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賢者の図書館  作者: ゆるり
第1章
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第63話 商談

応接室に場所を移して、クラーク様とこれからの相談。


やると一言くれれば、すぐにクラーク領で栽培開始のつもりでいた。

しかし、どうやらそんなに単純ではないらしい。


「まずは、作物の特許証を取得して頂きたい」

放心状態から回復したクラーク様が難しい単語を出す。

特許証……日本で言うところの特許だろう。

そんなのがこの世界にあったのか。

なるほど、私は商売を始めたいと言ったが、商売について何も知らない。

やってみたいからと、思うまま簡単に始めるのは、考えが甘いようだ。


「別に所有権とか、いらないですよ」

自分でいっぱい作物抱えているので、ちょっとあげたくらい痛くも痒くもない。


「ユスト様、そういうわけにはいかないんです」

まだちょっと動揺が見えるが、いたって平静を装っているセバス。

私の発言に動揺を上回る危機感を覚えたらしい。

見かねたように口を開く。


基本的に技術などの譲渡は当人達の自由。

しかしユストは賢者であり、その知識は底知れない。

この屋敷に集まっていた貴族達も、利益になる権利が欲しくての行動。

簡単に譲渡した事例を作ると、自分もと集まる人間を断ることができなくなるそうだ。


「そういうの面倒くさい」

あげたいからあげる、あげたくないからあげない。

子供のやることだし、それで片づけて欲しいものだ。


「貴族って面倒なのよ」

子供の驚異的な適応力と言うのだろうか、いち早く現状を受け入れていたマリア。

クラーク様の横に座って知った風にため息をつく。

同い年だが、こういう件に関しては、私より遥かにマリアの知識は上だろう。


「特許証の登録に時間てかかるの?」

日本ではすごい時間がかかるというイメージがある。

この世界ではどうなのだろう。


「5日もあれば完了します」

作物に関しての特許証は、ほとんど事例がない。

せいぜいロレーヌ領のバナナや、アポルメ領のほうれん草をはじめ、数件だ。

過去に発行されている特許証との重複が無いかをチェックする作業には時間がかからないという。

事務的な手続きだけだから、そんなに時間はいらないと判断。


「時間的には大したことないんだ」

後々の問題を考えれば、私の名前で特許証を取得してから、クラーク様に使用許可を出す方がいいらしい。

しかし、アーノン領で栽培したものをクラーク領で栽培するのは難しいと思う。

賢者の袋を使ったとしてもだ。


セバスに聞いた話だと、お隣同士の領地でも環境が全く違うと言う。

アーノン領は1年を通して涼しい気候。

領地の多くを森が占めており、土壌も良好。

湧き水や川もあるため、農業には適した土地と言える。


しかしクラーク領は荒れた土地が多く、森が少ない。

領内に大きな川などは無く、細い川が少しあるだけだ。

気候も涼しいと言うよりは少し暑いという。

これは圧倒的に自然が少ないからだと思われる。


アーノン領で栽培環境を記録してしまうと、クラーク領では栽培困難になってしまうだろう。

さて、どうしよう。


「クラーク様、種を私から買いませんか?」

職人など、自分で編み出した技術を希望者に売ったりすることはよくあるという。

たぶん、自分で特許証を取得しても、技術の認知度がなけれが、使用者は少ない。

使用者から得られる利益も、もちろん少ない。

上手く活用できないなら、ある程度まとまった金額で売ってしまう方が得というところだろう。


「買うのは構いませんが、他の貴族たちも売ってくれと殺到するのではないですか?」

それはそうでしょう。


「殺到したなら、売りますよ。いくらでも。私が会社を立ち上げたなら、種の販売は主力商品になりそうですね」

全く考えてなかったけど。


アーノン領で根付いた作物を、賢者の袋を活用して希望者に種を売る。

栽培マニュアルも付けてあげよう。

それで育てられるかどうかは知らない。


技術者の派遣は別料金としとこう。

技術者は孤児院の子達や北部の人達。

人を見下すような派遣先なら速攻撤退すればいい。

農業を悪用しないと思える信頼できる人にはサンプル袋を使って、その土地に定着した作物を売ってもいい。


「クラーク領で栽培して、成功したならいい宣伝になるでしょう。実験的な扱いになるけど、こういう方針でどうでしょうか?」

セバスに確認してみると、まあ、それならいいでしょうという顔をしている。

私が設立した会社の商品として種を売るなら、セバスも殺到した貴族にそう説明できるので、少しは苦労が減ると考えたのだろう。

問題はいくらで売るかだ。


この世界の通貨は銅貨、銀貨、金貨の3種類。

金貨1枚=銀貨100枚=銅貨10000枚

価値の目安として、若者の給料が月金貨2枚

街の人が一般的に来ているワンピースが銀貨3枚くらい

おやつにも食べられてる流通量の多い果物が銅貨8枚……いや、最近は食料の物価が上がって銅貨10枚か。


話を戻して、種はいくらで売るべきか。

この世界に基準が無いので、前世の基準で考えてみる。

ちょっとガーデニングを楽しむ程度の種なら、缶ジュース1本くらいの値段からあった。

なら、そのくらいだろうか?

いやいや、希少価値を考えると、おやつの果物数個レベルの値段ではダメな気がする。


「金額はどうしますか?」

クラーク様が聞いてくる。

えっと、どうしよう。

買ってくれと言っておいて、金額不明ではどうしようもない。


「……金貨1枚くらいかな」

若者の平均月収半分。

ぼったくり過ぎかと、ドキドキしながらクラーク様を見る。

かなり驚いた顔をされた。

やっぱりぼったくり過ぎただろうか?


「ユスト、ここで冗談とかいらないわよ」

マリアが呆れたように言ってくる。


「銀貨50枚でどう?」

もう基準がわからない。


「下げてどうするんですか」

セバスの声が冷たい。

上げろってことだったの?

種にどれだけ高値を付けるんだろう。


「最低でも金貨500枚は必要だと思いますよ。食料の採取できる森を手に入れるようなものですからね」

こ、こわい。

若者の平均月収が金貨2枚で、この世界は1年10ヶ月だから年収金貨20枚

たかが種に若者の平均年収25倍以上?

絶対ぼったくり過ぎでしょう。

クラーク様やマリアを見ると、その額に納得している。


「えっと、今回の種の販売は実験的な位置づけであり、宣伝も兼ねているので、割引させてください」

銀行の無い世界で、そんな大金を持つのは怖い。


昔は銀行らしきものを作った先駆者がいたらしい。

ただ、預金者から集めたお金を商売人等に貸し付けて……回収不能に。

預金者から相当酷い報復を受けたそうだ。

先駆者が撃沈し、続く者が現れなかったから、この世界に銀行はない。


普通は家に金庫だったり、宝物室などがあり、そこで財産を管理している。

盗難防止の魔法をしっかりかけて。

しかし私の拠点は森の小屋か建築中の家。

帰ったら急いで金庫か宝物室を作らないと。


「金貨100枚でどうですか?」

かなりの妥協だ。

この案にクラーク様の眉根にしわが刻まれる。


「行き過ぎた値引きは商売の公平性に欠け、取引先との信頼を失いかねません」

不当に安く買い叩く相手に、商品を売ってくれる人はいなくなるという。

クラーク様はいろいろな商売をしている。

順調とは言えないまでも、損を出さない程度にはまわしているそうだ。

ここで私から相場を大幅に逸脱した金額で商品を購入すると、今現在の取引相手に不信感を与えかねないらしい。


「お嬢様、意見を述べてもよろしいでしょうか」

ずっと黙って聞いていたミリアが、割って入ってくる。


「構わないよ」

予想外の状況に、私一人の手には負えない。

一緒に会社設立に頑張ってくれるミリアの意見を尊重したい。


「種の購入金額は金貨300枚で、栽培に関する技術者数名の雇用をお願いできないでしょうか」

そうか、栽培の技術者がいなければ、クラーク領の人だけでは栽培出来ない。

派遣する気でいたが、雇用してもらうことで賃金を別途いただくと言うことか。

トータルで金貨500枚に持っていけば文句なかろう。


「なら、その他に私が用意する人材に、商売についてのノウハウの教育もお願いします」

どさくさに紛れて、ちゃっかりお願いする。


人材雇用と教育の分を差し引いての金貨300枚。

ここが妥協どころだろう。

そう判断したらしいクラーク様が了解してくれる。


「それと、野菜や果物の種をできるだけ多くの種類集めておいてくれませんか?」

私の要望に首を傾げるクラーク様達。


「栽培技術者を派遣するので、その人達の食料調達は必須ですから」

集めてもらった種を栽培させて、食料を自給自足する旨を伝える。


「派遣した技術者が、クラーク領の作業者と打ち解けて、苗や実をおすそ分けしても私は預かり知らぬ事」

会社が従業員に配給した物を、受け取った従業員がどう活用しようと自由だ。

私の方針である。


「交流していく内に、栽培法を勝手に習得しても仕方ないでしょう」

職人の世界では、技術は見て盗めという格言があるくらいだ。


「ユスト、太っ腹!」

私の言いたいことに気づいたマリアがすごく嬉しそうだ。


セバスもクラーク様も呆然としている。

この2人も私の意図には気付いているはず。

ただ信じられないと言いた気だ。


うん、大サービスだよ。

打算もある。


「人柄のいい人達を集めて下さいね」

クラーク様もマリアもいい人だと思う。

けど、クラーク領の人が皆いい人とは思わない。

派遣する技術者は北部の人や孤児院の子供達。

不当な扱いを受け無いための保険をかけさせて貰う。


「わかりました」

私の保険に気付いたのか、クラーク様があっさりと了承してくれた。


準備もあるということで、1週間後クラーク領へ行くことで合意。

貨幣と価値……かなり悩みました。

日本みたいに細かく分けて、日本円に換算しながら説明してとか色々案を出しては没ってました。

異世界ファンタジーでは、基準が違うし、違和感だらけで諦めました。

かなりシンプルにしましたが、これでも違和感はありますね。

その辺は数字に弱い書き手だと、苦笑しつつスルーしてください。


銀行が無い世界にしました。

国中に支店があり、どこでも自由に出し入れ可能とか、コンピューターがない世界でイメージできませんでした。

各領地ごとに独自システムがあるとかにしちゃうと、もう設定考えるの無理なので。


しかしこの世界、銀貨80枚の買い物とか、どうすればいいのだろう。

お財布に銀貨80枚って……重いな。

ってか、それ以外何も買えなくなっちゃう。

複数の店でお買い物とか言った日には、筋トレレベルの重量級財布。

この辺り、何か考えないといけないですね……


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