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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第三章 小深山章次編
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藤堂紗耶


 呼び付けるような事になってしまったので、せめて校門くらいまでは迎えに行こう。

 そう思い、俺は再び昇降口へと向かった。


 昇降口に到着すると、さっきまでちらほらいた生徒達も帰ったようで、静寂が訪れていた。

 俺は自分のクラスの下駄箱へと向かう。

 しーんとした中で、自分の上履きの足音だけが響いていた。


 ――そんな時、唐突に下駄箱の向こう側から人影が現れ、俺の前に立ち塞がる。


 藤堂紗耶だ。


「やあ、これはこれは戸山じゃないか。君を待ってたよ」


 派手派手しい美人顔が、ふざけた口調でそんな事を言った。


「何だよ? 『待ってた』って」

「靴があったから、まだ校舎内にいると思って」


 気持ち悪いことしてんじゃねえよ。ストーカーかよ。


「こんなにすぐ見つかるとは思わなかったけどね。瑠華と麻衣に探しに行ってもらってるんだけど、それが無駄になったから、あとで謝っといてね」


 俺はそれを無視して、「で、用件は何だ?」と言う。


「面白い情報を仕入れたから、これは教えてあげないと、と思って」

「どんな情報だよ?」


 どうせ、ろくな話じゃないだろう。

 だが、どんな話だろうと、聞くしかないのである。

 聞かないと終わらないから。


「小深山が、手が早い奴だって事は知っての通りだよね」

「ああ、そうだな」


 そういう面では、七原を部室に残してきたのは、まずかったかなと思う……まあ、仮に小深山が七原に言い寄っていたとしても、それは自由だし、七原が小深山を選んでも、俺が言えるのは『乗り換えるの、早くね?』くらいのものである。


「じゃあ、小深山がもう既に、七原さんにちょっかいをかけてるって話は知ってる?」

「――は?」

「知らないみたいだね……ある信頼できる筋から得た情報なんだけどさ。一昨日の昼頃、あたし達のクラスのある女子生徒に、SNSで小深山からメッセージが来たらしいの」

「どんなメッセージだ?」

「七原実桜の連絡先を教えて欲しいってものだよ。その女子生徒は『明日、学校で聞けば?』と返信したんだけど、今度は『今、七原と話さないといけない事があるんだ』というメッセージが来た。だから、その女子生徒は仕方なく、七原さんの連絡先を教えたらしいよ」


 ――どういうことだろう。

 小深山がそんな事をしたというなら、七原に連絡が来ているはずだ。

 しかし俺はそんな話を聞いていない。

 七原が、こんなに重要な話を言わないとは思えない……。


 藤堂が俺を指差して、クスクスと笑う。


「驚きすぎて、顔から血の気が引いてるよ。ショック? ショックだよね? あはは……まあ、仕方ないよね。七原さんに、優しくされて舞い上がってたんだよね。愚かな自分を悔いたらいい」


 藤堂は声のトーンを上げながら喋り続ける。


「小深山って手が早いから、気をつけた方がいいって言ったのは昨日だけど、まさか、その時点で手遅れだったってオチだとは思わなかった。まさか、裏で繋がってるなんて思いもしなかったよね――ところで、戸山。今日は小深山は部活休みらしいよ。あの二人は今、どこでどうしてるんだろうね?」


 藤堂は嬉々とした顔で俺に訊ねてきた。

 俺はそんなあおりに気を留めず、自分の考えに没頭する。


 ――裏で繋がっていた。

 なるほど。そういう事か。


 ようやく理解できた――洗脳されていたのは、逢野や委員長だけではない。

 七原もその一人だったのである。


 言われてみれば心当たりは山ほどある。


 例えば昨日、小深山に詳しい奴を探している時、委員長を推薦したのは七原だった。

 今朝の指導室の件だって、俺が職員室に行くと知っていたのは七原だけである。そんなに都合良く委員長が現れるはずもない。

 それに、今考えると、七原は最初から小深山を疑う事に消極的で、随所で諦めるように話を持っていこうとしていたように思える。


 そして、それより何より、俺の出方を全て知っているのは七原だ――俺が小深山兄だとしても、委員長ではなく、七原を洗脳しようとするはずだ。


「……その情報を聞いた信頼できる筋って、もしかして逢野のことか?」

「よく分かったね。そうだよ。亞梨沙だよ。最初は小深山と実桜の繋がりなんて心当たりがないって言って、しらばっくれてたんだけど、途中から急に思い出したとか言い出して、あっさりと白状した――言っておくけど、これは確かな情報だからね。ちゃんと亞梨沙と小深山のSNSのやりとりも見せてもらったから」


 驚くべき事に、藤堂は洗脳されている人物の記憶を元に戻したようだ。

 小深山の洗脳に気付いてた俺が出来なかった事を、洗脳なんて知らない藤堂がやってのけたのである。

 しかも、俺へ嫌がらせをしたいというだけの為に。

 そのパワーたるや、ただただ感心してしまう。

 ここは素直に藤堂強ええと思うしかない。


「七原さんも軽いよね。一週間も経たない内に小深山に乗り換えるなんて――まあでも、仕方ないか。だって、小深山と戸山じゃ、格が違いすぎるから。これから一年、あの二人と同じクラスなんて惨めすぎると思うけど、精々頑張って」

「だから、何度も言うように、俺と七原はそういう関係じゃないから」


 藤堂は俺のその負け惜しみを聞いて――正確には負け惜しみではないのだが――満足したのか、高笑いをしながら帰って行った。

 校舎内で俺を探している子分を放って帰るのかよと思ったが、まあ、俺には関係のない話だ。


 その背中を見送りながら、思う事は一つである。


 藤堂、お前どれだけ暇人なんだよ。


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