第51話 土家
アッシーに無茶な要求突きつけてからメリス村に入ると、すぐに目についた掘っ立て小屋。
「まずはここからかな」
周囲に出ている人がいないか探してみたが、誰もいない。
大人たちは水田や畑で作業だし、子供達は森などで勉強中。
なかなかこの時間にこの辺を歩いていたりしない。
「さて、どうしよう」
とりあえず賢者の袋から黄色い珠を取り出して考え込む。
すると掘っ立て小屋から住人が出てきた。
「あら、ユスト様。お久しぶりです」
ふわりと笑顔を向けてくれたのは村長ヤコブの妻エリン。
「ここはヤコブの家なの?」
エリンが出てきたということはそうなのだろう。
「お恥ずかしながら、そうです」
村長とは言っても、村人たちと変らない生活。
もともと村長などというものは無く、便宜上、そういう役割を置いただけ。
暮らしが裕福な者とかはいなかったのだ。
「みんなは作業中なの?」
誰もいないので尋ねてみるとエリンは頷く。
「収穫直後で、いろいろと忙しいですから。私も忘れ物を取りに来ただけなので、すぐに作業に戻ります」
農業が楽しくて仕方ない様だ。
今までの生活と比べれば、自分たちの手で作物を作れるなんて夢のようなのだろう。
とは言え……
「作業に戻るのはちょっと待って。エリンには今からやることをしっかり覚えてもらって、村人達にやり方を教えて欲しいんだ」
ひとりで全ての家を回るのは大変なので、代表で誰かに教えて、後は自分たちでやってもらおうと思う。
「はい……わかりました」
そう答えながらも戸惑うエリン。
それはそうだろう。
何をやるのか全く伝えていないのだから。
「難しいことじゃないから、気構え無くて大丈夫」
笑って言ってから、エリンの家の側に小さな穴を掘る。
指の第二関節くらいまで埋まる深さ。
その穴に黄色い珠を落とした。
「えっと、コップに少し水入れて持ってきてもらえる?」
力の発動条件を指の第二関節くらいの深さの穴に落として、水を注ぐとしている。
穴だけだと、うっかり落としただけでも発動する可能性があったので、水を追加してみた。
「水ですか?」
分けがわからないという風に首をかしげながらも、家から水を持ってきてくれる。
「ありがとう」
それを受け取り、珠を埋めた所に注ぐ。
すると珠を中心に長方形の穴が掘られ、壁が出来、窓が出来、どんどん土家が出来てくる。
唖然とそれを見ているエリン。
5分程で土家が完成した。
「これは?」
掘っ立て小屋のすぐ横に立つ立派な土家。
「農業を頑張ってくれている村人たちへの、私からの贈り物」
エリンを家の中へと促す。
半地下なので、玄関入ってすぐに3段ほどの階段。
降りればそこがキッチンダイニング。
「これが流しで、こっちがコンロね」
オプションでついでに作った設備。
流しの横についてる焼き物の管。
この付け根部分に小さな窪みがあり、青色の珠をはめる。
「即席だけど水道ね。ここに手をかざせば水が出るから」
珠をはめ込んだ部分に手をかざすと、管から水が出て、手を放すと水が止まる。
「コンロも原理は同じだから」
コンロの中央にある窪みに赤い珠をはめた。
コンロの上に先程のコップを置くと、火が出てコップに残った水をお湯に変えていく。
コップを外すと、火は消えた。
「料理するのに使ってね。それから……」
食事しやすいようにテーブルも土で作ってある。
唯一の部屋は土の床。
「ここはゲンじいさんに言っとくから畳を敷いて。畳職人育てるには実践あるのみだから」
ゲンじいさんはおじいさんなので、若い後継者が必要なのだ。
そこで数人弟子を取らせた。
部屋は6畳なので畳6枚。
各村全部で150戸は建てる予定なので、最低でも900枚の畳が必要になる。
これだけ作れば、後継者も育ってくれるだろう。
「奥が風呂場ね」
風呂場にも管があるので付け根の窪みに水色の珠をはめ込む。
「流しと同じで手をかざすとお湯が出るから浴槽にお湯を張って、体の汚れや疲れをここで取って」
トイレや洗濯、ガラスのない窓、ドアのない玄関などざっくり説明する。
窓はガラスの開発を考えている。
作り方は調査済みだし、材料もありふれた物。
職人も目を付けている者がいるので、何とかできるだろう。
間仕切りドアや玄関ドアは各家日曜大工として自分達で作ってもらうことにする。
アルトに指導させれば大丈夫だろう。
「エリン、こんな感じだけど、村人達への説明、お願いできる?」
エリンに聞いてみると、放心状態だった。
「エリン?」
もう一度名を呼んでみる。
「あ、はい。大丈夫です。大丈夫……」
返事をしながら、エリンの頬に涙が伝う。
「す、すみません。こんな立派な家、夢のようで」
衣食住は人が人らしく生活する基本だと思う。
そのどれもが北部にはなかった。
まずは食。
次に住。
後は衣だが、これは全部の村に土家建てたらすぐに着手する。
「私は私の治める村人たちに人らしい生活を提供する義務があるの。これもその一つ。このくらいで感動しないでよ。もっと驚くこと、いろいろしていくから」
寿命を克服したし、魔力珠という便利なものも作れるようになったので、いろいろ企んでます。
「部屋の方に必要な珠を置いていくから、あとよろしくね。まだ、他の村に行かなきゃいけないから」
確かこの村は独身者も多いので、世帯数は35だったはず。
数分の珠を部屋に転がした。
久々の更新です。
ちょっと停滞している間に、新しい話を始めちゃいました。
20話かからないで完結する予定です。
短編にするつもりが、意外に長くなったので、連載で投稿しています。
新作が完結するまで、こちらは週一くらいの更新になります。
同時並行できるかと思ったんですが、話の設定が混じって大変だということに、始めてから気付きました。
すみません。




