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賢者の図書館  作者: ゆるり
第1章
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第14話 試食

目が覚めたら昼近くだった。


「やっぱり……」

賢者の図書館と、現実の時間の流れは異なるようだ。

おおよそ2倍くらい、現実の方が早く時間が流れていると思われる。


「お嬢様、おはようございます」

自分の考えに没頭していたら、声をかけられる。

誰かと思えば、すぐ側にいたミリアだ。


「おはよう」

もう、おはようの時間ではないと思いつつ、返事を返す。

朝はベルで呼ぶまで入ってこないのに何故だろう。

そんな考えが顔に出ていたようだ。


「お嬢様が起きられて、良かったです」

安心したように微笑まれた。

どうやら声をかけても起きない私を心配して、ずっとついていたらしい。


「心配かけてごめんなさい」

自分のことで手一杯だったため、寝坊することで心配する人がいることを忘れていた。


「いいえ」

静かに首を振ると、この話はもうお終いとでも言うように手を叩く。


「お嬢様、お腹すいていませんか?今、果物をお剥きしますね」

部屋に備え付けられたテーブルの上には籠がある。

その中には、昨日採ってきた多種多様な果物が入っていた。


「何が食べたいですか?」

どの果物を取ろうかと迷うミリア。

果物が減っていないところを見ると、ミリアも朝食はまだなのだろう。

なにせ侍女長は私が寝坊すると、ミリアの朝食を抜く人だから。


「今、右手で触れている果物。緑色の丸いのあるでしょ、それ」

新品種の果物の一つだ。


「これは初めて見る果物ですよね。何という名前なんですか?」

私に指示されて、緑色の果物を剥き始める。

網目模様のないメロン……プリンスメロンのような見た目だ。


「名前ないよ。新品種だから」

さて、どんな味か楽しみだ。


「新品種……ですか?」

この世界に農業とかほとんどないのだから、種の交配も無いか。


「昨日、たくさんの果物の種を植えたでしょ。違う品種の果物同士を近くに植えると、まれに交じり合って、新たな果物ができるの」

確かこんな説明でよかったよね。

改めて説明しようとすると、適切な言葉ってわからないなと焦る。


「新たな果物」

つぶやきながら、まじまじと新品種の果物を見る。


「どんな味かは食べてみたいとわからないけどね」

私に促されて、皮を剥くミリア。

食べやすい一口サイズに切って、皿に盛ると、フォークを添えて出された。


「へぇ、よく熟れてる」

トロッと柔らかそうな、オレンジ色の果実。

甘い匂いがする。

見た目も香りもプリンスメロンだなと思う。

フォークに刺して、躊躇いもなく口に入れた。


「美味しい!」

思わずガッツポーズが出てしまった。

そのくらい、甘くて美味しい。


味はプリンスメロンとほぼ同じ。

しかし糖度は断然こっちが上。

甘味の少ないこの世界。

これほどまでの糖度を持つ果物は初めてだった。

何と何の掛け合わせだったのだろう。

一気に混ぜたので、ベースの果物がわからないのが悔しい。


「ミリアも食べてみなよ」

皿をミリアの方へ寄せる。


「では、ひとつ」

ミリアも興味深々だったようで、お恐る恐るフォークに刺した。

いつもなら主人である私の皿の物は絶対に取らないのに、余程気になっていたのだろう。


「美味しいよ?」

なかなか口に入れないミリアに声をかけてみる。

その声に促されて、口に入れた。


「!」

言葉にならない驚きがあったようだ。

大きく目を見開いて、皿の果物を見つめている。


「新品種って、こんなにすごいんですか?」

昨日植えた果物の種は、ありきたりの物ばかりだ。

まぁ、甘くて美味しい種を選りすぐってはいたが。

それでもここまで甘い物はなかった。

本当に何と何の掛け合わせだったのか。


「これは成功例ね。予想しなかった物ができるのは品種改良の面白いところだと思う」

実の中央に大量にあった種子を近くの紙に包む。

これは当たりなので、拠点に植えて増やすべきだろう。


「さてと」

視線を枕元に置いておいたリュックに向ける。

パンパンに膨らんでいるリュック。

その中身を確認すれば、成果物は消え、マニュアルやサンプルが詰まっていた。

よし。


「食べたらまた拠点に行くよ」

ミリアには詳しい説明は何もしていない。

だって現段階で「賢者になりました。魔法使えません」とか言っても、信じてもらえないだろうからね。

でも、こうして作った作物を一緒に食べて、驚きと発見があったりすれば、なんとなくでも私がやりたいことは伝わるのだろう。

何も言わずに頷いてくれた。


綱渡り更新!

その日の更新分は、その日に書いてます。

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