表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第三章 小深山章次編
92/232

部室

 逢野姉に礼を言って電話を切ると、遠田が口を開く。


「その様子だと、何か重要な事が分かったんだな?」

「ああ。ようやく、話が繋がってきたって感じだよ。遠田、ありがとう――じゃあ、俺は部室に行くよ」


 そして遠田と別れた俺は、今後どう行動するかの考えをまとめながら、部室に向かった。


 いやおうでも緊張感が高まっていく……。


 それは単に『排除』の時が近付いてるからだけではない。

 洗脳された七原と話さないといけないからである。

 七原は繊細だから、『能力の所為だから仕方ない』と言っても、自責の念にられてしまうだろう。


 七原が傷つかないように、責めていると取られるような事は言わないようにしよう。

 そんな事を思いながら、部室の扉を開けた。


 七原と小深山がこちらを振り向く。

 小深山が俺の席に移動し、二人で喋っていたようだ。


「戸山君、おかえり」


 七原が言う。

 普通に反応したって事は、俺が真相に気付いているという事は知らないのだろう。


 俺は七原の前へと歩いて行った。


「七原、ちょっと携帯を貸してくれないか?」

「え? 何で? ちょっと……でも……」

「頼むよ」


 俺がそう言うと、七原はおずおずと携帯を取り出す。


「認証を解除してくれ」

「……うん」


 俺は七原の携帯を受け取り、タスクリストを表示する――そこには通話アプリが起動していた。


 通話相手は『父』と表示されている。


 ……やっぱりそうか。


 もちろん、通話相手は七原の父親ではなく、小深山兄だろう。

 小深山兄は卒業生で、学校に来る訳にはいかない。状況を把握するには、こういう手段をとるしかない。

 小深山兄が、今まで俺達の行動に素早く対処できていたのも、リアルタイムで俺達の会話を聞いていたからなのだ。


 七原の携帯を操作し、通話アプリを切る。


 小深山兄は慎重派だ。

 他にも何か仕掛けてるかもしれない。

 

 小深山の携帯は、話の流れ次第で使うかもしれないから、通話アプリを起動させるような事はしていないだろう……。

 そこで、はたと部室のすみにあるロッカーに目がいく。


 まあ、何かを隠すと言ったら、あれしかないよな。


 そしてロッカーに近付き、扉を開いた。

 そこには――


「うわっ! 何で、こんな所に、お前がいるんだよ! 人がいる必要はないだろ。携帯だけ置いておけよ!」

「そうだよね」


 ロッカーには委員長が入っていた。

 心臓が飛び出るほど驚いた。


「こっちにも事情があってさ……戸山君が一人で行動を始めたから、『尾行しろ』って命令が来たんだけど、戸山君の警戒感が強くて近づけなかったのよ」

「だからといって、ロッカーに入ってないといけない理由は無いだろ」

「……だよね」


 委員長は、自分の携帯のマイク部分に口を近づけると、「ということで、バレました」と言って、携帯の画面にタッチする。

 通話アプリを切ったのだろう。

 おそらくは洗脳が解けたという事だ。


 記憶が消せないのと同じで、意思もそう簡単に掌握しょうあくする事は出来ない。たとえ出来たとしても、ちょっとした事で我に返るのだ。


「それで、戸山君はどうしたい? 叩く?」


 委員長が後ろを向く。


「だから、お前は俺を何だと思ってんだよ」

「戸山君は、いつだってそうやって物事を解決してきたじゃん」

「違えから!」

「じゃあ、私はどうすればいいの?」

「……いや、べつにどうって事もない。帰っていいよ」

「え?」

「文化祭も近いから、生徒会を手伝うんだろ? それがないなら、守川を構ってやれ」

「……そうだね。戸山君のお陰で今の私は充実してるの。ロッカーに入ってる場合なんかじゃなかったよ」

「ロッカーに入ってる場合の時は、ずっと来ねえよ」

「戸山君――」


 ふっと、委員長が真面目な顔になった。


「――ごめん。本当にごめんね。別にだますつもりは無かったんだけど」

「分かってるよ。能力にあらがうなんて無理な話だ。気にする方が間違ってる」

「……ありがとう」


 そして委員長を部室から送り出した。


 後に残ったのは、何が起こっているか理解できてない小深山と、唇をみしめる七原である。


「七原も気にするな。そういうもんだ」

「でも、やっぱり私は……」

「いいんだよ。洗脳が解けなかったんだ。仕方ない。本来なら俺が青星さんに洗脳能力がある事を指摘した時に、七原の洗脳が解けてもおかしくなかったが……そうならなかったのは、覆面や司崎達への強い恐怖が植え付けられていたからだと思う」


 昨夜、七原は最初の覆面と司崎が会話していた時点で俺の手を握った――そして、その手は震えていた。

 あの場面は確かに不穏な空気が流れていたが、距離も遠かったし、何を話しているかも分からなかった。あの状況では、恐怖を実感するまで、もう少し時間が掛かるものだと思う。

 七原の反応は早すぎたのだ。


「その強い恐怖感から、七原は俺が真相に近付かないように騙し続けた。七原と青星さんの利害は一致していた。そうなれば、七原の洗脳が中々解けなかったのも十分納得できる話だよ。だから気にするな……」


 そんな事を話してると、


「戸山、何がどうなってるんだよ? 話が全然見えてこないんだけど」


 と小深山が声を上げる。


「そうか? 小深山も実は色々と知ってるんじゃないか?」

「知らねえよ。俺が何を知ってるって言うんだよ?」


 ――いや、小深山は色々な事を見聞きしてきたはずだ。


 青星さんが七原と連絡を取ったのは、俺が排除能力者だと知っていたからだと思う。


 だとすれば、どうやってそれを知ったか?


 それを考えて思い当たるのは、先週に教室で色々な事があって、その全ての渦中かちゅうに俺がいたという事である。

 普段から小深山の周囲の状況に気を配っていた小深山兄は、そこで俺に注意を向けたはずだ。


「これは俺の推測なんだけどな――」


 そう前置きして、俺の説を語り始める。


「金曜は雨だった。だからサッカー部は室内練習をしていたはずだ。そして部活が終わって帰ろうとした小深山は、下駄箱に靴が残っていることに気が付いた。青星さんに『戸山に注意しろ』と言われていた小深山は、それが俺の靴かもしれないと思い、俺を探し始めた。そして、俺が早瀬と指導室で話をしているのを突き止め、ドアに耳を押し当てて、中の会話を聞いた。そういう事なんじゃないか?」


 委員長のように……いや、正しくは、委員長が小深山のように盗み聞きをしたという事なのだろう。


「……あ」


 小深山が目を見開く。


「そうだよ……そうだった。俺はあの雨の日に、指導室の会話を聞いたんだ――その時、兄貴とも話をしていた……能力……能力って何だ?」

「俺達の話に出てた通りだよ。そういうものがあるんだ。俺はそれを排除する為に動いてる」

「……そうなのか」

「ということで、俺は青星さんの居場所を探さないといけない」

「兄貴の居場所? それは東京の……」

「いや、多分、青星さんは家にいるよ。小深山の家だ」

「はあ? それはねえよ」

「いや、いるはずだ」

「だって兄貴は大学に合格して……」

「それは恐らく洗脳だ。青星さんはきっとまだ浪人中だよ」

「なんだよ、それ」

「こうあって欲しいという想像が、実際の記憶とり替えられているんだ。この場合、小深山が青星さんの合格を願っていた。だから、そう信じ込んでしまった」

「そうなのか……でも、そんな事……」

「とにかく、家に行けば全てが分かる――だから行こう」


 そして、俺達は徒歩五分の小深山の家へと向かったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ