第26話 北部支援開始
北部に戻ってみれば、アルト達が作物を運び込んでいた。
「ユスト、遅いぞ」
いやいや、私は猛ダッシュだったよ。
ここから屋敷までの距離を考えてください。
5歳児の足で、どうやればこれ以上早く行動できるというのだ?
「……限界です」
言っちゃなんだが、体力に自信はない。
むしろ人並み以下の確信がある。
ゼイゼイと地面にヘタレ込んだ。
「ユスト、大丈夫?」
心配そうに声をかけえくれるのは、孤児院の子供達。
頷いて安心させる。
なんと全員来てくれたのだ。
「ユストはここで作物を育てたいんだね?」
子供達に混じって、子モウシもいた。
「ミケ、来てくれたんだ」
ミケとは子モウシの名前。
茶毛と白毛に黒い目。
この色の取り合わせが、前世での三毛猫を思い出させるから。
ちなみに母の白毛モウシはモモで、父の茶毛モウシはシシにした。
意味は無い。
ココ同様なんとなくだ。
だって、名前付けって苦手なんだもの。
「拠点とは環境が違い過ぎるわ。育てられる作物ある?」
ミケは農業に関して、私の助けとなるための存在だという。
なら、どんなに幼くとも知っていることはあるのではないか。
「難しいな。賢者の袋を使っても、どこまでできるか。新しいサンプルを持ってきても失敗する可能性があるよ」
土に触れ、難しい顔で答える。
ここはそれほどまでに、荒れ果てた土地。
やっぱりと思う。
「アルト兄ちゃん、あれ食べ物でしょ?ちょうだいよ」
泣きそうな子供の声。
アルトやミリアに縋って訴えてるのは……北部の子供達だ。
どうやら顔見知りらしい。
「アルト、カール、ヘルマ、フーゴ、フランツ。貴方たちが先頭になって、各集落に作物を分配して。それから、集落の代表をここへ連れてきて。他の子達は5人を手伝ってね」
孤児院年長組の名を連ねて、指示を飛ばす。
5つの集落公平に支援しなければ、しこりが残ってしまうから。
「シシ、茶毛モウシ達で作物を運んであげて。お願い」
指示で動き出した孤児院の子供達と茶毛モウシ。
「ミリア、ベルナーとリトを連れて、昨日作ったマヨネーズを作っておいて。それからバターとチーズも夕飯に一度作っただけだけど、作れる?」
夕飯に今作れる材料で、作れるのは作って見せた。
ベルナーとリトは孤児院の子供達の中でも群を抜いて器用なので問題ないだろう。
子供たちが農業にやる気を出したのは、この味があった。
集落の代表にも同じ手を使おうと思う。
私の意図をきちんとくみ取り、ミリアが頷く。
「大丈夫です」
すぐに作業にとりかかったミリア達。
「あとは……」
セバスに用意させた地図を広げる。
「ミケ、これを見て」
北部の形状がよくわかる。
山や森の位置まで書き込まれているのだ。
しかし、北部には私の森以外の森はない。
私の森は北部に入らないし……
北部の地域活性なら、基盤は北部のみで作らないとダメだろう。
森が私の所有地であるうちは使えるが、将来的にアーノン領主に返還して、生活が崩れるのではだめだ。
「海に岩場に荒野ですか」
地図を見て考え込むミケ。
「とりあえず荒野ので栽培に適したものを探さないとね」
集落の3つは荒野にあるのだ。




