第13話 新たなサンプル
賢者の図書館には大量の本がある。
農業、畜産、水産、工芸、工業、建築などなど。
この世界では、まだ全然足りない技術だ。
元日本人としては、これらがどういうものかを知っているだけに、どれも試したいものだ。
しかしポイントには限りがある。
出来る範囲で順番にやっていくしかない。
何を優先させるかなのだが……
「やっぱ最初は農業を充実させないと」
魔法を諦めてまで賢者を選んだのは、このためだ。
農業の棚を何度も行ったり来たりしながら悩む。
「何を借りていこうかな」
豆類では大豆。
イモ類ではジャガイモとサツマイモ。
葉物だとキャベツやレタス。
根菜に大根、ニンジン、ゴボウは必須だろうな。
ネギ、玉ねぎ、ニンニク、トマト、ナス、きゅうり。
あげればきりが無いので、これで何ポイント消費だろうか。
「そうですね、200Pの消費です」
さっと計算したフィリップが教えてくれる。
まだまだ借りれる余裕がある。
育て方を本で確認したが、小麦同様、ただ蒔けば良さそうだ。
さて、どうしよう。
せっかくなのでポイントギリギリまで借りていきたい。
「そうだ、ミルクを手に入れるためには、どうしたらいいの?」
コケコが飼育可能ということは卵が手に入るのだ。
せっかく小麦と卵があるのだから、ミルクがあればできることがもっと広がる。
「ミルクですと、メメルかモウシの家畜を契約することになりますね。味はモウシが上ですが、契約難易度はメメルが低いです」
メルルが山羊で、モウシが牛。
後々生クリームやヨーグルト、バターやチーズなどいろいろ作りたい。
なら脂肪分の多い牛がいいだろう。
「出来ればモウシが希望かな」
私の答えにフィリップは考え込む。
「そうですね、ユスト様が拠点とされたアーノン家の裏手の森にもモウシの白毛種がいますから、挑戦されるのもいいですね」
フィリップは農業の棚から数冊の本を取る。
「好物はトウモロコシ、大豆、蕎麦あたりです」
育て方を確認したが、小麦同様だ。
トウモロコシと蕎麦のサンプルも追加で借りる。
それでもまだまだ余裕である。
「あ、砂糖。確か原材料はサトウキビとてん菜だったはず。サンプル有る?」
またフィリップに確認を取ってみる。
調味料をそろえていくのだから、甘味は重要だ。
「サトウキビもてん菜もあります」
フィリップの答えに小躍りして、両方借りる。
あとは何ができるだろう。
醤油と味噌は大豆ができないと仕方ないし……
マヨネーズはお酢と油が必要だからまだ無理。
お酢は米酢を狙ってるが、水田が出来るまで我慢。
油は……菜種か。
「菜種も追加でお願い」
油も重要だ。
炒め物から揚げ物までできる。
まだポイントに余裕がある。
どうしよう。
「ユスト様の拠点には大きな湖があります。そちらで魚を育ててみるのはどうですか?」
悩んでいたユストにアドバイスをくれるフィリップ。
「魚?私は釣り苦手だし、どこかの川行って、主を捕まえろとかは無理だよ?」
家畜の長を捕まえるのも難しだろうが、水中で生活する魚の主はもっと厳しい。
なぜなら私は泳げない。
「300Pを使うことになりますが、魚の原種にあたる卵があります」
差し出された袋はサンプルの袋とかなり違う。
ポケットに入るような大きさではなく、抱えるほどの大きさがあった。
「水中に袋ごと沈めていただくと、その水生環境に適した個体の魚が孵ります。豊かな水質ですと最高で20品種くらいになります。ただし、こちらはサンプルではないので、返却が無く、使用したポイントは戻りません」
ポイントが減っても取り戻せないのかと考えてしまう。
ちなみに家畜はポイントで手に入れることはできないという。
哺乳類は卵ではなく赤子だからだそうだ。
さて、どうしよう。
魚は欲しい。
干物とかおいしいし、ダシが取れれば味にバリエーションが増える。
また借りてるサンプルの袋に果物の種を混ぜて、栽培種類増やす気でいたから、このさい300Pは消えても惜しくないだろう。
「うん、魚育てるからそれも貰うわ」
全部で640Pの使用。
ここまでだろう。
「さて、こんなものかな。フィリップ、モウシは森のどの辺りにいるかわかる?」
闇雲に探すには広い森だ。
検討くらいは必要だろう。
それにモウシと契約するまでは好物とされているトウモロコシ、大豆、蕎麦は栽培できない。
サンプルのまま持ち歩かないといけないのだから。
早々に捕まえるしかない。
「湖を拠点としているので半径1キロくらいを探してみてください」
なるほど、農作業をしながら合間で探しに行けるのは助かる。
「ありがとう」
成果物のマニュアルと借りたサンプル、魚の卵をリュックに詰めた。
「健闘を祈ります」
頭を下げたフィリップに片手を上げて挨拶を交わすと、だんだん視界がぼやけてくる。
なかなか孤児院の子供達が出せない……




