第24話 領主権限代行
走り続けて、屋敷までの最短距離を20分で戻って来た。
「セバス」
屋敷に入ってすぐ、どこにいるかもわからない家令を呼ぶ。
「何ですか、騒々しい」
すぐに顔を出したセバスは眉間にしわを寄せている。
しかしそんなのは見ないふり。
「父様と話がしたいの。繋いで」
普段は王都にいる領主の父様。
緊急時のために、魔法通信機がある。
この家でそれを扱えるのはセバスのみ。
高い魔法力が必要なのだ。
「どのようなご用件で?」
親恋しさの子供の我がままなら聞かないぞと、言外に語っている。
さて、どう言おうか。
しかしここで誤魔化しても仕方ない。
「北部の存在をさっき知って見て来たわ。あれは何?父様は領主としての職務放棄もいいところよ」
強気でダメ出しする。
その強気発言に眉間のしわを深くするセバス。
「では、お嬢様ならどうにかできるというのですか?」
文句を言うだけなら、何もしないのと同じだという。
セバスの言葉に内心微笑む。
その言葉を言ってほしかったのよ。
「ええ、できるわ。だから北部に関してのみでいい。私に領主の権限の一部をもらえるよう父様に頼むわ」
私の言葉に驚くセバス。
こんなセバスは初めて見た。
「5歳の子供に何ができるんですか?」
もっともな意見だ。
ポケットから賢者の袋を取り出す。
中から物を取り出すイメージを浮かべると、袋の上に白銀の鍵が浮かんだ。
出来るのではないかと、賢者の図書館を出る前にしまってみたが、できて良かった。
「賢者という存在を知ってる?」
この世界では、おとぎ話に出てくるようなものだ。
知ってはいるけど、実在はしないだろうというレベル。
「……こちらへ来てください」
鍵を見たセバスはため息をつき、私を父様の部屋へ案内する。
「旦那様から先日、お嬢様が賢者である可能性を聞かされていました」
そんなもの信じてはいないですけどねと言っているような口ぶりだ。
それでも、父様の机の引き出しから1枚の紙を取り出す。
「裏手の森の譲渡を決められた時に、北部の存在がお嬢様に知られることも予想済です」
広げられた紙には、北部に関しての領主権限代行を認める旨が書かれてある。
「もし、お嬢様がご自分の意志で手を差し伸べると決めたときは、権限を与えてくれと申し使っております」
父様の考えが全く理解できていないと顔に出ているセバス。
その態度に苦笑する。
ものすごくしぶしぶといった感じだが、一通りの準備はしてくれていたようだ。
紙に私がサインをすれば、権限を行使できるようになっている。
「サインをすれば、その時点で責任が発生します。どうしますか?」
心の底を覗き込むように見てくるセバス。
しかし私に迷いはない。
これも将来の豊かな食生活のため。
「サインをしなくても私は領主の娘。生まれた時点ですでに責任はあるわ」
しっかりとした筆跡でサインをする。
それを確認して、セバスがまたため息を付いた。
「ユストお嬢様は、5歳の子供らしくないのですよ。どちらで勉強されたのですか?」
セバスの問いに冷や汗が出る。
しまった。
書類に書かれてた文字は、重要文書が簡単に解読できないようにと使用されている高官たちが使う文字だ。
領主権限に関する内容などは、この文字を使うことが義務付けられているため疑問にも思わなかった。
文字が前世でのローマ字に似ていたので、難なく覚えてしまっただけの事。
「賢者の知識ということで」
賢者とは英知の象徴扱い。
困ったことがあれば、全部賢者のせいにしてしまおう。
そんな私の考えが見え見えで、セバスは大きくため息を付き……それ以上の追求はしてこなかった。




