9:アレキサンドライトが出て行ったせいで
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二十八のときに両親が事故で帰らぬ人となった。そこですぐさま爵位を受け継ぐはずだったが、継承条件に婚姻していることとあった。
一年以内に結婚していない場合は、親戚筋に譲るという、両親からの脅しのような条件だった。
幼いころから恋心を抱いていたレギーナが政略結婚したせいで、私の人生は狂いっぱなしだった。
レギーナとしか結婚したくないのに、レギーナは他人の妻。両親にはそれを責め立てられ続ける日々。それがやっと終わったのかと思えば、死してなお私を苦しめる。
そして私は妻を娶ることにした。
レギーナとは不倫関係をこっそりと続けていたが、彼女の夫であるカルマイン伯爵が病死し、未亡人となった。
カルマイン伯爵の資産はそこまで多くなかった。そして、事業に失敗していたらしく、レギーナがこのままでは娼婦に身を落とさねばならないだろうと泣きついてきた。
私はなんという幸運に恵まれているのだろうか。
爵位を継ぐためにと、アレキサンドライトの親と契約していてよかった。僅かな支援だけで私は莫大な財産を手に入れられたし、そのおかげで最愛のレギーナを救うことが出来る。
あの赤い髪に指を通し、透き通った空色の瞳と見つめ合いながら身体を重ねる妄想をした。
不倫関係にあった私たちだが、とても純粋で清廉な関係であった。
やっと、レギーナの全てが手に入る!
「もうお前は妻ではない、出ていけ」
赤にも緑にも見える悪魔のような瞳を持った、アレキサンドライト。何が宝石から名前を取った、だ。ただ気持ち悪いだけだろう。
アレキサンドライトは実家で酷い扱いを受けるのに慣れていたらしく、何を命じても素直に従った。夫である私を立てるのも忘れない。あの瞳に見つめられるのが気持ち悪いことを除けば、まぁまぁいい見た目はしている。
――――侍らせておくのも悪くないか。
アレキサンドライトの実家には、たんまりの謝礼を渡して離縁の許可を得ている。
人として終わっている彼女の両親は、次の良い嫁ぎ先を知らないかと聞いてきた。この私が、そんなゲスいヤツらと知り合いのはずがなかろうと一喝しておいた。
私は、アレキサンドライトのために、ここで働く道もあるぞと道を示してやったんだ。それなのにあの女ときたら、笑顔で出ていきやがった。
この五年間、衣食住の世話をしてやった恩も忘れて。
「本当にあの女の行き先を知らないのか!」
「はい、大変申し訳ございません」
「チッ! 役立たずが!」
父の代から長年勤めている使用人の誰もが、あの女の行き先を聞かなかったという。
あの女がいなくなってから、使用人たちの働きが悪い。レギーナに家のことは女の仕事だ、どうにかしてくれと頼んだが、それなら使用人を全て入れ替えればいいと言われた。
まぁ、それも視野に入れておくか。
「パウルさまぁ、早くドレスを買いに行きましょうよぉ」
「あ、あぁ、レギーナすぐ行くよ」
せっかくレギーナとめくるめく愛の巣作りに打ち込めると思ったのに、アレキサンドライトが出て行ったせいで、不自由極まりない。





