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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第三章 小深山章次編
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月曜の朝

 月曜の朝。

 重たい体を引きずりながら登校する。

 昨日は優奈達が言った事をあれこれ考えていた為、折角の休みだったにも関わらず、全然疲れが取れていないのである。


 靴を履き替え、教室に向かい歩き始める。

 すると、廊下の先に、藤堂か腕を組んで壁に寄り掛かっているが見えた。


 誰かを待っているようだ。


 嫌な予感しかしない。


 俺は、さらりと通り過ぎようと歩くスピードを上げた。

 しかし、藤堂は俺を睨み付けながら、俺の行く手に立ち塞がった。


「話があるんだけど」


 ちょっと忘れ物という感じでUターンを決め込もうと振り返ると、そこには笹井と柿本がいた。


 挟み撃ちだ。

 俺は迷わず、左後ろ方向に進む。

 そこが柿本の持ち場だったからである。

 相手として、こいつが一番与くみし易い。

 弱点を狙うのが俺の流儀だ


「逃げてんじゃないわよ」


 俺は後ろにいた藤堂に襟首えりくびを掴まれた。

 そこまでするか。

 それなら俺だってと、藤堂を引きずりながら無理に前進する。


「ちょっと! 話があるだけだから」

ろくな話じゃ無いだろ」

「そんな事言っていいの? 聞いとかないと後悔する話かもしれないけど」


 藤堂が含み笑いを浮かべてるのが目に見えるようだ。


「別にいいよ。後悔するから」

「そんなこと言っていいの? 七原さんが関係する話なんだけど」


 ……そう来たか。

 俺だけなら後悔すればいい話だ。

 だが、七原が関わってるとなると、話は変わる。

 俺は仕方なく藤堂の方へ体を向けた。


「どういう話だよ?」


 すると、藤堂達はクスクスと笑い出した。


「七原さんの事は聞くしかないよね、戸山は」

「早く言ってくれ。俺だって暇じゃないんだよ」

「早く教室に行っても、ホームルームまで黙って座ってるだけだと思うんだけど」


 と藤堂が言う。


「暇じゃないって何? 笑っちゃうんだけど」


 と笹井。


 俺としては、早く教室に行って、能力者探しでもしようと思っていたのだが、今日は諦めるしかないだろう。

 別に無理して進める必要はない。

 藤堂の話を聞かない事で、面倒な事になる方が問題だ。

 とりあえず話だけ聞いておけばいいのだ。


「わかった。大人しく聞くよ」


 俺がそう言うと。


「それが人に物を聞く態度?」

「何様なの?」

「重要な話なのにね」


 口々に文句を言った。

 仕方ない……ここは下手に出よう。


「どうか、お聞かせ願えないでしょうか」

「必死すぎ」

「プライドないの?」

「情けない」

「……いや、言う気がないなら、いいんだ」


 俺が立ち去ろうとすると、今度は藤堂に腕を掴まれた。


「わかった。もう勿体ぶらずに話すから」


 藤堂としても喋りたくて仕方がない話のようだ。


「まあ……でも、ただ話すのも面白くないから、クイズにするけど」


 じりじりと怒りが抑えられなくなってくるが、一々文句を言ってたら話が長くなるだけだ。

 俺は無表情で頷いた。


「じゃあ、第一問。今、うちのクラスに七原さんに言い寄ろうとしてる人がいます。それは誰でしょう?」


 藤堂は嬉々として俺に問い掛けた。


「うわ、戸山、目の色が変わってるよ」

「まあ、分からないでもないけどさ」


 藤堂達は嘲り笑いが止まらないようだ。


 なるほど……これは確かに藤堂が喜びそうな展開だ。

 何で今のタイミングで七原に言い寄るのかと一瞬思うが、それも分からないでもない。

 七原は今まで男に興味がないと思われていた。周囲の男子生徒も割と繊細で、高嶺の花である七原に手を出そうとも思わなかった。もちろん、七原が人の心の声を聞く能力で、上手くかわしていたのもある。

 七原は難攻不落で、誰も手を出す事が出来ない存在だった。

 だが、優奈が言ってたように、七原は先週から四六時中、俺にまとわわり付いきている。その所為で、俺と七原が付き合い出したという噂まで流れている。

 その事で、七原は『落ちる』女と認識されたのだ。

 しかも、俺みたいな嫌われ者が落としたのである。

 七原に言い寄ろうとしているそいつは、戸山に落とせるのなら、俺達にだって落とせるだろうと、その気になったのだろう。

 しかも、そいつにとって都合が良い事に、恋敵は嫌われ者の戸山望である。

 戸山には筋を通す必要はない。戸山を怒らせてもまったく恐くない。

 そいつは思ってるだろう。むしろ、俺の方が戸山より七原実桜に相応しいはずだ。今、七原は戸山に騙されている。七原が可哀想だ、と。


「そいつは誰だよ?」


 そいつが気にならないこともない……というか、気になるのだ。

 ただ、それは藤堂が思ってるような理由では無い。

 優奈が言った『能力者が能力者に惹かれる』という話が脳裏をかすめた所為である。

 七原に誰が近付こうが、俺にそれを制止する権利は無いし、そのつもりもない。

 だが、そいつが能力者だとするなら、まずその能力を排除しないといけないのである。


 藤堂はクスクス笑いながら口を開いた。


「いや、クイズだから。『誰だと思う?』って戸山に聞いてんのよ」

「高梨、塚元、小深山、山内、篠原……」

「クラスの男を全員言うつもり?」

「佐藤、逢野」

「女の子の名前を言ってどうすんの?」

「山田、田中」

「ウチのクラスには、そんな人いないから」

「下らない事を言ってないで本気で考えたら?」


 誰だろう。

 ほとんどのクラスメートに可能性がある。

 唯一確信があるのは守川が違うことだけだ。

 それは、今更どの面下げて守川の名前を出すのかっていう話だからである。


「じゃあヒントね。もう既に名前は出てる」

「山田か」

「だから、クラスにいないから、本当に下らない事ばっかり言わないで、テンション下がるから」


 それが目的なんだよ……そんな事を思いながら、実際に考えてみる。


「高梨、塚元、小深山、山内、篠原……」


 本当に全員可能性がある。

 全員でも不思議は無い。


「じゃあヒント……その中で誰が一番嫌?」

「別に誰だったら嫌とかないから……」

「嘘ね。今、頭に名前が思い浮かんだはず」

「戸山が……いや、クラス中の男が束になっても絶対に勝てない相手がいるでしょ?」

「さあ、誰でしょう? 言ってみて」


 藤堂はその名前を言わせたいのだろう。

 俺に敗北を意識させるために。

 となると、あいつしかいないのである。


「小深山だな」


 小深山こみやま章次あきつぐ

 サッカー部で、絵に描いたようにモテる男である。

 彼の一挙手一投足に女子生徒達の熱い視線が注がれ、黄色い歓声が上がる。


「顔が良いし。頭も良い。運動能力も高いし。コミュ力も高い。あんなに完璧なのに鼻に掛けない性格の良さだと思う。戸山は何一つ、彼には勝てない」


 と柿本が熱っぽく語った。


「そうだな。確かに完璧だ。清々しいほどに」


 俺がそう言うと、藤堂は眉をひそめて見せた。


「でも、一つだけ問題があるのなら、手が早いって事かな。今も彼女がいるのに、七原さんに興味を持ってるって事は、乗り換える気満々って事ね」

「戸山、折角彼女が出来たのに、可哀想だけど負けが確定ね。戸山と小深山だったら、絶対戸山は敵わないから」

「同じ『山』がついてるのに、戸山弱すぎ」

「どこか影がある小深山君。影でしかない戸山」


 藤堂達はゲラゲラと笑う。

 名前を絡めて馬鹿にされるのは、いつもより腹が立った。


「でも、どこでそんな情報を手に入れたんだ? 確証はあるのか?」


 すると、藤堂は不思議そうな顔で言う。


「こういうのに提示できるような証拠があると思ってんの?」

「じゃあ、本人に聞いたとか、そういうのは無いのか?」

「聞いたけど、うんとは言わなかった。でも絶対に確実だから。麻衣はちゃんと見てたよね?」


 藤堂が柿本に問い掛ける。


「うん。間違いない。小深山君が戸山と七原さんを見てたから」

「それは不確実な情報って言うんだよ。時間の無駄だったな、ここまで引っ張っておいて」

「あたしが間違いないって言ったら、間違いないから。あたしの勘は当たるのよ!」


 出たよ――『女の勘』幻想。

 こんな事を言う奴は、往々にして推察と願望を取り違えるのである。


 そんな風に考えていると、不意に柿本が俺の目を真っ直ぐ見つめた。


「小深山君が七原さんに興味を持ってるのは間違いないよ。だって土曜日なんか、一日中ずっと戸山と七原さんの方を見てたから」


 柿本は、その小深山をずっと見ていたと言う事だ。

 ……そういう事か。

 柿本だけは『小深山が七原に好意を持っていたら面白い』という願望で語ってはいない。

 それなら、柿本の言う事だけは、ある程度信用してもいいのかもしれない。


「……わかった。そうかもしれないな」


 俺を一通り馬鹿にして気が済んだのか、藤堂と笹井は晴れ晴れとした顔をしている。

 柿本だけは、さっきの発言の余韻が残ってるのか浮かない顔だ。そういう立場なのに、こんな事に駆り出されるなんて大変だったな、と柿本に少し同情もするのだった。


 「じゃあ、これで話は終わりだから。精々七原さんに見限られないように努力すれば? 意味はないと思うけど」


 そう言って藤堂達は去って行く。


 その後ろ姿を見ながら俺は思う。

 第一問とか言っておいて二問目は無いのかよ、と。


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