第33話 酪農の村
3つ目の集落。
名前をマルス村と名付けた。全くもって意味は無い。
「村長はルベナでいいのかな?」
私が確認すると、渋い顔して頷く。
村民も同様だ。
この村は女性陣がとにかく強い。
なので村長はルベナよりも奥さんのセレアの方が統率が取れるのではないかと思ってしまった。
「ユスト様、他の村は男が村長なんだから、うちの村だけ私だと面倒ですよ。そんなのはお断り。主人で十分です」
きっぱり言い切る。
旦那の存在意義が薄い村だ。
「頼もしい限りです」
そんなセレアを温かく見つめるモモ。
「ご指導、よろしく頼むよ、モモさん」
人語を話す小さなモウシに驚いた感じは全くない。
「セレアは適応力すごいね」
そう問えば豪快に笑われた。
「一番不思議なのはユスト様の存在さ。それに比べればモモさんは許容範囲だと思うよ」
え、どういうこと?
私は普通じゃないのだろうか?
本気でわからないと困惑する。
「えっとね」
どう説明しようかと考えるセレア。
「植物は絶対に人の手では育たない。生き物の長は絶対に人前に姿を現さない。家畜を飼うのは不可能。そう言われていることをことごとく可能にしてしまったからね。これが不思議と言わないでなんと言うのさ」
それに……と、村人を見渡す。
「空腹で、惨めで、なんで生きているんだろうってどん底にいた私達に光をくれた。食べ物でお腹が満たされ、自分達の力で生活を営めると示してくれたときの希望。初めて生きていると実感しているんだ。ユスト様が起こした奇跡に感謝してる」
私はただ美味しい食生活がしたかった。
その手段に北部があったから、手を差し伸べた。
それだけのことに、こう言われてしまうと少し良心が痛い。
「では、そろそろ始めましょうか」
モモがおしゃべりに区切りをつける。
「男性陣は話し合って、2つに分かれてください」
農業担当として、イモ類やトウモロコシ、乳製品の加工に必要な果樹を育てるグループ。
家畜担当として、白毛モウシやメメルの世話、乳しぼりなどのグループ。
ちなみにメメルの長はルルと名付けた。
「女性陣は5つに分かれください」
牛乳として飲めるように処理するグループ。
バターを作るグループ。
チーズを作るグループ。
生クリームを作るグループ。
そしてヨーグルトを作るグループ。
ユストの希望で5種類の乳製品を作ることになった。
「結構な種類が作れるんだね」
セレアの感心した声。
そしてテキパキと分担を決めていく。
どう決めようかと悩んでいた男性陣にも、意見など聞かずに勝手に割り振っていく。
セレアには逆らえないようで、すんなりグループ分けが完了してしまった。
「セレアさんとは楽しくお仕事が出来そうでうれしいですね」
モモの言葉にセレアが照れたように笑う。
「こちらこそ、モモさんが指導にあたってくれて感謝してます。よろしくお願いしますね」
そんなセレアとモモを見て、この村は大丈夫だと確信する。
まぁ、セレアが村長ならよかったのにと思わなくもないが。
「フランツ、ベルナーよろしくね」
だいたいの村に家畜がいるので大忙しのフランツ。
ベルナーは14歳の女の子で火魔法を使う。
加工部門のリーダーで乳製品を担当する。
「今からワクワクしてます」
本当に楽しそうなベルナー。
モモやセレアと気が合いそうだ。
うん、人選に間違いなし。
大忙し確実のフランツはげっそりしているが……見なかったことにしよう。
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