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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第三章 小深山章次編
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能力者と能力者


「言われてみれば、そうだよね。能力者と渡り合えるなんて、絶対おかしい」


 七原が言うと、遠田も頷く。


「そうだな。司崎は確かに異常だ。こんなに圧倒的な力の差があるにも関わらず、食らいついていき、何度でも立ち上がっている。これは能力者だからとしか思えない。そういう事だよな? 戸山」

「ああ。その胆力たんりょくこそが、司崎の能力を形作っているんだろう……だけど、司崎の能力は多分それじゃない」

「じゃあ、どんな能力なんだ?」

「司崎が覆面のスピードに対応し始めた事から考えると、司崎の能力は筋組織の強化と再構築だと思う」

「再構築?」

「ああ。単純に、筋力が上がってるだけじゃなく、パワー重視型からスピード重視型に変化しているだろ? だから、そういう事だよ」

「なるほどな。そういう事か」

「司崎の場合、強敵が現れた時の危機意識や反骨心が能力を発動させるんだろう。今までも司崎は、そうやって強くなってきたはずだ。そして、司崎にはまだまだ強くなるだけのポテンシャルがあった……」

「だが、周囲に強敵がいなくなり、危機意識を抱くことがなくなって、頭打ちとなっていた……そういう事か?」

「そうだよ。そこに覆面が現れた事で、司崎は爆発的に能力を深化させた」


 化け物が化け物を生んだのである。


「だからこそ司崎は、覆面の襲撃に甘んじてたんだ。司崎は単なる被害者じゃない……待ち望んでいたんだよ、自分を打ち負かす相手が現れるのを」

「じゃあ、今回司崎が人手を増やしたのは何故なんだ?」

「単なる時間稼ぎだよ。実際、それが役に立っているだろ? 小競り合いが始まる前と今では、司崎は別人のように強くなっている」

「情報提供者が司崎を知性派だと言っていたのも頷けるな。司崎の計算違いがあったとすれば、連れてきた連中に思ったよりも骨が無かったということだろうな。もっと時間が稼げれば、司崎はもっと戦況を有利に進められたかもしれない」

「だな」


 グラウンドを注視すると、司崎の仲間は能力者同士の戦いを唖然として見つめていた。


 その真ん中で、覆面は先刻よりも司崎と距離を取っている。

 形勢が逆転とまでは言わないが、覆面が苦戦している事は伝わってきた。

 覆面が戸惑うのも当然である。

 自分の速さに対応できる人間に初めて出会ったのだ。

 頭脳による速さと筋力による速さ、どちらが勝つかは未知数だ。

 覆面は組み技を恐れているだろう。

 組み付かれてしまえば、一気に戦術の幅がせばまってしまう。

 司崎のスピードなら、それが出来てしまうのだ。

 司崎が仕掛けるのは組み技か、それと見せかけて、打撃か。

 覆面は司崎の速さに対応できるのだろうか。


 一方、司崎は覆面ににじり寄っていた。

 司崎は確かに消耗しているが、同時に余裕も感じ取れた。

 覆面の目的が人探しのみで、司崎をどうこうする気が無い事が分かっているからだろう。おそらく、司崎は覆面を甘っちょろい奴だと見下しているのだと思う。

 覆面と違い、司崎は手段を選ばない。

 覆面がどうなっても構わない。どういう結末を迎えるかなんて考えてない。

 実際、こんな誰もいない場所で、たった一人を集団で襲っていることから考えてもそうだ。


 しばらく、二人の睨み合いが続く。


 そしてその後、司崎は自分のスピードに任せ、一気に間合いを詰めた。

 そして、長いリーチから鋭く拳を突き出す。

 司崎の拳が覆面の頬をかすめた。

 そして司崎は、その速さと体幹の強さで、瞬時に二撃目に転じる――今度は覆面に組み付こうと掴み掛かった。

 ――そこで、司崎の大腿部へと鋭い蹴りが入る――覆面の反撃だった。

 それは覆面の今までの打撃とは違っていた。

 司崎ほどとは言わないが、覆面の足技は速い。

 思考の速さに加え、鋭い蹴り、その合算で僅かに覆面の方が速いのである。

 更に、左右均等に重心を置き、左右どちらからでも蹴りを出せた事が有利に働いた。

 覆面は立て続けに、司崎にローキックを決めていく。


 司崎は足から崩れて後ろに倒れたのは、それから間もなくのことだった。


 どうやら勝負が決したようだ。


 そこで周囲の視線が覆面に集まった――その赤黒い手に。


 司崎が掴み掛かった時に、手袋を握っていたようだ。

 覆面の手は血に塗れているのでは無いかと思うほどの赤だった。

 覆面は司崎の掴んだ手袋を奪い返して、再び手にめる。


 そして、覆面は様子を窺いながら、司崎のズボンのポケットから携帯を取り出した。

 司崎の不意の攻撃に備えながら、右腕を掴み、携帯に触れさせる。

 指紋認証でロック解除をしているのだろう。


 それが終わると、覆面は司崎と距離を取り、司崎の携帯を操作し始める。


「戸山、あれは何をしてるんだ?」

「おそらく覆面が探している人物の連絡先を見つけ出そうとしているんだよ」


 司崎に仲介させるのは諦めて、その人物と直接連絡を取ろうということなのだろう。


 やがて目的を果たしたのか、覆面は地面に携帯を置き、その場を後にした。

 相当に消耗したのだろう……覆面の足取りは重い。

 だが、その後を追おうとする者は一人もいなかった。


「終わりみたいだな」

「そうだな……これからどうする?」

「あれだけ派手に立ち回ったんだ。今夜は覆面も司崎も、動かないだろう。特に司崎の方は」

「大丈夫かな? このままにしておいて」

「仲間が病院に運ぶだろう。戦意を失って、ろくにやられても無いのに、寝転んでいる奴もいるからな」

「覆面が強すぎたからだよ」

「でも次回があれば、司崎が勝つだろうな。司崎は次にはもっと能力を深化させているはずだから」

「戸山。もしかして、司崎も排除するつもりなのか? やめておけ。私達には危険すぎるだろ」

「……そうだな。でも、能力者である以上、どうにかしないといけないんだ。策を練るよ……まあ、とにかく今は、この場を離れよう。司崎の仲間に見つかったら大変だ」


 そして俺達は元の道を帰り始めたのだった。


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