第30話 担当分担
「ユスト、母さんやココやアッシーから提案があるそうです」
北部の地図を渡して、家畜達にこれからの相談をしていたミケが戻ってくる。
「相談って、何か良い手を思いついたの?」
作物を育てるのに土地が悪いので、どうにかならないかと、農業の大先輩たちに知恵を求めていたので期待が膨らむ。
ミリアとともに走ってみんなのところに行く。
「拠点から一番近い集落は我が水田を広げるので、稲作中心とすればよい。水路さえ引ければ、土自体に問題ないゆえ育つだろう」
なんと拠点からここまで水田を作るという。
いや、待てよ。
アッシー、この集落の若者は使えそうだと小躍りしてたのをうっかり見てしまっていた。
人の住む地に水田作りたがってたし、ほぼ自分の欲求を満たすためとも言えそうだ。
「まぁ、結果的には良いではないか」
私の思考でも読めるのか、満面の笑みで言い切った。
「いいですけどね、私は助かりますし」
広大な水田で、大量の米ができるのは助かる。
「その隣の集落には、ココと父さんが移住するそうです」
ミケが説明して、ココが大きく頷く。
「森の腐葉土などで土壌改善ができるそうなんです」
なるほど、それならココの大事な小麦も、シシの契約作物である大豆も作れる。
「しかしなんでココとシシなの?」
仲が良いのはモモの方だと思っていたが……
「我の助言だ。小麦と大豆でユストは発酵食品を作りたいだろうと思ってな。違うか?」
いろいろ知っているなと感心する。
余程アッシーが惚れこんでいる昔の賢者は物知りですごい人物だったのだろう。
「違くないです。でも、失敗したら食材を無駄にしてしまうので、しばらくはできません」
発酵食品は難しいという。
図書館で作り方を確認してみたが、何度も失敗は覚悟しないといけないだろう。
「米の礼だ。我が作り方を伝授しよう。味噌と醤油でよいのだろう?」
びっくりしてアッシーを凝視する。
どれだけ物知りなのだろう、このアッシーは。
「まあ、長く生きているので、何人か賢者は見てきておる。そこでいろいろと教わったのでな」
とんでもなく長生きだということが判明したが、謎は深まるばかりだ。
しかし詮索しても答えが無いのはわかりきっている。
「味噌と醤油、よろしくお願いします」
深々と頭を下げた。
これで悲願の調味料が手に入るのだ。
ここはアッシーに頼もう。
「任せておけ」
自信満々のアッシーにモモが微笑む。
「ココたちの隣の荒野には私達が移住します」
モモが申し出てくれた。
「ココとアッシーに確認しましたら、同じように森の腐葉土などで土壌改善でができるそうなので」
なるほど、それならばモモの契約作物であるトウモロコシもできる。
モモと白毛モウシが移住してくれるのであれば、この集落は乳製品の加工を中心に作業してもらおう。
トウモロコシが好きだというメメルもモモと同じ場所に移住すると言い張ったので、山羊の乳製品もこの集落には頑張ってもらわないと。
メエコは岩場の集落の近くに窪んだ平地があり、そこに移住するという。
昼は暑くて、夜は寒いため、集落の人間は風通しの良い岩場に移動したと言っていたが、メエコは休むための小屋を作って貰えればそこでいいそうだ。
ただ、野菜の栽培は担当するので、岩場の集落の人間にはすぐ伸びる毛刈りをお願いしたいそうだ。
ブブタはアッシーの水田があるところを希望している。
泥遊びが好きなのだそうだ。
アッシーはものすごく迷惑だと言ってるが、ブブタが担当している根菜の栽培はアッシーの集落が請け負うしかないだろう。
他の集落はいっぱいいっぱいなのだから。
「お嬢様、多くの作物などに手を出さないで、数種類を極めた方がよくありませんか?」
ミリアはあれも、これもと挑戦するやり方は全部中途半端になるのではないかという。
「そういう考え方もあるけど、私は広く浅くで挑戦しようと思ってるの」
何ができて、何ができないか現時点ではわからない。
いろいろ試して、できるのを選別してから、極めていけばいいと考えてる。
「あとは……海辺の集落か」
ここは私が担当するしかないのかな。
家畜に海産物を担当できるのがいない。
「確約はできぬが、海に精通した知人に声はかけてみよう」
そうアッシーが提案してくれた。




