第22話 北部
翌朝、日が昇り始めた頃には、孤児達総勢20名とミリア、私は目覚めていた。
「はやく、はやく」
急かせる孤児院の子達。
はい、早朝から叩き起こされました。
どうやら昨日の夕飯に食べた作物が効果的だったようだ。
その美味しさに、俄然やる気が出ている。
それに加えてアッシーが寝るまで稲作の素晴らしさを子供達に説いていたのだから仕方あるまい。
「最初は栽培環境の記録作業になるから、高速成長で3期目までは手出ししないでね」
タイミングが狂って、習得失敗とか勘弁してほしいから。
元気よく返事をする子供達。
とはいっても、私より年上なんだけどね。
主に10歳前後の子が多い。
種子の栽培環境記録作業は昨日のうちに説明してある。
ミリアが知っている範囲のことはみんなに伝えたと思う。
「アッシー、いい?」
私が聞くと、アッシーが微妙な顔をする。
「そのアッシーというのは何だ?」
ああ、今更ながらに勝手にあだ名をつけて呼んでいたことに気付く。
「なんとなく付けたあだ名。嫌なら名前教えて」
じゃないと、呼びようがない。
「ううむ……アッシーでよい」
しぶしぶ納得してくれた。
「じゃ、アッシーいくよ」
頷いたのを確認して、サンプルの米を景気よくばらまく。
焦ったのは子供達。
しかし、それも一瞬で、アッシーの高速稲作が始まった。
稲の成長も早いが、アッシーの動きも早い。
目で追うのがやっとだ。
唖然とすること10分。
1期目の収穫時期が来たらしい。
「ユスト、ちょっといいか?」
高速作業に見入っていると、アルトが声をかけてくる。
その後ろには神妙な顔つきのミリアもいる。
「?」
何だろうと思いつつ頷く。
稲作見学集団から離れたところでいきなりアルトが頭を下げた。
何事?
びっくりしすぎて思わず無表情になりました。
とっさには顔の筋肉動きませんよ。
しかし内心動揺しまくり。
「頼む、この力で北部の人たちに手を差しのべてくれ」
……はい?
言っている意味がわかりません。
「アーノン領は北部と南部に分かれているんです」
ミリアが説明してくれた。
まったくもって知りませんでしたよ。
「旦那様はお嬢様にそのことを話されていないし、街の人達も話題にしませんからね」
私が知らないことについて苦笑された。
「北部は元孤児達が集まって出来た村なんです」
子供のうちは孤児院で面倒を見てもらえるが、大人になれば出ていかないといけない。
しかし元孤児ではまともな仕事に就けないという。
街に居場所を無くした者達が集まって出来たのが北部だ。
何代も前の領主から続いている流れ。
アルトや孤児院の子供達にとっては他人事ではないのだろう。
ミリアとアルトが今の北部についていろいろと説明してくれた。
どうやら生活環境が著しく悪いらしい。
作物の採れない不毛の地。
しかし、北部以外に居場所のない彼らはそこで生活するしかないという。
父様は何してたんだろう。
「旦那様は食料など支援を続けていますが、近年、食料が取れずに値上がる一方で……」
黙り込んでしまったミリアとアルト。
「まずは現状をこの目で確認したいわ。案内してくれる?」
ミリアとアルトがホッとしたようにうなずいた。




