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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第二章 寺内奏子編
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遠田への説明

 俺は黙って話を聞いていた遠田に向き直り、口を開いた。


「遠田。つまり俺達は今こういう状況に立たされているんだよ」

「いや、ちゃんと最初から説明して欲しい。今の会話で全てを察しろとか無しだから」


 話の勢いで、これまでの経緯の説明を省くのは無理だったようである。


「じゃあ、どこから話せばいいかな。そもそも俺の鞄に火がつけられた件を知ってるか?」


 俺は自分の席に戻りながら、そう言った。

 遠田は七原の隣に座る。俺の真正面の席だ。

 背筋をピンと伸ばしている所為なのだろう、イスに座っても遠田の美しさは際立っている。

 一年の頃も、こうやって近寄りがたいオーラを放っていたなと思い出す。


「その話は勿論知ってるよ」


 まあ、これだけ騒ぎになれば、遠田が知らないはずは無いだろう。


「端的に言うと、あの件の犯人を捜しているんだ」

「やっぱり、そういう話だったんだな」

「そうだよ。能力者の話だ」

「それなら、すぐに呼んでくれればいいのに」

「いや、あんまり遠田に迷惑を掛けるのもな……」


 俺は『遠慮がちに』といった表情を作りながら、そう言った。

 委員長が確定するまで、遠田も容疑者の一人と言ってた事は伝えない方向なのである。

 七原が『これはひどい』といったような顔で見ているが、遠田は真横にいるので気がつかない。

 遠田は俺を真っ直ぐに見て口を開く。


「わたしの事は気にしなくていい。そんなの戸山らしくない。逆に、わたしは戸山から呼び出しが掛かるのを待っていたくらいだからな」


 なるほど。

 それで一秒の間もなく電話に出たという事か。

 不機嫌に聞こえたのも待っていたからという事のようだ。


「悪いな。今朝まで面倒を掛けてたのに、また面倒を掛けてしまうけど」

「戸山が悪いんじゃないだろ」


 そこで、黙って話を聞いていた七原が口を開いた。


「……遠田さん」


 七原は少し緊張した様子だ。


 遠田は七原の方を向きながら、少し慌てた様子で「いや、今のは七原さんを非難した訳じゃなくて……」と言う。


 すると、七原は首を横に振った。


「違うの。そうじゃなくて……遠田さんには、ちゃんと謝っておきたかったの。私の所為で色々面倒をかけたみたいで、ごめんなさい。それから、ありがとう」

「うん。別にいいよ……っていうか、わたしの方も謝った方がいいね、ごめん」

「え? 何で遠田さんが私に謝るの?」

「いや、戸山の口車に乗せられて、あんな事をしてしまったから。他にもっと良い方法があったかもしれない」

「そんなことないよ。色々あったけど、あれがベストだったと思う」


 七原は『ベスト』の所を強調して言った。


「……そうなんだ」


 遠田は少し戸惑った顔で言った。

 きっと俺も、そんな顔になっているだろう。

 あんな事をされておきながら、本人が満足しているというのなら何も言えないのである。


「ああ、それから言うの忘れてたけど、七原さんの写真は消しておいたから、もう安心して」

「そうなんだ……ありがとう。でも、それは無理して消さなくても良かったというか……」


 七原が、また説明の長くなりそうなことを言い出しそうになっているので、「遠田、ありがとう」と言って七原の話を遮った。


 そして経緯の説明を再開する。


「で、説明の途中だったよな――俺達は、朝の件から、すぐに委員長に疑いを持ったんだ」

「委員長って……たしかC組の委員長は寺内奏子さんだっけ?」

「そうだよ」

「寺内さんに疑いを持った理由は?」

「単純に事件の後、委員長の様子がおかしかったからだよ」

「どういう感じだ?」

「顔が強張ってたし、動きがギクシャクしていた。まあ、注目していないと分からない程度だったけどな」

「それと、戸山君が早瀬先生から委員長が一週間ほど家出しているらしいという話を聞いたの。それも、委員長が能力者じゃないかと疑いを持った理由ね」


 と七原が補足した。


「……なるほどな」


 遠田が深く頷いた。

 遠田の弟は能力が原因で家出をしたという事があった。

 その事を思い出して納得しているのだろう。


「そういう経緯で、委員長に話を聞かないといけないということになったんだ。そして今、双子が委員長と接触している。さっきの話を聞いての通り、委員長は能力者のようだ。犯人で決まりだろう」

「そうか。それで、これから詳しい話を聞くところなんだな。たった半日で、ここまで調べたのか」

「まあな。急いでいたから」

「何で?」

「これも話すと長いんだが……」

「委員長は校舎裏の森でテント暮らしをしてるんだ」

「テント!?」


 遠田が目を見開く。


「それって、ちょっとした事件だろ」

「そうだな。教師とかに知られたら大問題になるだろうな」

「何で、そんなことに?」

「単純に他人に迷惑を掛けたくなかったからだろう。たぶん、夏木も似たような生活をしてたと思うぞ」

「そうだけど。寺内さんは女の子だ。夏木とは話が違う」

「その点は大丈夫だと思う。発火能力なんてものがあれば恐れるものはないだろ」

「寺内さんの能力が実戦に役立つようなものとは限らないだろ。戸山の鞄から煙を上げさせるのが精一杯なのかもしれない」

「確かにな。でも、どっちにせよ、委員長に発火の能力があるということは、つまり、それを得るだけの攻撃性を心の底に秘めているって事だ。いざとなったら何をするか分からない。護身用に刃物とかスタンガンとか、そういうものを持ってるかもしれない」

「そうか……」


 遠田と七原が神妙な顔をしている。


「まあ、どうだか知らないけどな。こういった攻撃系の能力を持つ能力者は、そういう傾向があるってだけだよ」

「恐ろしいな」

「ああ、恐ろしいよ。だから、委員長が能力者と分かった以上、一分一秒でも野放しにするわけにはいかない」

「そんなこと、実際には不可能だろ?」

「いや、やるんだよ。やるしかないんだよ。今日中に解決できなかったら、誰かが引き取る。自宅とかテントとか、そういう問題が起きそうな場所に一人で帰す訳にはいかない」

「……そうか。そのときは、わたしに任せてくれ。何とかするから」


 二秒考えただけで、そんな決意をしてしまう遠田は、つくづく男前だなあと思う。


「まあ、それは後で考えよう。今日中に片付ければ問題はないから」

「そうだな」

「これで大体の経緯は話した」

「そうか。理解したよ。理解したんだけど……」


 そして遠田は言い辛そうに口を開く。


「あと一つ気になる事があるんだけど……聞くのを止めようかなと思ったけど、一応聞いておく……でも、言えないのなら、それでいい」


 遠田が、歯切れの悪い口調になるのは珍しい。


「何でも聞けばいいだろ。答えられないことは答えないだけだ」

「じゃあ聞く――上月さんが言ってた『夏木と戸山の愛の物語』ってのは?」

「委員長のただの妄想だよ」

「なんだ妄想か。その事実は知らされてないと驚いたよ」


 遠田は一瞬ホッとした顔になるが、再び首を捻る。


「……でも、じゃあ何で、上月さんは、そんな話を持ち出したんだ?」

「委員長は、俺と夏木の話をテーマにして一冊の同人誌を作ってたんだ。その話題を出して委員長にり寄ろうとしたってだけの話だよ」

「なるほど。そういう事か」


 遠田は全て腑に落ちたという顔で頷いたのだった。


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