第37話 レンガ作り
気を取り直して、レンガ作り。
カールに粘土を切り出してもらい、火魔法はネプス村のサリアに頼んだ。
サリアは火魔法の力が強すぎて、よく暴走させるため、農地への出入りを禁止されている。
確かにネプス村は果樹園や農業中心の村。
土台作りで大事な時期に、火魔法暴走は危険すぎる。
でも、レンガ作りには最適かもしれない。
「サリア、この粘土を均一に高温で焼き上げてくれる?600~800度は欲しいかな。温度わかる?」
製鉄などの技術はあるこの世界。
温度はわかるかと思って聞いてみた。
「大丈夫、わかる」
魔法を使う人は温度だったり、成分だったり、重さだったりが感覚でわかるそうだ。
計測器が無ければ何一つわからない私にとっては羨ましい。
サリアが深呼吸して、一気に目の前の粘土に集中する。
するとジュッと音を立てて、粘土がこんがり焼けた。
ちょっと火力が強かったみたいだ。
白い粘土から、ちょっと黒っぽい色になった。
しかし立派なレンガが出来上がっている。
「すごいじゃない、サリア」
棒で突いてレンガをひっくり返してみても、焼きムラはない。
「だれか、ちょっと水で冷やしてもらってもいい?」
様子を見ていた他の子達に聞いてみる。
「じゃ、私がやります」
立候補してくれたのは、サリアの親友だというサトス村のリリアだ。
サリアとリリアは共に12歳の女の子。
火魔法の暴走を恐れた村人達が、同じく水魔法の強いリリアを常に側に置いておくことにしたのだという。
リリアは器用にレンガにだけ魔法で作った水をかけていく。
「おお」
その様子を見ていたアルトが歓声を上げる。
材料が粘土であるにも関わらず、水に溶けない。
そればかりか、水分をぐんぐん吸収してしまったレンガ。
「完璧。これを道の舗装に使えば、雨の日でも道のぬかるみ気にしないで動けるでしょ」
私の言葉に笑顔になるサリア。
強すぎる火魔法で厄介者扱いされることは多いが、褒められることは無かったという。
疎んだこの魔法を生かせたことが嬉しいらしい。
「サリア、余裕そうだし、この小山分のレンガ焼成頼んでいい?」
喜んでるついでに、無茶を頼んだ。
ちょっとサリアが顔を引きつらせたけど、承諾してくれた。
「大丈夫なの?」
リリアが心配そうにしている。
「無駄に有り余ってる魔力もこれだけ使えば、しばらく暴走の心配なくなるでしょ」
開き直ったサリア。
よし、任せきってしまおう。
「あとは粘土の切り出しか」
村の子の誰かにお願いできれば、レンガ作りは任せて、カールには道の下地作りをお願いできるのだが……
「ルディ、ラディの双子はどう?」
別の子が提案してくる。
だれでしょう、それは?
「ああ、あの子達なら効率いいかな」
リリアが周囲をきょろきょろさせて、目当ての子達を見つける。
「ルディ、ラディ、ちょっと来て」
大声で呼べば、走ってくる男女2人の子供。
「何?リリア」
どうやらアルトが見ていた建築技術書に夢中だったようだ。
文字の読み書きはどうしたのかと不思議に思っていたら、私が勉強を教えていた孤児院の子達が、北部の子供達に教えていたそうだ。
なので、孤児院の子達レベルの勉強はできるという。
頼もしい。
話を戻して。
「レンガを作りたいから、粘土の切り出しをお願いしていい?」
「レンガ?」
リリアの言葉を繰り返してつぶやき、ああ、と何かを思い至ったようだ。
「ラディ、あの本に載ってたやつじゃない?」
片方がもう片方に相談している。
どうやら今しゃべった女の子の方が、ルディのようだ。
「ああ、あれか。なら粘土の切り出しだけじゃダメだろ。砂と藁も必要だ」
ラディと呼ばれた男の子の方が、サンプルで作ったレンガを見つけて手に取る。
「こんな感じか」
しげしげと見つめてから、おもむろに魔法で山の一部を切り取った。
それをルディがカマイタチのようなもので細かく切り刻む。
僅かな表層の砂と粘土が程よく混ざっていく。
「藁はどうするの?」
ルディの質問にラディは首を振る。
「いらないみたいだ。粘土の質が悪くて、草などが混じっている。でも、レンガには向いているだろう」
そう言ってから、ルディに何か合図を出した。
それを受けてルディは、混ざりきった粘土をレンガ大の長方形に切り分ける。
地面にずらりと並んだレンガたち。
「サリアが焼くのか?」
ラディの声にハッとしたサリアは大きく頷き、200個以上あるレンガを焼き上げていく。
周辺が一気に高温となったため、リリアが水の膜で焼き上げ中のレンガを覆い、熱が外に逃げるのを抑えた。
結構いいコンビだ。
「あのね、サリアとリリアとルディとラディは同い年の幼馴染なの。仲良しなの」
作業中のサリア達を唖然と見てたら、村の子達が教えてくれた。
火のサリア。
水のリリア。
風のルディ。
地のラディ。
いいな、この幼馴染達。
私にはそう呼べる者がいない……
待てよ、私はまだ幼い。
今からそう呼べる者を作るのは可能ではないのだろうか?
……対等の者がいません。
みんな気さくに話しかけてくれるけど、どことなく一線引かれるんですよね。
貴族と平民の一線を。
うう、悲しい。
「ユスト様、どう?」
悲しんでいたら、どうやら200個以上のレンガが焼きあがったようだ。
手渡されたレンガを見て、思わずにやける。
白くきれいな色をしている。
色よし、形よし、何よりさっきよりも丈夫なレンガだ。
「文句無し」
レンガ作りのGOサインを出す。
珍しく朝一投稿しています……ネムイ




