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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第二章 寺内奏子編
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委員長の力

「呪いって何ですか?」


 優奈が冷静な声で問いかけた。


「能力者の持つ能力の事だよ。わたしの力は『能力』とか『魔法』というよりも、『呪い』に近いんじゃないかって思うの。何故かって? それはね。私の力が嫌いになった人に対して、自分の意思とは関係なく自動的に発動してしまうものだからなの。だから、わたしは嫌いになりそうな人に関わらない事にしてる。さっきの話に戻るけど、戸山君と距離を置こうと思ったのも、そういう事なの。好きという感情は、一歩間違えると大嫌いに変わってしまう可能性があるって事に気付いたから。でも、二年生では、戸山君と同じクラスになってしまった。その所為で、会わないって訳にもいかなくなったの。同じ教室にいたら目で追ってしまう。戸山君は常に人と違う行動をしてて興味が湧いてしまう。だから、わたしは戸山君へ感情を一切持たないように心がけた。興味が無いと自分に言い聞かせた。この一ヶ月、それは上手くいっていた。何の問題も無いはずだった。だけど今朝、ある事件が起きてしまった」

「七原さんの件ですね」

「そう。優奈ちゃんはそんな事まで知ってるんだね」

「ええ、まあ」

「七原さんはどう見ても戸山君に頼り切ってる様子だったのに、戸山君は七原さんを『嫌いだ』と言い捨てた。その時、わたしの中に様々な感情が湧き上がったの。許せないという感情が噴き出しそうになる一方で、少し安心したって気持ちもあった。もう本当に何が何だか分からなくなっていた。わたしは必死に、それらの感情を抑えた――そんな葛藤が心の中で繰り返し、最後には処理できなくなったの。ある瞬間、わたしは本気で戸山君の事を嫌いだと思ってしまった。だから、あんな騒ぎが起きたの。わたしとしては能力を使う気なんてなかった。戸山君にも謝りたい。優奈さんにも何か迷惑が掛かったというのなら謝りたい。先生にもね。でも、この力のことを他人に話して良いのか分からないし、だから優奈さんには助言をして欲しくて――」

「麻里奈、ここら辺りで、もう止めていいよ。これで十分だから」


 優奈がそう言った。

 もちろんテレパシーでの発言だろう。


「こういう事みたいね。反省しなさい。あんたの行動が、こんな事を引き起こしたんだから」

「別に俺に非は無いだろ。俺には俺の事情があって行動してただけだ」

「そうだけど」

「まあ、委員長の心情に気付かなかった事には反省すべきかなと思う……でも良かったよ。能力発動のハードルは思ったよりも高そうだ。無差別に能力を使う、みたいなことは無いだろう。しかも、能力に依存している風でもない。説得次第で、委員長を説得するのは可能だな」

「そうね」

「じゃあ、優奈。ここからは委員長が能力者になった経緯を聞き出してくれ。さっき話してた母親のしつけが多分鍵となるんじゃないかな」

「わかってる。わたしに指図しないで」

「ああ、わかったよ」

「じゃあ、とりあえず電話切るから。あんたの声を聞いてたら、会話に集中できない」

「あ、優奈。ちょっと待ってくれ。一つだけ言いたいことがある。こっちでも委員長のことを調べてもいいか? 委員長の友人知人に聞き込みをしようと思ってるんだけど」

「そうね。わたし達に迷惑は掛かからないようにするのなら、勝手にすれば」


 優奈は少し投げやりに、そう言った。 

 『今回は、わたしが仕切ってるから、勝手なことをするな』とか言い出さないあたり、優奈も自分が一杯一杯なことに気がついているのだろう。

 そこは少し安心だ。


「ああ。わかった。注意する。じゃあ、また核心に迫る話題になったら電話してくれ」

「だから指図しないでって言ってるでしょ!」

「わかってるよ。だけど、もう一つ。深追いしすぎるのもダメだからな」

「だから――」


 そこで電話を切った。

 帰ってきたら、こっぴどくやられるのも覚悟しておこう。


「じゃあ、こっちも始めるか」


 俺は遠田と七原に向かって言った。


「寺内さんの父親か……」


 遠田が呟く。

 よく見れば、遠田は怪訝な顔をしている。


「どうかしたのか?」

「わたしは、寺内さんのお父さんが海外赴任しているって聞いているんだけど」

「はあ? 本当か?」


 七原の方に視線を向けると、七原は「私は、委員長の両親が離婚してるって聞いたよ」と言った。


「情報がバラバラだな。でも委員長は、『空虚』とか『もう会えない』とか、そういう言葉を使ったんだぞ。亡くなってるって感じだと思ってたけどな」

「でも、確かな事は言ってないよね。嘘ではないけど、ミスリードをしたって感じなのかもしれない」

「同情が欲しかったとか、そういう事か?」

「どうかな。どれが本当の話か分からない時点では何とも言えない」

「じゃあ、委員長の父親のことも確かめないといけないな。生きてるなら、話を聞けば参考になるだろうし」

「でも、どうやって探すの?」

「それもやっぱり聞き込みしかないな。優奈に言って委員長に直接聞くのはやめておいた方がいいと思う。『呪い』は委員長の意思に関係なく、嫌悪感と共に発動するっていうんだから、父親の事を聞くのは危ない橋だ。優奈は委員長の父親が亡くなっているという話を信じたままにしておこう」

「そうだね。じゃあ早く聞き込みに行かないとね」

「ああ。遠田と七原はリスト作りを続けてくれ」

「戸山君は?」

「俺は少し考え事をしたいんだよ。委員長と会った時、父親の事とか何か言ってなかったかなと思ってさ」


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