第31話 水田の村
1つ目の集落。
名前をメルス村と名付けた。意味は無い。
なんとなく集落よりはと思って、村とした。
「村長はヤコブでいいよね」
私が確認すると、呆然としつつ頷く。
村民も同様だ。
彼らが見つめる先にいるのはアッシー。
うん、驚くよね。
こんな訳の分からない生物が居たら。
「ユストよ、考えていることはだいたいわかるのだがな」
苦笑しているが、怒っている様子はない。
「まあ良い。ヤコブよ、この村では稲作を中心に行ってもらう」
そう言って、若者20人を選別する。
「体力がありそうだし、おぬしらにするか。穀物は急ぎ用意する必要がある。少々無理をするが頑張ってついてくるのだぞ」
意気揚々と若者たちを連れて水田作りに取り掛かる。
「えっと、アッシーがこの村の農業指導者になります」
まだ呆然としているヤコブに説明してみる。
「人語話せるので、わからないことは聞いてくださいね」
「え、でも……」
納得できない部分もあるのだろう。
その気持ちわからなくもない。
だが、アッシーは優秀だ。
人間よりも。
「豊かな食生活を望むのであれば、多少の不思議には目を瞑ってください」
私の言葉にハッとしたように真顔になり、頷く。
いちいち気にしていたら、この地で作物は育たない。
「で、稲作以外の作物はタタが担当します」
タタとはブブタのことだ。
契約した家畜の長には一応名前を付けました。
センスが無いので適当ですが。
紹介されたブブタは、ブヒブヒ鳴きます。
どうやら自己紹介しているようですが……人語しゃべれません。
色が緑なだけで、普通に豚です。
紹介された村人たちは絶句。
「どうやって、教えを請えばいいのでしょうか」
まじめに質問されました。
私もどうしようかとアッシーに聞きたい。
「この土地で育てる作物のマニュアルがここにあります。タタはお手本を見せるので、マニュアルと合わせて覚えてください。わからないことがあれば、アッシーが通訳してくれるので大丈夫ですよ」
ミケが本を渡しながら、柔らかに説明してくれる。
まじめ過ぎるモモと強面のちょっと暑苦しいシシの一人息子とはとても思えないです。
「ああ、それなら」
ホッとしたようにマニュアルを受け取る村人達。
突如背後から上がる歓声。
アッシー、何やらかした?
びっくりして振り向くと、噴水のごとく水が噴き出していた。
「地下水は海に向かって流れておるからな。さえぎる様に大きな穴をあけてしまえば、そこに水はたまる」
吹きあがった水の下には大きな穴。
地下に流れる水を魔法で地上に吹き上げさせたのだ。
それにより出来た穴。
目論み通り、その穴にどんどん水が溜まっていく。
「さて、水田でも作るか」
どんどん形成されていく水田。
アッシーは水と地の魔法を使えるようで、選んだ若者そっちのけで一人水田作りの真っ最中。
「そういうことだから、よろしくお願いね」
何がそういうことなのかわからないが、もうアッシーに任せて次行くことにした。
「ヘルマ、フーゴもよろしく」
ヘルマは16歳の女の子で風魔法を使う。
私が立ち上げる会社では農業部門のリーダーを務めてもらう予定だ。
担当は穀物なので、米の他にも麦や蕎麦、トウモロコシやイモ類などの状況を管理してもらう。
フーゴは15歳の男の子で水魔法を使う。
農業部門で担当は水田。
米はアッシーが大規模にやるというので、専用に担当を置くことにしたのだ。
「フランツとルートも頼むわよ」
フランツは15歳男の子で風魔法を使う。
畜産部門リーダーで飼育担当。
契約した家畜達の状態を管理してもらう。
ルートは13歳男の子で地魔法を使う。
農業部門の野菜担当なので、タタが指導する野菜の管理を任せる。
「本当に大丈夫でしょうか」
不安そうなヤコブ村長。
家畜が指導者で、子供が管理者。
不安にならない方がおかしいだろう。
「やると決めたのだから、頑張ればいいのよ」
やんわりとヤコブを励ますのは、奥さんのエリン。
「そう……だな。よし、やるか」
奥さんの励ましで、ころっとやる気を出したヤコブ。
うん、この村は大丈夫だろう。




