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賢者の図書館  作者: ゆるり
第1章
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第43話 王城では

王都の中心にある王城。

この国最高位の官吏、宰相の執務室。


「ダナス様、いい加減仕事してくださいよ」

日当りのいい窓辺に机を置き、悠然とサボっている老人男性に泣きそうな声で抗議する年若い青年。


「老人をこき使おうなど、罰あたりもいい所だぞ、ワト君」

青年の悲痛な叫びも老人には届かず。


老人の名はダナス。

この国の宰相を務めている。

いい加減引退させてくれと国王に申し出てはいるが、却下され続けているのだ。

理由は簡単で、後継者がいないから。

この国の頭脳と名高いダナスに代わる程の者が現れないのだ。


「宰相がご自分の仕事をするのに罰も何もないですよ」

必死に説得している青年はワトといい、ダナスの補佐役だ。


ワトの他にもダナスを補佐する者は数人この部屋にいるが、ワト以外は沈黙を保っている。

ダナスの機嫌を損ねて、左遷させられるのを恐れているためだ。


ダナスはそんなことしないのだが……人柄を知ろうとしなければ、わかるはずもない。

なのでダナスはワトを何とか後継者にしたいのだが……気が弱くて、なかなか育ってくれない。


ちらりと補佐役達に混じって仕事をしている男に視線を向ける。


「もう後継者は、ハンスの末娘にかけるしかないかのう」

聞こえるような声で呟かれ、ユストの父・ハンスの額に青筋が浮かぶ。


「私の娘をあてにするのはやめてください」

自由気ままなダナスと、振り回されてる補佐達では仕事にならないと、国王に呼び出されたため2年前から王城勤めになったハンス。

愛しい領地を離れて、こんな狸と狐の化かしあいが日常茶飯事の亜空間に身を置く元凶になった老人を睨む。


「ふっふっふ、あてにもするわい」

ダナスの手には3枚の紙。

これみよがしにピラピラと揺らす。


領主の森の所有権をユストに譲渡した契約書。

北部限定での領主代行許可書。

そしてユストの会社設立に関する書類。


「ハンスの娘は賢者であろう?」

ダナスの一言に部屋中の者が驚きとともにハンスを見る。

いつかは知れることだと理解していたハンスに動揺はない。

ダナス相手だ。

もっと早くに聞かれていてもおかしくなかった。


「私にはまだ予想の域です。ただ、本宅の家令は本人から賢者であることを告げられたと言っていました」

あくまで確証のない話である。

補佐達がざわめき立つ。


「お前たち、まだここだけの話に留めておけよ。もし噂が広まり、間違いであったなら大変だからな」

賢者とはおとぎ話の中にだけ出てくるような存在。

しかし、そんな存在を切望してしまうほど、この国は深刻な事態になりつつある。

国の中枢にいる者達だからこそ、余計にその切迫感を肌で感じていた。

ダナスの言葉に黙り込む補佐達。


「鉄の賢者・ロナ以来だから、300年ぶりかの」

ロナも黒髪黒眼でアーノン領出身の平民だった。

賢者としての力は弱く、当時も深刻な事態に陥っていたが問題を解決できるほどではなかった。

それでも最悪の事態を回避することは出来た。

賢者がいてくれたから。


「銀の賢者・リオレア程は望めないまでも、せめて銅の賢者であればと願ってしまうのう」

ダナスの独り言のようなつぶやきに静まり返る室内。


賢者は位を色で分けられていることが知られている。

一番力の弱い賢者をくろがねの賢者。

その一つ上があかがねの賢者。

その上がしろがねの賢者。

そして最高位が金の賢者。


未だ金の賢者は現れたことが無く、銀の賢者・リオレアが最高位だ。

その力は強力で、あらゆる問題を解決に導いたとされる。

そのリオレアの功績も、今では国にあまり残ってはいない。

もたらされた技術の継承者が無く、消えてしまったのだ。


「一応、技術の継承者が必要になる事態を考えて、権力者達と繋がりが出ないように、孤児の子供達を側に付けています」

ハンスの言葉にダナスは軽く頷く。


リオレアは平民だった。

農業というものを広めようとした彼女だが、土地も人手もなく、その力を発揮できずに寿命を迎えた高位の賢者。

その身分が故に、この国は至宝に気付くのが遅れたのだ。


「ユスト・アーノンか。会えるのが楽しみだのう」

まだ5歳の幼子が申請した会社設立の書類。

審査のために、足を運ぶ機会を得た。


上級貴族、しかも領地持ちで恵まれた環境に身を置く賢者は何をもたらすのだろうか。

今から楽しみでならない。

そんなダナスの心の内を見たかのように、ハンスが渋い顔をしている。


「ひと月半後にはアーノン領に赴く。スケジュール調整頼むぞ、ワト」

本当は今すぐにでも行きたいのだが、これでもそれなりに権力ある身。

アーノン領は国の辺境もいい所なので、何日も移動に費やされる。

それだけの日数を確保するとなると、今から頑張ってもひと月半はかかってしまう。


「ハンス、ワト、お前たちももちろん同行するのだから、自分達のスケジュールも空けておくのだぞ」

当たり前のことだが釘をさしておく。


あとは……王族から誰かを連れていくか。

賢者であることが確定した場合、権力者が群がる可能性が考えられる。

上級貴族であるハンスやダナスがある程度は牽制できるが、公爵など更に高位の貴族が出てこられるとどうにもできない。

王族にはそういう輩の牽制役になってもらうしかないだろう。

只今、まったり冬コミ参加中。

いよいよ今年も残すところ僅かですね。


本年最後の更新です。

気付けばブックマーク200突破。

ありがとうございます。


次回の更新は元旦予定。

来年もよろしくお願いいたします。

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