第38話 和風建築
レンガ作りを村の子達に任せて、アルトとカールを呼び寄せる。
作成中のレンガを使って道を作るので、その計画だ。
「……アルト、鬱陶しい」
さっきからいじけているアルト。
邪魔で仕方ない。
「ほといていいよ。先進めよう」
カールは放置を決め込んだ。
アルトのために持ってきた建築技術書だが、ルディとラディが読みたがったので、読み終えた分を貸していたそうだ。
で、2人はレンガが本に載っていたことに気付いた。
一方アルトは全く気付かなかった。
要は本で得た知識を2人は使えているのに、アルトは使えていないのだ。
それがショックだったらしい。
自業自得なので、かける言葉もない。
「この拠点と各村をこう結ぶ道を作って、ここをこうしたいんだけど、できる?」
地図を広げて、自分の思い描いている道を相談してみる。
まずは拠点と各村をつなぐまっすぐな道。
放射線状に5本。
その5本をつなぐように一定間隔で横道を伸ばしていく。
イメージは蜘蛛の巣だ。
「できるけど、結構起伏があるよ。全部平らにするの?」
起伏を避けて曲がった道を作る方が簡単に思う。
「全部じゃないけど、道になる分は極力平らにしたいな。道にならない部分は後で私が木や草花なんかを植えておく。将来的には活用しようと思うけど、今は手が回らないからね。荒地で放置するよりは緑があった方がいいでしょ」
雨水などの流れも考え、カールと2人であれこれ意見を出しつつ、構想をまとめていく。
その間、アルトは本当に役立たず。
建築部門のリーダー、考え直そうか?
「じゃ、カールお願いね。人手は大丈夫?」
まとまった構想で早速作業に取り掛かるため、立ち上がったカールに聞く。
「正直、人手は足りないけど、どこも同じだし、レンガ班が空けば手伝ってもらうから大丈夫」
早速駆け出していく。
さて、アルトの方もどうにかしないと。
「アルト、あの小山が平らになったら今度はアルトの番だからね」
ピクリとアルトの体が揺れた。
手応えあり。
「私や孤児院の子達が寝泊まりできるスペースに仕事部屋。村の子達の学校に倉庫。各村には公民館みたいな役割の家も欲しい。必要な建物は山のようにあるんだから」
ここでいじけている暇など無いのだ。
「建築技術書の最後の方の巻に和風建築が載ってたでしょ。あれで行こう」
釘を使うのでもなく、魔法で固定するでもない。
木に複雑な凹凸をつけて、組んでいく技法。
アルトが憧れていたものだ。
「壁は土壁、漆喰も作るし、畳も欲しいね」
該当ページを探して開くと、ちゃんと作り方が載っている。
「材料は……ちょっと足りないか。これは私が用意する」
漆喰には貝と海藻と麻。
貝はサッシーに言えば用意できるが、のりとなる海藻はない。
麻も必要。
土壁は竹が必要か。
畳に使うい草も同じく必要っと。
藁はアッシーに言えば用意できるとして、畳職人が必要になるな。
「ねぇねぇ、ユスト様、タタミって、草で出来た床のこと?」
私とアルトの話をなんとなく聞いていた村の子達が聞いてくる。
「そうだよ。裸足で歩けるし、寝転ぶと気持ちいんだよ」
個人的な感想を交えて答える。
「やっぱり、そうだよ」
「でも、い草?とかいうの使ってないじゃん」
「藁とかいうのも使わないよね」
子供達がそれぞれに話し始める。
「畳がどうかしたの?」
話が見えないので、聞いてみる。
「コケコがいる村のゲンじいさんが作れると思うよ」
そう教えてくれる。
なんでもゲンじいさんが小さい頃に住んでいた村に伝わる伝統工芸らしい。
川の氾濫で村が消え、孤児になり、この村に流れついて、故郷を懐かしみながら見よう見まねで作っているそうだ。
「なるほどね。材料は無いけど、技術だけは残ったのかな」
い草は現在この世界にない。
藁もない。
昔は水田があったって、アッシーが言ってたし、い草も消えたのかもしれない。
技術は書物などに残して語り継ぐことはできるが、材料は消えてしまうとそれまでだ。
「畳はゲンじいさんにお願いするとして、土壁や漆喰はどうしようかな」
アルトが家を建てながら片手間にできるほど、簡単なものではない。
「漆喰は海産物を使うから、サトス村(海の村)。土壁は藁を使うからメリス村(水田の村)。器用そうな人にお願いするか」
限りある人材で、一から村を作っていくのは大変だ。
「アルト、そういうことだから、和風建築で早速作業に取り掛かってね」
いじけている暇など無いのだ。




