第2話 究極の二択
開いた扉から中を伺うと天井高く、壁一面に敷き詰められた本棚。
そこには本がびっしり詰まっている。
さしずめ図書館といったところだろう。
「!」
部屋の中央に見てはいけないものを見つけてしまった気がする。
思わず視線を逸らしましたとも。
何も見なかったことにして、このまま帰ってしまおうか……
いや、私、帰り方知らないや。
もう一度、見てはいけないものを見る。
ちょっと細身ではあるが、程よく筋肉のついた青年の肢体。
その首から上は……どう見てもウサギである。
ファンタジーにありがちな可愛い感じではなく、リアルウサギ。
あ、ちなみに短毛種だから。
もふもふ感とか無いから、残念度倍増。
がっちり視線が合ってしまう。
ウサギはお髭を揺らして……ちょっと笑ったように見えた。
「わー、ファンタジー」
思いっきり棒読みで言ってみる。
ふむ、ファンタジー感湧いてこない。
むしろホラー?
「ユスト・アーノン伯爵令嬢ですね」
リアルウサギ人間が尋ねてくる。
結構野太い声だ。
ファンタジーのイメージがガラガラと音を立てて壊れていきます。
「ハイ、ソウデス」
思わずカタコトで返事をしてしまう。
その返事を聞くやいなや、軽快なステップで自分の前まで一気に跳躍したリアルウサギ人間。
「私はフィリップと申します。この賢者の図書館を管理する者」
自己紹介をしたリアルウサギ人間……もとい、フィリップは両手の平を前に出す。
その手の平、右手には鍵、左手には虹色の珠が載っている。
あ、肉球がある。
そんなどうでもいい発見でちょっと現実逃避。
「ユスト様は今、運命の分岐点に立っています。賢者となるか、大魔法使いとなるか」
あれあれ、チートきた?
フィリップの差し出した手から、鍵か珠を選べと言う。
鍵を取れば、賢者。
珠を取れば、大魔法使い。
「賢者となれば、ありとあらゆる知識の詰まった図書館の本の閲覧や、いろいろなサンプルの貸し出しが可能となります。その代り、一切の魔法が使えなくなります」
この世界はすべての人間が何かしらの魔法を使える。
日本に比べてかなり不便なこの世界。
大半はちょっとした魔法だが、それでも日々の暮らしをちょっと便利に過ごすには必要不可欠だ。
それが使えないのは痛い。
「大魔法使いとなれば、四代元素のあらゆる魔法が使用可能となります。その代り、この図書館の利用資格を失います」
知識の宝庫である図書館の利用資格喪失。
魔法が当たり前の世界とはいえ、四代元素すべての魔法を使える者などそうそういない。
それだけの力があれば、やりたい放題……いやいや、人様のお役にかなり立てるだろう。
いっそ歴史に名を残そうか。
この二択、どっちを取ってもチートっぽいが……世知辛いな。
両方はくれないのかと落胆する。
さて、どちらを取ろうか。
ふとフィリップの後ろに見える案内板が目に入る。
「料理」「農業」などの文字がものすごく気になるぞ。
この世界の人間にとって当たり前のイマイチ食生活も、現代日本を知る者としては是非とも改善したい事項である。
その可能性が目の前にあるのだ。
頭の中で揺れる天秤。
夢の大魔法使いで偉業を成すか、おいしい食生活の可能性か。
おいしい食生活……
頭の中の天秤は、ものすごい勢いで賢者側に振りきれた。
よほど前世での食生活がトラウマのようだ。
今生、5歳にして、名より実を選んだ。
「この図書館の利用を希望します」
迷いなく鍵を取り、フィリップに微笑みかけた。
見切り発進なので……綱渡り的な文章書いてます(汗)
ちょっと訂正。
兎の足には肉球無いそうです。
笑って流しちゃって下さい。
→ネズミみたいなウサギで肉球があるものはいました。




