第49話 魔力の珠
机に散らばるたくさんの黄色い珠。
その数、かるく200は超えているだろう。
それに混じって赤や青の珠も多数転がっている。
「ちょっと調子に乗り過ぎたよね?」
青筋浮かべて腕組しているフィリップに睨まれ、上目づかいに伺ってみる。
「自覚がおありの様で結構です」
フィリップの声が冷たい……
しばし重い沈黙の末、盛大なため息を吐いたフィリップ。
「発明に目がくらんで、説明もせずにこの部屋を離れた私の責任でもありますね」
フィリップがこの部屋を出て行ってから、ひとり魔力を抜いていた私。
どのくらい抜けばいいのか分からず、ひたすら土家の工程をイメージしながら黄色い珠を作っていた。
それから風呂や流し、コンロなども使いやすくと思い立つ。
で、水やお湯を出せる青い珠。
火を出せる赤い珠。
などなど作ってみた。
全部で珠の数は1000を超えている。
この部屋に戻って来たフィリップがその数を見て、唖然とした後、静かに怒ったのだ。
「何か大量に賢者の力を使わないと」
考え込むフィリップ。
賢者の力を乱用していたとはいえ、賢者になって数日の私。
魔力は蓄積されていても、まだ寿命に影響するほどひどい状態ではなかった。
なのに、微弱とは言え、魔力の珠をびっくりするくらい作れば、当然魔力の抜き過ぎである。
現在は賢者の力の方があり過ぎて、バランスを崩している状態。
何かで消費しないといけないらしい。
「フィリップ、発明品の登録にも賢者の力は使われるの?」
ちょっと思いついたので聞いてみる。
「はい、高度なものになればなるほど使用量は多くなります」
答えてからハッとしたように私を見るフィリップ。
「電車の登録はまだ先になりますよ。開発できていません」
「違うよ、これ」
魔力の珠を作り出した透明な珠と端末を指さす。
「さっき現実世界でも使えるようにできるって言ったでしょ。誰でも使えるように改良できる?」
イメージした手順で珠を作り出す技術。
現実世界で誰でも使えるようになれば、できることの幅が広がる。
「出来ますが、ユスト様以外の方が使ってどうするのですか?」
使用できない魔力を抜くための道具なのだ。
普通に魔力を使える人には意味がないだろうとフィリップは言いたげだ。
「この珠、作業を記録すれば持続的に魔力が使えるから」
通常魔力は人が発動している間だけ、使用できる。
しかしこの珠は、発動条件さえ満たせば、自動で内包されている魔力を発動してくれる。
要するに魔力を使いたい作業に人がずっと就いている必要がなくなるということ。
牛乳や卵など低温で保管したい作物のための冷蔵庫。
冷やすことを記録した珠があれば、ずっと冷却魔法を使い続けなくてもいいのだ。
また、羊の毛や綿など糸を紡いで織る作業もそういう作業を記録した珠があれば、少ない人数で同時に大量の作業がこなせる。
「なるほど、そういう使い道もありますね」
フィリップが納得してくれた。
「とりあえずさっき使ってた私用のを1つと、普通の人向けのを2、3個、現実世界で使えるようにしたのを用意して欲しいんだけど」
いろいろと試してみたいことがある。
「それくらいでしたらすぐに用意できます。登録作業には賢者の力がかなり必要ですが、こちらに関してはむしろ都合がいいですね。一緒にやってしまうので、少々お待ちください」
そう言うフィリップに、ならばとドアを指さす。
「だったら、ちょっと調べ物したいことがあるから、図書館の方に行ってる」
私の言葉に頷くと、フィリップは部屋を出ていった。
なかなかに話を考えるというのは難しいですね。
あの時、こういう設定にしとけば良かったと何度も後悔してます……




