第23話 北部の現状
拠点から歩いて10分ほどで森の外に出る。
さらに5分ほど歩くと、茶色の土埃がたち、そこが北部の入り口だという。
屋敷から北上に歩いて30分だったので、拠点はむしろ北部の方が近いらしい。
「ここが北部?」
村に見えない。
集落と呼ぶ方がしっくりくるな。
むき出しの乾いた大地に、あばら小屋がまばらに並んでいる。
ココの作った湖畔の小屋が豪邸に見えるほどだ。
小屋の前で、無防備に昼寝をしている子供達。
その四肢はやせ細り、栄養が足りていない。
良くない状況だ。
さて、どうしたものか。
可哀そうだとは思うが、私は神様でも聖人でもない。
何ができるだろうか。
「北部には集落がどのくらいあって、人口はどのくらい?」
まずは何とかするべき規模がわからない。
「調査がされていないので、詳しくはわかりません」
ミリアの申し訳なさそうな顔。
「ざっくりで構わないわ」
いきなり質問して、正確な数字を返せというほど鬼ではない。
「俺が見て回った限りでは集落5つ。合わせると人口は300ってところだ」
アルトは計算や統計を得意としている。
その数にほぼ間違いないだろう。
「300か」
顎に手を当て、模索する。
ここは何も無さ過ぎるのだ。
とりあえず食料は急務だろう。
拠点にはいくらかの作物がある。
しかし300人もの人間を何日も賄える量ではない。
「…………そうだ」
いいことを思いついた。
北部を農場にすればいいのだ。
食材を作って、加工して、人手は十分にある。
子供達にはきちんと勉強させて、将来使える人材に育てればいい。
そのころには私、楽して美味しいものが食べられる生活ができるはずだ。
「ミリア、アルト。このまま拠点に戻って、作物を持ってきて。ココに荷台を作ってもらって、茶毛モウシ達に押してもらえば大量に運べるでしょう」
俄然やる気が出た。
すぐさま指示を出す。
「作物の持ち出し量には気を付けて。みんな食べてしまうと、次に育てる種子がなくなってしまうから」
農業という考え方が無いのだから、食べ尽くしてしまう懸念もある。
本当は私も付いていきたいが、私には別にやることができた。
その辺の調整はココ達がやってくれると信じるしかない。
「お嬢様は?」
「私はいったん屋敷に戻る。このままここで何かを行えば、領主の権限を侵してしまうからね。北部に対しての領主権限一部をもらってくるよ」
5歳の子供の戯言と取り合ってもらえない可能性もある。
しかし、切り札にしたかった賢者という肩書はここで使うことにした。




