第9話 はじめてのペット
孤児院に行くのは明日にして、今日は使用許可も出たことだしと拠点探し。
森に入り、20分ほど歩いただろうか。
遠くの方に、こちらを見ている生物がいる。
「ミリア、鳥がいる」
真っ白い羽根に覆われ、赤いトサカが見える。
ほぼニワトリだ。
「コッコッコッコ」
鳴き声真似して、手を差し伸べてみる。
馬など一部を除き、生き物は人に懐かないので、触れ合いと癒しが欲しかったのだ。
「ああ、コケコですね。警戒心が強くて、人に近づいたりはしないですよ」
ミリアが私の行動を笑う。
「あれが、コケコなんだ」
特別な日にだけ食卓に並ぶ肉料理しか見たことなかった。
味はそのまま鶏肉なので気に入っている。
しかし捕まえるのが難しいとかで、ほとんど市場に並ばないそうだ。
卵に至ってはさらに希少で高値になる。
人の目につくところでは絶対に生まないそうだ。
なので熟練の食材ハンターでも、めったに見つけられないという。
「この森にもいたんだね」
そんな貴重な生き物がいるとは思わなかった。
あれ?
「なんか、こっち来てない?」
さっきまで遠くでこちらを見ていたコケコ。
ものすごい速さで、向かってきている。
「お嬢様」
ミリアの慌てた声。
まさかコケコが人に突っ込んでくるとは思わなかったのだろう。
うん、私も予想できなかったよ。
近づいてくるコケコが大きい。
ニワトリくらいの大きさだと思ったら、なんと馬並み。
羽根広げて向かってくる様は、何とも迫力ある。
とっさにミリアが手を伸ばして、私をかばおうとしてくれた気がした。
しかし、私は悠長に硬直などしておらず、すでにコケコに背を向け猛ダッシュ。
視界の端に、空振りするミリアの手が見えたが……気にしている余裕もない。
「ミリア、ごめん」
とりあえず、謝るだけはしておく。
「お嬢さま、コケコの進行方向に逃げてはダメです」
必死過ぎるミリアの声。
そりゃそうだ。
気付きはしたが、体は急に止まれない。
「あぶない」
ミリアの叫び声と、私を覆うような黒い影の到来はほぼ同時。
終わった。
本気でそう思ったよ。
5歳児の体で、こんなスピード出ている巨体に突進されればひとたまりもないからね。
交通事故のようにコケコに跳ね飛ばされる自分をイメージしていたが……ちょっと違った。
「のぁぁ?」
変な悲鳴出た。
コケコが私の体を足で掴むと、羽根を羽ばたかせて空を飛ぶ。
びっくりだよ。
コケコ、飛べたんだ。
ニワトリが空を飛べないので、コケコも飛べないものだと思い込んでいた。
あれ?
木々の上まで飛び上がったから、空から森を見下ろすことができた。
ここから少し先、昔の調査書には無かったそれなりに大きな湖がある。
「コケコ、あっち行って」
その湖を指さし、コケコに指示を出してみる。
「コッ!」
まるで返事をするかのように鳴き、湖に向かって急降下。
「お嬢様」
その様子に悲鳴を上げるミリア。
「大丈夫。それよりミリア、向こうに湖があるの。先行ってるから来て」
湖に到着してみると、結構な広さと透明度だ。
「調査書に無かったから、わりと新しいのかもしれないな」
山と森に囲まれた場所。
豊富な地下水が湧水して、形成されたのかもしれない。
「コッコ」
私をここまで連れてきたコケコがしきりに私のポケットをくちばしでつついてくる。
「何か欲しいの?」
かといって、あげられるものなど持っていない。
そう思ってポケットに手を入れてみれば……図書館から借りた小麦のサンプルが入った袋があった。
「……これ、欲しいの?」
ニワトリって穀物好きだったかなと考えつつ、袋を開けてみる。
入っている量は一掴み。
そんなに多くは無いので、たくさんはあげられない。
「ひとつまみくらいならいいか」
貴重な種子ではあるが、ここまで連れてきてくれた功績を考慮することにした。
手の平にひとつまみ分の種子を置き、コケコの前に出す。
鋭いくちばしにつつかれ、血まみれ……も、一瞬想像したが、そんな参事にはならなかった。
そっと種子をすくうように、器用にくちばしを動かすコケコ。
「うう、愛着わいてくるな」
基本的に動物は好きだ。
懐かれれば可愛くて仕方ない。
「コケコ……コッコ……ココ!」
なんとなく名前を考えてしまった。
「お前、ココって名前どう?」
さりげなく聞いてみる。
「ココ」
コケコが鳴き声を変え、返事をする。
「そうか、気に入ったか。じゃ、ココ。よろしくね」
ご都合主義の解釈をして、この世界に来て、初めてのペットを手に入れました。
「お嬢様~」
遠くからミリアが呼ぶ声。
どうやら追いついてきたようだ。
「こっちだよ、ミリア」
その声に答えて、手を振ってみる。
それがミリアに見えたようで、ほっとしたような笑顔が浮かんだ。
結構、常識外れな展開だったからね。
かなり心配かけたようだ。
けど……
ココにあげた種子の残りが入った袋を見て苦笑する。
まだまだ、これからたくさん心配をかけるのだろうと。
久々の更新です。
文章、気を付けて書こうと、迷いながら書いているうちに、どう書いていいのかわからなくなってきました。
創作は難しいですね。




