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賢者の図書館  作者: ゆるり
第1章
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第48話 フィリップの趣味

あれから更に5回失敗して、ようやく成功に漕ぎつけた。

15個もの無残な姿になった珠。


「これでやっと魔力を抜くという本題の作業に入れる……」

図書館に来てからすでに3日は経っている。

現実世界では5日だそうだ。

急がないと、穀物の収穫に間に合わない。


「フィリップ、この後どうしたらいい?」

珠はきれいは白色に光っている。

いつでも作業開始できる状態だ。


「珠に手を置いたまま、やりたいことを順序並べてイメージしてください。その際に、力を発動させる条件も入れてください」

さっそく半地下の土家建設についての手順を思い描く。


「なるほど」

端末を見ながらフィリップが感心したような声を上げる。


「4つの力をバランスよく使っていますね。それに使用する魔力は少ないですが、暴走の危険を考えると堅実的です」

端末が計算して割り出した使用魔力量を私の内側から珠へと流す。

珠の中心に力が集まり、やがて飴玉サイズの小さな黄色い珠が出来上がった。


「この珠で私がイメージしたことできるの?」

黄色い珠を手に取り、眺めてみるが、よくわからない。


「発動条件さえ満たせば、できますよ」

結構あっけなくできてしまった。

透明な珠に管を繋ぐのは大変だったが、これさえ乗り切れば、楽なものだ。

それも全てフィリップの発明のおかげか。


「このくらい小規模の魔力使用なら、もう少し改良すれば、現実でも使用できそうですね」

魔力流出量にリミッターを付けるとして、どういう仕組みのリミッターにするのがいいのか……

一人ぶつぶつと呟きながら、いろいろと考え中らしい。

自分の世界に入り込んでしまったフィリップが戻ってくるまで、しばし休憩。


「そうか、あの鉱石を使えば……ユスト様、1000P頂ければ、現実世界でもこの装置の使用できます」

生き生きと語るフィリップ。

管理者というよりは、発明家気質らしい。


「フィリップに任せる」

この辺りのことは、私が考えるより、フィリップ任せにした方が間違いなさそうだ。


「発明している方が、好きみたいだね」

微笑ましくて、思わず漏れた一言に、フィリップが苦笑する。


「すみません、元々は発明家になりたかったんです」

申し訳なさそうに白状する。


なんでも、賢者の図書館の管理者は賢者候補者が現れる度に選抜されるという。

今回、私は魔法のない世界からの転生者という情報がフィリップ達にも知らされており、魔法への憧れが強いために、魔法使いの方を選ぶと思われていたそうだ。

最初の訪問で、魔法使いを選ぶと二度と訪れることのない候補者。

やりがいのない相手のため、誰も管理者になりたがる者が居なかったという。

そこで立候補したのがフィリップ。

訪問者の居ない図書館で、思う存分発明するつもりだったそうだ。


「何というか……」

フィリップの告白を聞き、なんと返事を返せばいいものか迷う。


「申し訳ありません。本来の管理者とは、賢者から距離を置いて接するものとされているのですが、私は正式な管理者教育を受けていないので、ついつい口を出してしまうのです」

なるほど、過去の賢者達の管理者は正式な教育を受けた者なのか。

なら私はフィリップで良かったと思う。


「私が賢者になったのが異例なら、異例の管理者が居てちょうどいいんじゃないかな」

少なくとも私はフィリップに距離を置かれていたら、大したことはできないと思う。

前世の記憶に引きずられているせいか、今生の世界の常識にやや欠けているところがある。

フィリップのアドバイスなどでずいぶん助けられたのも事実なのだ。


「ユスト様……」

ホッとしたようなフィリップの顔。


「発明家になりたかったって言ったよね。私のポイントを自由に使っていいから、私がお願いする技術を開発してもらうことってできる?」

この世界に普及したい物ならたくさんあるが、前世で使用していたものをそのまま使うことはできない物が結構ある。


「例えばどのようなものでしょうか」

フィリップも興味深々で聞いてくる。


「ちょっと待っててね」

これはいけるかもと思い、慌てて図書館から目当ての本を探してくる。




「えっとね、これ」

持ってきた本を開くとフィリップは真剣な顔で見る。

電車の設計図が書かれており、電気で動く構造になっている。

この世界に電気はない。

電気の変わりに、魔力を使えないだろうか。

私が手順をイメージして作った珠みたいな物をエネルギーに動く電車。


「そうですね」

フィリップの頭の中では、いろいろな可能性を浮かべては打ち消しての繰り返しなのだろう。

他のページを確認しながら、使えそうな技術を探す。

汽車のページに目を留め、しばらく考えたあと微かに微笑んで頷いた。


「半年くらいいただければ、何とかなるかもしれませんね。本当に私が賢者様のお手伝いをしてよろしいのでしょうか?」

こういう発明や技術開発で世間に広めるという名誉は賢者の特権だとフィリップは言う。

しかしそれはフィリップが発明好きで、発明品を世に広めたいという願いを持っているからだ。

私は別に発明が好きなわけではないし、便利になるのであれば、誰が広めてもいいと思っている。

認識の違いなのだ。


「世の中変えていくには、一人の力じゃ限度があるからね。得意な人が得意な分野で協力していく方が、より良くなるよ」

それならと、フィリップから快諾もらったので、私は当面の課題である魔力を抜く作業を続行することにした。

これ失敗して、寿命ですとか、シャレにならないからね。


フィリップはというと……さっそく電車のエネルギー供給に関する仕組みの技術開発に取り掛かっていた。

おかげで一人孤独にちまちまと魔力を抜く作業。

…………この珠一つで私の魔力はどのくらい抜けるのか。

せめてそれくらいは教えてくれてから、作業に取り掛かって欲しかったです。

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