

 スゥと大きく息を吸い深呼吸をする。

 顔を上げると、私を待っていてくれたライがこちらを見つめていた。

 私が頷くと、ライが力強く一歩を踏み出す。

 その腕に導かれ二人で姿を曝すと、ワァと祝福するような声が聞こえてきた。

 しかし私はどうしても前回を思い出してしまい、本当に喜ばれているのかと訝しんでしまう。

 そんな気持ちを隠しつつ、私は微笑みを浮かべてライと並び立つ。

 パパーッとラッパの吹かれた音で、徐々に民の声が波のように引いていった。


「愛する民達よ。長く続いた圧制の時は終わりを迎え、新たな国、新たな時代が幕を開ける。新たな光となるべく国の名を改め、この地をミログラシア王国とする! そしてこの国をよりよくするため、みなに知ってもらいたいことがある。長い話になるが、最後まで聞いてほしい」


 その言葉から始まり、ライによって語られていくこの国の歴史。

 初代大聖女から始まり、これまでの大聖女達が味わった悲惨な過去を明かした。

 かつて平民も魔法が使えたことも含めて。

 その後、前国王を廃すに至った話もされたが、オロカルドやビッチェーナ、多くの貴族達の罪を全てを語ってしまえば暴動が起き兼ねない。

 遠い過去の出来事であれば胸を痛めるだけで済むが、自分達に関わることとなれば話が違ってくる。

 そのため表向きは、私利私欲のために公爵令嬢と公爵夫妻殺害し、それを隠匿した罪として公開し、その他は現在調査中と伝えた上で、民へは何らかの形で補填や還元をすると約束した。

 

「愚かな因習は古き名と共に葬り去ろう。そのため、新たなミログラシア王国の王都は、ここホロンビスではなく、ソログラシア公爵領のサグラードとする!」


 ライの宣言で、予想通り民達はざわりと揺れた。

 自分達が長年国の中心と思ってきた街が旧王都にされてしまうことに、顔を(しか)めている者や不安そうな者も多い。

 私は一歩前に出て、祈りを述べる。


「神よ。悪しき因習により穢れた邪を祓い、新たな風をもたらし給え。我が力と祈りを捧げ、長き平和と祝福をどうかこの地に」


 祈っていた手を解き、空へと両手を掲げた。

 これまでの中で最も聖女の力が吸われていくような感覚に、ぐっと足を踏み締める。

 指先から失っていく力に、じわりと汗が滲む。

 するとライが肩を抱いて支えてくれた。

 私は指先に集中し、祈りの力を強めていく。


(――神様。私が何処まで出来るか分かりませんが、これまでの大聖女達のこと、この国で起きたこと、決してなかったことにはしません。彼女達が残してくれたこの地を守っていくために、どうか力をお貸しください)


 夢で見た彼女達を思い出す。

 どうか神様の元で安心して眠れるように……そう願うと、突然空中でカッと光が爆ぜた。

 全員が「キャッ!」「なんだ!?」と驚きながら目を瞑る。

 私もぎゅっと目を閉じてからおそるおそる開けると、空から青い花びらがふわりふわりと降り注いでいた。

 全員が呆然と空を見上げる。

 無意識で花びらを掴もうと手を伸ばす者が表れたと思えば、ワァッと大きな歓声が上がり、全員が空へと手を伸ばし始めた。

 ライもひらひらと舞う花びらを掴んだ。


「これは……竜胆? こんな時期に?」


 目を丸くし驚くライに、私は笑顔を向ける。


「きっと神様が降らせてくれているんだね。――見て。とっても綺麗」


 風に乗って竜胆の花びらが視界一面に降っている。

 あまりにも美しい光景に、ライは思わず漏らしたように「綺麗だな」と呟いた。

 暫くすると民の中から「神様が新国王陛下と大聖女様を祝福しているんだ!」「そうさ! あのお二人がこんな奇跡を起こしたんだ! 何があってもこの国は大丈夫さね!」と叫ぶ声が響いた。

 そのうち「国王陛下万歳! 大聖女様万歳!」と多くの民が声を上げ始める。

 私は微笑を浮かべながら、あまり口を開かずにライに声をかけた。


「……ねぇ、今の声聞いたことあるんだけど。門の兵士さんとエルバさんじゃないの?」

「ふはっ。やっぱバレたか」

「分かりやすすぎるもん。なんなのあれ」

「こういうのは人を乗せたもん勝ちだろ? そこらに俺達を応援してくれる奴らを紛れさせて、賛同する声を上げてくれって頼んでたんだよ」


 ライは繕うような笑顔から、私にだけ見えるよう、したり顔を浮かべてこちらを見た。


「な? 心配要らねぇって言っただろ?」


 嫌味たらしく得意気な、でもそれ以上に私を思いやる優しい瞳に、私の心はぎゅっと締め付けられた。


(いつから準備してたの? 私なんかよりもずっとずっと忙しそうにしてたのに。こうして私が人前に立つのを怖がるって分かってて、みんなに頼んでくれてたの?)

 

 込み上げてくる涙を誤魔化すように、私はライに手を伸ばし、飛び付くように抱き締める。

 ライは「おまっ、えっ!?」と驚き、民衆は黄色い悲鳴を上げた。

 さっきの祈りで散々力を使ってしまって、今日は久しぶりに聖女の力が枯渇気味だ。

 けれど私は胸いっぱいに溢れる幸せから、空へと手を伸ばす。


「新たなミログラシア王国の始まりに、多くの幸せが訪れますように!」


 優美さも厳粛さもない、子供じみたまっすぐな願い。

 大聖女としてはあまりにも稚拙な言葉だろう。

 けれど心のままに希うと、花びらと共に金色に輝く光がキラキラと国中に降り注いだ。


「わあぁ! 綺麗!」

「奇跡だ!」

「大聖女様万歳! 国王陛下万歳!」

 

 集まった民だけでなく、近くの建物の窓は全て開き、人々は光や花びらへと手を伸ばしている。

 城下に見える民の顔は驚きや笑顔で溢れていた。

 多くの喝采に包まれながら中へと戻ると、私は力尽きて膝から崩れていく。

 そんな私をすかさずライが抱き留めてくれた。


「おい、大丈夫か!?」

「あはは……。流石に力を使いすぎちゃったみたい」

「あれだけ大盤振る舞いすりゃあなぁ。ったく」


 ライは溜息を吐いたあと、ひょいと私を抱え上げた。


「ら、ライ!? お、下ろして! 今日私すっごく重たいでしょ!? ちょっと休めば治るからっ」

「地べたで座り込んでたら体が冷えるだろうが。それにこれからもっと忙しくなるんだ。さっさとこっちでやること済ませて、サグラードに帰りてぇだろ?」


 そう言われてしまえば反論も出来ず、私はぐっと声を詰まらせた。

 ライが歩くたび、ふんだんに付けられた装飾が跳ねるようにシャラシャラと音を鳴らす。

 絶対に重たいはずなのに、ライは全く顔色を変えず私を抱えながら塔の階段を降りていく。

 申し訳なさからしょんぼりしていると、抱え込まれて抵抗出来ない私の耳元に、ライは唇を寄せて囁く。


「あんな民衆の前で抱き着いておいて、抱き上げられるのが不服だなんて言わせねぇぞ?」

「〜〜っ! 分かったから耳元で言わないでっ!!」


 低く艶っぽい声が全身に響き、私は顔を真っ赤にして吠えるように叫んだ。

 カラカラと笑う楽しそうな顔が憎たらしいのに愛おしい。

 締まりのない顔を手で覆い隠したまま、私はお姫様抱っこで地上まで運ばれてしまった。

 指の隙間からチラッと覗くと、兵士達が見ないようにしてくれていて。

 余計に恥ずかしく、申し訳なく感じてしまった。


 


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