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賢者の図書館  作者: ゆるり
第1章
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第46話 イメージ

誰もいない孤児院。

みんな北部で作業しているため、人の気配が無く、静かな空間。


「お邪魔します」

ここならゆっくりできるだろうと、マザーに許可をもらったのだ。

なにせ長期戦も覚悟の作業をしようというのだから、その辺で寝転がるわけにはいかない。


「さて、フィリップのところに行くには……もうちょっと待った方がいいかな」

図書館に部屋を一つ作るのだ。

あまり早すぎても仕方ないだろう。


「考えをまとめておくか」

アルトから教えてもらったことを参考に、自分から抜き出した魔法力の使い道についてイメージを固めていく。

これが結構難しい。


フィリップに見せてもらった本には、ハッキリしたイメージができないと失敗すると書かれていた。

現実世界と違って、魂のみの存在となっている図書館内。

大きな魔力を使うイメージなどして失敗したら、肉体が傷つく前に魂が傷ついて、その時点で寿命が来てしまう。

それなりに危険度が低い魔法を使用するイメージでないとダメだ。


そこで思い付いたのが、家の建設。

北部の人達が住んでいる掘っ立て小屋はあまりにもひどいので、どうにかしたいと考えていたところだ。

ちょうどいいから、この機会にちょっとした家を建てるのに魔力を使おうと考えた。


「間取りは……複雑じゃない方がいいな」

外周は長方形。

部屋は6畳一つで、あとはキッチンダイニング。

風呂やトイレに洗面台くらいはつけておこう。

個人部屋なんて贅沢言わなければ、3人程度で生活できる空間になるはず。


「手順は……簡素化しないと」

木材や漆喰など材料を用意しないといけないものは工程が複雑になる。

そこまでイメージしきれないので、土を使おう。

半地下で建ててしまえば、土を運ぶ作業も無い。


手順1.長方形に穴を掘る。

手順2.出た土に地魔法で粘性を持たせる。

手順3.粘性持たせた土で穴を底辺に四角い箱を作る。

手順4.箱の中に壁を作って間取りを作る。

手順5.入口、窓をくり抜く。

手順6.半地下なので入口に階段を作る。

手順7.風呂、トイレ、洗面台、台所など備え付け備品を粘土で形成。

手順8.火魔法で粘性土を焼成。

手順9.風と地魔法で壁など補強。

手順10.風と水魔法で備え付け備品など研磨。


「こんなものかな」

土だけで作るとなると、限度がある。

しかし複雑化はできないので仕方がないだろう。


この程度のイメージなら固められるから、これで北部の人達の家を量産すればいい。

プレハブのイメージだな。

とりあえず5~10年程度持てばいいのだ。

生活が安定してくれば、好きに家を建ててもらえばいい。

当座生活する基盤が必要だから用意する。

その程度で問題ないはず。


「問題は私に内包されている魔力の方かな」

抜き出した魔力で、どのくらいの家ができるか。

目標は北部の人達の分だが、使用量を見つつ、長期戦も覚悟しないといけないだろう。


「お嬢様、こちらにいらしたんですね」

私を探していたらしいミリアがホッとしたように声をかけてくる。


「どうしたの?緊急事態でも発生した?」

各自作業で忙しい中、私を探す理由など、そのくらいしか思いつかない。


「違いますよ」

苦笑しながらきっぱり否定するミリア。


「明日には最初の野菜やイモ類が収穫できるそうです。収穫した作物はどうしますか?」

嬉しい知らせをもたらすミリア。


「そうね。でんぷん質を含むイモ類は日陰で2~3日は最低でも陰干ししときたいわね」

そうすると甘みが増して、おいしくなるから。

本当はもうちょっと置いておきたいが、食料危機の現状では2~3日が限度だろう。


「野菜類は各村に分配。イモ類も陰干し終わったら各村に分配。穀物の収穫まではギリギリの状態続くから、何とか持たせてと通達。連作障害に気を付けて、すぐに次の作物育成に入ってもらって」

指示を出してついでのようにミリアに伝える。


「それから私はしばらく賢者の図書館に籠ると思うから、起きるまでミケとミリアの判断でお願い。わからないことがあればアッシーに聞いて。穀物の収穫までには起きるからよろしく」

溜り過ぎている魔力を抜くまでは賢者の力は使わない方がいいだろう。

寿命を削ると言われて、何事もなく力を使えるほど心は強くない。

なので、このタイミングで集中的に問題解決することにした。


「あまり無茶はなさらないでくださいね」

この忙しない時期に不在を決め込むのだから、大事なことなのだとミリアなりの判断だろう。

止められずに済んだ。

とは言え、心配そうな顔。


「できるだけ、早く戻れるように努力してみる」

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