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成人の儀式


 本来、成人の儀式とは成人に至る年齢になってからするものである。

 通常は15歳だ。


 貴族であれば――それもパラチオン王国の学園に在学する貴族ともなればもう少し年齢が上がり、ちょうど卒業してからの18歳からとなる。


 ――で、あるからにはピーチ・グリーングリーンが本来成人の儀式を受けるのは学園を卒業してから――、となるわけだが、そうもいかない事情があった。



 ピーチ・グリーングリーンは学園を退学したのだ。



 盗賊団に襲われ、父を殺され、婚約者には不貞を疑われて婚約破棄される。

 または、どこからか学園を辞めるように圧力でも受けたのか。

 どちらにせよ、精神的に不安定となって学園を退学にするは十分な理由であろう。普通であれば。


 だが、ピーチ・グリーングリーンがそんなタマではあるまいと、サピエは断じることができる。


 ピーチ・グリーングリーンは異世界転生者なのだ。

 それならば自分の置かれている状況というのをしっかりと認識していることだろう。



 自分が悪役令嬢であることを――




 ・ ・ ・ ・



 吾輩は人である。

 名はホモ・サピエンス――


 そんな感じで気が強そうだけど超絶美人なドリルツインテールの悪役令嬢であるピーチ・グリーングリーンさん。

 彼女が一発逆転を狙っているのは、成人の儀で『聖女』のクラスを神々から得るというものである。

 吾輩の称号である『聖女に婚約破棄されまくりし者』を信じて。


 自分という対価を払ってな。

 ……不安すぎる。


 その成人の儀を行う場所は、王都の中心にある女神を祭る神殿だ。大変立派な施設である。

 吾輩が成人の儀式を受けたうさんくさい僻地の壊れかけた神殿ではない。

 王都であって相当に大きな施設であり、寄付等により常に良い環境が整えられている。

 よくそんなところに予約が取れたものだ。

 ピーチ・グリーングリーンさんの気合の入り方がハンパではない。


 本来、その場所――特に中央の聖堂は王族やそれに連なるものでしかそこで成人の儀式を行うことができないほどである。

 たとえ公爵家の令嬢であっても、本来は直系でなければ聖堂での成人の儀式は受け入れられない。

 あるいは、神官や巫女、修道女のように神殿に仕えることを宣言したものか。いわゆる身内枠だ。

 ピーチ・グリーングリーンさんは、聖堂で成人の儀式を行うために、この世界の宗教最大勢力である、紅巾党(こうきんとう)に取り入ることで解決を図った。


 吾輩が元カノである聖女に捨てられたことを声高に訴え、これは聖女が男を捨てるなどという行為を隠すための騎士道であり、これを払拭するに神殿での婚約を行いたいと申し出たのだ。


 そしてついでに、その流れで成人の儀式をするという目論見だ。


 この世界では成人となってから結婚するのだから、結婚するために成人の儀式を早く行いたいとピーチ・グリーングリーンは望んだのだと紅巾党(こうきんとう)の人たちも考えたのだろう。


 ピーチ・グリーングリーンが当主の父という後ろ盾を失い、力が弱りつつあることも紅巾党(こうきんとう)の人たちは把握していた。


 ならばここで恩を売っておくのも悪くないと考えて紅巾党(こうきんとう)の人たちは快くOKを出したのだ。


 この神殿がにぎわうのは、本来の成人の儀式が大量に行われる学園の卒業式後であるため、神殿は閑散としており、静まり返っている。


 こうして、吾輩とピーチ・グリーングリーンは、婚約の儀式と成人の儀式を続けて行うために、神殿へと来ていたのだ。


 周囲には、吾輩、ピーチ・グリーングリーン、そして、ピーチ・グリーングリーンのメイドであるマイヤー男爵家三女のミイヤー・ロッテン、そして、神殿の修道女が何人かいるのみだ。


 ピーチ・グリーングリーンの弟であり、当主の男は神殿に来ることはなかった。

 今頃はうまく厄介払いができたとほくそ笑んでいるに違いない。


 小さな声で吾輩は、ピーチ・グリーングリーンに声を掛ける。


「(どのみち婚約破棄されることが分かっていながらとはいえ、吾輩、緊張しますぞ~)」


「(あなたは黙っていなさい。緊張感が薄れるから)」


 そう、彼女が成人の儀式で聖女となれば、どのみち成人の儀式後には婚約破棄されるのだ。


 思えば彼女のおっぱいが揉めると勇んできてみれば、あんなオチで終わるし。


 あぁ、しかし、中身JKのおっぱいか……。実に惜しい。


 吾輩は中身おっさんらしいふてぶてしさでピーチ・グリーングリーンのおっぱいを眺めた。



 そのおっぱいは震えていた。



 いや、身体自体が緊張で震えているのだ。


 無理もない。

 称号などという、こんな薄い望みでこの後の人生をどうにかしようとしているのだから。


 吾輩の中でも成功して聖女になるか、それとも失敗してよく分からない何かになるか、絶望と期待で半々というところだ。


 ピーチ・グリーングリーンにしてみればその期待と絶望はさらに大きくなっているに違いない。


「貴方は、ホモ・サピエンスを婚約相手とすることを誓いますか?」


「誓います」


「貴方は、ピーチ・グリーングリーンを婚約相手とすることを誓いますか?」


「誓います」


 修道女が宣誓し、婚約の儀式はあっけなく終わった。


 この世界で婚約は、ただ宣言するだけだ。

 あるいは公式な手紙のやりとりによってでさえも可能である。

 宣言によって、システムが婚約者の称号を付けてくれる。


 誓いのキスとかはありえない。そんなものは結婚後にやるものだ。

 だいたいにおいて、婚約というものは貴族間の政略的な側面が強い。


 たとえば、家間で敵対することになり婚約破棄される、というのは多くはないがさりとて少なくもない。それ以外にも成人の儀式で大きな「ハズレ」を引くなど、婚約破棄となる理由は多々ある。


 だから、この時点で身体を穢すようなことはありえないことなのだ。

 その意味でも、ピーチ・グリーングリーンのおっぱいを婚約前に揉めるということは初めから絶望的だったのである。


 今回の司会進行役の修道女が、ピーチ・グリーングリーンに声を掛ける。

 このような大きな神殿の場合、司会は不可欠だ。


「では――。ピーチ・グリーングリーン。前へ――。そして神の像の前で祈りなさい。儀式の祝詞は覚えていますね――」


「はい――」



(ついに、きた)



 ピーチ・グリーングリーンは期待と恐怖に震えながら、一歩その先へと進もうとしていた――



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